クロ・リュセ城へ
ノワールムティエまでは、馬車でおよそ一日半程の旅になる。
「クロ・リュセ城を目指して。やりたいことがあるの。ロアール川も近いから、馬も休ませましょう」
「御意」
二時間ほどして、クロ・リュセ城が見えてきた。
前の夫シャルルから譲ってもらった、アンの別荘である。
ここからロアール川沿いに進む予定だ。ナント地方を通り過ぎて、南西に向かうルートを目指す。
「アン殿、お気をつけくだされ。いつバロールの手の者が襲ってくるやも知れませぬ故」
「心得ているわ」
昼食後のティータイムで、レオがアンを気遣う。
「それと、これは小耳に挟んだのですが、どうもノワールムティエには、剣術の達人がいらっしゃることとか」
「どんなヤツなの?」と、アンは身を乗り出す。
「少し長い髪を後ろに縛った、細身の男だとか。聞けば、ニホンの出身ではと」
娘のクロードも、同じことを言っていた。
ニホン人か。たしか島に飲食店を出したのも、ニホンの生まれとか言っていた。
「その日本人と達人って、繋がりは?」
「さて。実物を見て見ぬコトには」
情報通のレオでさえ、分からないことがあるのか。
「それとレオ、あなたはここに残ってちょうだい」
「はっ。やはり、ポンコツは足手まといでございましょうか?」
卑屈になるレオを、「そうじゃないの」と慰める。
「付いてきて」と、アンはリザとレオを、地下室へ連れて行った。
「ここは、兵士ですら知らない秘密の場所なの。ケルトの伝承を守るため、私が作らせたのよ」
ロウソクの火だけを頼りに、狭い道を進む。
「おお、これはアン大公。恐れ入ります」
地下にいたのは、スキンヘッドの男性だ。この洞窟の守人である。
「ご無沙汰していますね。ナントにも顔を出します」
「それはありがたい。では、こちらへ」
守人の案内で更に奥へと向かう。
しばらく歩くと、広い空間に出た。小規模の屋敷一つ分くらいはあるだろうか。
守人と同じ服を着た研究者が、屋敷にあるアイテム類を調査をしている。
「ほーお!」と、レオは感嘆の声を上げた。
地下にこしらえた部屋には、ナント伝承の武器やアイテム、骨董品が眠っている。中でも、全長一〇メートルはあろう物体が、白い布にかけられていた。
現時点でフランス最新のテクノロジーと、最古の魔術が融合した未知なる研究の数々だ。
しかし、読書家のアンですら、大部分の用途が分からない。
唯一、クラウ・ソラスだけは持ち出したが。
「あなたには、ケルトの伝承の探索をしてもらいたいの」
「ドルイドの方たちと?」
さすがイタリア随一の頭脳である。彼らをドルイドだと一発で見抜いた。
「話が早いわね。お願いできるかしら?」
「かしこまりました」
「ノワールムティエの用事が済んだら、迎えに戻ります」
レオを一人残し、アンたちはナントへ。
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