第一章 完 リザとの友情
伯爵は死んで、エチエンヌ家は取り潰しに。ただ、彼の家族は別の領主の保護下へ入ることになった。実権はなくなったが。
また、エチエンヌに従っていた野盗や兵士たちも、全員が逮捕された。
残りの美術品がどこにあるか、誰一人として口を割らない。
忠誠心からではなく、本当に知らないようだ。
結局姿を見せなかった、バロール教団の動向も気になる。
「ほえーえ」
新居を見渡して、リザがため息をつく。
アンは私財をある程度だけ処分して、リザとレオに家を買い与えた。セーヌ川のほとりにある家である。部屋は狭いが、見晴らしがよくて市場にも近い。城からここまでのルートは、複雑に入り組んでいる。隠れ家としてはもってこいだ。
リザはベッドにダイブし、レオは引き出しを手当たり次第に開ける。
「絵画の道具も揃っていますぞ」
油絵に必要な備品も、一式用意した。
これでレオも、仕事に没頭できるだろう。
「でも高かったろ? あたし、一生懸命働いてお駄賃返すからさ」
「いいのよ。フランスを救った二人に、ささやかな贈り物よ」
「ありがとう。正直、宿屋暮らしは窮屈だったから。これで安心して、あんたの手伝いができるよ」
「協力してくれるのね?」
「もちっ」
アンとリザは、握手を交わす。
「元々、あたしらがバロールにケンカを売ったんだ。むしろ感謝するのはこっちだ。アンジェリーヌ」
リザは、アンを偽名で呼んだ。
「まだ、その名で呼んでくれるの?」
「あたしにとっては、あんたはアンジェリーヌ・ブランシェだよ。あんたがケルトの血を引いてようが、どっかのお妃様だろうが、それは変わらない。あんたは、おせっかいな没落貴族のシングルマザー冒険者さ」
貴族も平民も関係ないと、リザは言う。分け隔てなく友情をかわそうと。
これまでの信頼関係を、アンは築いたことがなかった。
王族や貴族の間では、誰とでも上か下かの関係でしかない。オルガとですらそうなのだ。
しかし、これだけ対等でいようと強く訴えかけた人物は、リザくらいである。
「ワタシもお手伝いしますぞ」
「レオも、ありがとう」
「いえいえ。アン殿は、命の恩人ですからな」
ほんの少しだけ、アンは気が楽になった。イーブンで話し合える仲間ができたから。
「ですが、気になることもございます」
「分かっているわ。エチエンヌ家が掲げていた紋章のことよね?」
エチエンヌ家は、自身の紋章の他に、不気味な紋章を持っていた。
上半身が胸の大きい、下半身がヘビの女である。
「ヴィーヴル」
ドラゴンの血を継いだ女性たちの総称だ。異教徒の魔女として、アンの故郷であるブルターニュを追放された過去を持つ。
アンの故郷であるブルターニュは、ケルトの血を濃く引き継いでいる。
ブルターニュに復讐するため、バロールと手を組んでいてもおかしくはない。
――ドンときなさい、バロール教団。私は戦う。命ある限り!
バロールとの避けられない戦いを前に、アンは決意を固めたのであった。
アン・ド・ブルターニュの戦いは続く!
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