成敗《ピュニール》!

 今の発言だけで万死に値する。


 だが、オルガからは「王妃である身分上、無闇に殺生をしてはならぬ」と釘を刺されていた。峰打ちでガマンするか。


 チャキ、と剣を構える。


 兵隊が四方から襲いかかった。

「ぬん!」


 剣を振り回しただけで、兵隊たちが吹き飛んでいく。


 尚も斬りかかる兵士の剣をたたき落とした。剣の腹で、肩に一撃を食らわせる。


「ギャン!」と犬のように甲高い悲鳴を上げて、屈強の兵士が昏倒した。


 背後に回っていた兵士の頬に、剣を見舞う。


 鉄カブトがひしゃげて、壊れた人形のように兵士は倒れ込んだ。


「ただのババアが、どうしたの?」

 大剣を肩に担ぎ、次の攻撃を要求する。

「次にお仕置きされたいヤツは前に出なさい」


 アンが挑発しても、兵隊は怖じ気づいてしまい、襲撃に来ない。


「何やってんだよぉ~! 相手はたった一人だぞ、ぶっ殺せ~」

 伯爵がわめき散らす。


「ひとりじゃないよ!」

 兵士の三分の一は、リザが引き受けていた。風魔法を駆使して、兵隊の陣形を切り裂く。


 レオは戦闘経験が浅いらしい。それでも、逃げ回りながら城の構造を利用して、兵隊の数を分散させる。そこへリザが魔法を打ち込んで倒すのだ。


「こうなったら~、先生お願いしますよ~」


 アンの前に、二メートル近い大男が現れた。

 全身を鋼鉄の鎧で覆い、大剣が通らなさそうな頑丈さを見せつける。歩いているだけで、大地が揺れた。


 男はアンを握り潰そうと、両手を伸ばす。


 あっさりと、アンは男の手を掴んだ。


 ガクンと、男の膝が折れる。アンの力に負け、立ち上がれないでいた。


「どうしたの? ご自慢の怪力で私を捕まえるんでしょ?」


 脂汗をかきながら、男は立ち上がろうとする。しかし、ガッチリとロックされた状態で、動けないようだ。


 男のアゴに、アンは膝蹴りを喰らわせた。


 鞠のように、男の顔がバウンドする。

 アンがもう一発ヒザを浴びせると、男は白目を剥いて後ろに倒れた。

「残るはあなただけよ、伯爵」

 

 配下をすべて倒され、切り札も敗れている。

 苦し紛れに、伯爵は笑い出した。


「へへへへ、そうだぁ~。この美術品はあんたにタダで譲ってやるよぉ~。だから見逃してくれよ~」


 哀れな男だ。そんなことくらいで、自分の罪が消え去ると思っている。


「その方の所業のせいで、どれだけの血が流れたか分かっているのか? 貴様の所業、万死に値する!」


「そうかよ、だったら死ねよ~!」

 隠し持っていたナイフを、伯爵が取り出した。


 アンは軽々と、大剣でナイフをたたき落とす。 



成敗ピュニール!」



 アンが叫んだ。


 レオが背後から伯爵を撃つ。

 リザが魔法を唱えて、伯爵を焼き尽くす。


 後は、炭化した伯爵だけが残った。


 アンは、剣を納めようとする。



 そのとき、月の色が血に染まった。



「何事!?」

 リザが周囲をうかがう。


 その背後に、毛むくじゃらの手が迫った。まるで大木のように大きい。


「危ない!」


 アンは、リザを突き飛ばす。


 だが、魔物の手に胴体を掴まれてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る