元海賊の商会

 会談の後、リザと合流した。

「友人と二人で話したい」と兵士に告げて、リザだけと夕食を共にした。配下たちには好きにしてもらう。


 自室にて、アンはリザと二人きりに。


「カーッ!」と声を上げながら、リザはシードルでノドを潤した。自分で氷魔法によって、シードルを冷やしている。

「こいつは最高だね。ただのリンゴから、こんなにウマい酒が造れるなんて。ティーカップで飲むってのも、オツじゃないか」


 シードルのアルコール度数はかなり低い。だが、口当たりが良くて、ジュース感覚で飲める。

 つまみは輪切りのアンドゥイユだ。豚の腸に内臓、バラ肉を詰めたソーセージである。


「あんたも一杯やりなよ、アン」

「いただくわ」


 懐かしい味が、ノドに染みこんできた。


 リザとレオの二人と組んで、数日が経っている。悪徳貴族が絶えることがない。終わりの見えない貴族退治に、アンの心は正直痩せ細っていった。


 ずっと子育てや世直しで、こうしてゆったりと酒を楽しめたことはあっただろうか。


「フランスって言えばワインってイメージがあったけど、こいつはクセになるね。炭酸だから肉に合う!」


 ナントやブルターニュ地方は、ブドウが作れる地域を越えてしまっている。そこで、リンゴを使ったシードルが名産となった。


「ノワールムティエは、海産物が豊富って聞くじゃないか。楽しみだね」

 何も考えていないわけではない。彼女なりにアンをリラックスに導いているのだ。


「アン、何かあったっぽいね。話しなよ」


 リザに図星をつかれ、アンは経緯を話す。


「カゾーランか。イヤなヤツが相手だね」


「知っているの?」

 アンも、去年の里帰りで視察に来たとき、一度しか見た記憶がない。


「あたしをイタリアから追いかけてきた奴らさ」

 カップにシードルを注いで、リザはグッと飲み干した。


「どんな奴らなの?」


「平たく言えば、海賊上がりだよ」

 シードルをチビチビと飲みながら、リザはアンドゥイユをつまむ。がぶっと口に放り込んだあと、油が付いた指を舐めた。


 カゾーランは、海賊業でせしめた金をクリーニングして、商業ギルドに取り入ったという。


 ギルド側が、彼らにロクな権限を与えるはずなどない。

 しかし、ここ数年で代替わりが起き、風向きが変わった。


「悪党が幅を利かせてきた、と?」


「おまけにね、エチエンヌはカゾーランと手を組んでいたのさ。あいつらも転売ヤーの一味ってこと」


 バロールとカゾーランの線が繋がった。


 マチルドを襲った盗賊も、カゾーランの手の者かも知れない。


「冒険者ギルドの助けも難しそうだ。商業ギルドに睨まれて尻込みしているか、買収されている可能性が高い」


 なにひとつ対策していない辺り、その線が濃厚だろう。


「アンジェリーヌの存在が、ノワールムティエでも必要になってきたね」


「それなんだけど、ちょっと考えがあるの」

 リザに耳打ちをする。

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