卑劣なり伯爵!
クラマールにあるエチエンヌ伯爵城。
その屋外にあるオークション会場で、リザとレオは兵隊たちに囲まれていた。
ただのマメ畑だった広大な庭園に、骨董品や美術品がずらりと並ぶ。それらはすべてが本物だ。しかも、贋作まで作って入れ替えてある。
私兵たちが、二手に分かれた。
「飛んで火に入る夏の虫とは、お前たちのことだ~っ!」
でっぷりと太った貴族風の男が、こちらに向かってくる。顔をなめ回すよう視線をリザに向けた。
不愉快極まりない。リザは顔をしかめる。
「アンタの野望もこれまでだよ!」
短剣を掴んで、リザは兵隊たちを睨む。
「バカが~っ、これだけの数をどうやって倒すというのだぁ~?」
五〇人近い兵隊に囲まれ、リザは壁際に追い詰められていた。
「たとえあたしたちが倒れても、フランスがあなたを見逃さない!」
「うるせえなあ~。フランスがオレら貴族に何をしてくれたよぉ~。クッソ高い税金払わせといて、負け戦で全額溶かしやがってよ~。もうフランスのためになんて働いてやらないもーん」
ゲヘヘ、とブタのような笑い声をあげて、伯爵は美術品を見せびらかす。
「見ろ、この芸術品をっ! こいつを売りさばいて、オレはのし上がるんだぜ~」
このままでは、世界中の芸術品が伯爵の手に渡ってしまう。
「あたしは、世界の文化を守る! バロール教団なんかに屈しない!」
「果たして、どこまでやれるかな~」
伯爵の号令で、兵隊たちがリザたちに殺到した。
リザは詠唱を開始。四、五人を一気に、風の魔法で切り裂く。
レオの火縄銃が、敵の分厚い装甲を貫いた。彼にも魔法の心得がある。弾丸を強化して、威力を増したのだ。
いける。少数相手なら、まだ勝ち目はありそうだ。問題は数である。
魔法で一気に兵士たちを始末することだって、リザにならできた。だが、できない。そんなことをすれば、ここにある美術品まで灰にしてしまうからだ。それだけリザの魔法は強力なのである。できれば一体一体相手をしたいが。
「ぬう!」
レオが、羽交い締めにされた。やはり、強化魔法は時間が掛かりすぎる。
「これまでだなぁ~。エルフよぉ~。お前もダ・ヴィンチともども飼い慣らして、オレのコレクションにいれてやんよぉ~」
伯爵の下品な笑い声が、屋敷の庭に響いた。
「どういう意味?」
エチエンヌは、美術品の一つを配下に持ってこさせた。怪しげなツボだ。
「これらの美術品に人間の血を一体分捧げれば、邪神バロールの復活が近づくのよぉ。エルフの血はさぞかしうまかろうよゲゲゲェ!」
とらわれの身となったリザの首に、ナイフが突きつけられる!
「安心しろよ。お前は一滴残らず血を搾り取って、エルフのミイラとして売ってやっから。さてさて、どんなヘンタイさんに買われるかねえ? グヘヘヘヘ!」
これまでなのか?
その瞬間、一筋の光が、伯爵の頭を小突いた。
伯爵の足下に、小石が転がる。
兵士が油断している間に、魔法の風を起こした。レオを押さえ込んでいた兵士を吹き飛ばす。どうにか、レオを奪還した。
「だ、だれだ~?」
頭をさすりながら、伯爵が月夜に照らされた庭園を見回す。
城壁の上に、女性が立っていた。
銀の髪飾りに負けない美しさを持つ、ショートボブの女性が。
革ヨロイひとつまとわず、まるで買い物帰りのような出で立ちで。
しかし、腰にぶら下げた訓練用の両手持ち剣が、主婦めいた女性に似つかわしくない異彩を放つ。
あのシルエットには見覚えがある。間違いない、アンだ。
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