伝史聖獣《レ・マシーン》 ド・リル

 馬車を使い、再びクロ・リュセ城へ。レオの調査結果を聞き出すためだ。


「お待ちしておりました」

 連絡もしなかったのに、レオは入り口で待ち構えていた。


「どうして私が来ると分かったの?」


「蹄の音です」

 興奮気味に、レオは答える。

「アン殿は、馬の扱いに独特のクセがありましてな。響きがリズミカルなのです。馬に負担をかけまいとなさっている」


 そんなこと、初めて言われた。


「あなたにつきまとわれたら、逃げ場がなさそうね」

「仕事柄、命を狙われることが多かったので。ささ、こちらです」 


 レオを伴い、地下道を進む。


 妙にレオがウキウキしているのが、アンは気になっていた。




「随分と楽しそうね?」


「面白いですぞー。大発見でした」

 まるで子どものように、レオは身振り手振りが大きくなる。

「遺跡一帯にある数々のガラクタがなんなのか。何を意味するのか。以前から気になっていました。実は、バラバラになった部品だったようなのですぞ」


 レオは部品をかき集めて、つなぎ合わせてみた。何日もかけて。


「あれです」


 レオが指さす方角には、白い布きれに覆われた物体が。一〇メートル以上はある。


「見てください。こんな形になったのですぞ!」

 レオが、ぶわっと布を取り払う。


「これは、ゾウね」


 全長一二メートルはあろうゾウが、地下研究室に鎮座していた。


「これは、『伝史聖獣レ・マシーン・ド・リル』というのですね?」


 トリセツを見ながら、レオがアンに確認を取った。


 丁寧につなぎ合わせた結果、どうしてもゾウにしかならなかったという。


 穴の開いた関節部分は、大昔のお金だとずっと認識されていた。レリーフかと思われた湾曲した鉄板は、胴体を覆う装甲だったらしい。


 研究者たちの見識は、何もかも違っていたのだ。


「いつの時代のカラクリでしょうか? 『トロイの木馬』に似ていますが、それよりも古い気がします。それでいて、現代よりも新しい作りですね」


 摩訶不思議な機械に、さしものレオも目を丸くしている。


「ケルト人の時代だから、紀元前にはあったでしょうね」


 現時点でフランス最新のテクノロジーと、最古の魔術が融合した未知なる研究の数々だ。


 しかし、読書家のアンですら、大部分の用途が分からない。唯一、クラウ・ソラスだけは持ち出したが。



 ナントのブルターニュ大公城に工房を作る方法もあった。


 けれども、当時一〇代の少女に実権などなく。


 この城は、パリとナントの中間ポイントにある。悪巧みをするなら、絶好のアジトだ。


 とはいえ、優秀な学者がいなければ、たとえケルトの秘伝があったとしても、宝の持ち腐れである。


 ずっとアンは、この倉庫に眠る技術を目覚めさせる頭脳を探していた。

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