お毒味役 ジャネット

「ほら、食べるッスよ」

 ソーセージを割り、きょうだいたちに食べさせる。


 ジャネットがほっそりとしている理由に、アンは納得した。彼女は、少しも食べていないのだ。


「お姉ちゃんは?」

 一番小さい子どもが、ジャネットを気遣う。


「アタイはいいッス。ガマンできなくて一本買い食いしたッスよ」

 ウソが痛々しい。


「この人は誰?」

 一番大きい男の子が、ジャネットの後ろに立っているアンを指さしてきた。


「私はジャネットのお友達よ。そうよね?」


「そ、そうッス」

 ジャネットが、アンのウソを肯定する。


「あなたご両親は?」

 アンの質問に、ジャネットは首を振った。


「流行病で死んじまって」


 聞けば、この子たちも孤児であり、全員両親が違う。


 大きくなった人が、下の面倒を見るという約束をかわしていた。今は、ジャネットが年長なので、役割を買って出ている。


「アタイの上に、ジャンって兄貴がいたんスけどね。しくじっちまって、これッス」

 ジャネットが、自分の首をかき切る仕草をする。

 

 おそらく貴族に殺されたのだろう。今日のジャネットと同じことをして。


 七人の家族が、互いを囲んで暮らす。一人が稼ぎに出て、食べさせている生活だ。


「メイドの仕事を得た経緯は?」


「オルガさんに捕まって」


 食べ残しを盗もうとして、ジャネットはオルガに見つかったのだとか。

 逃げ足の速さを買い、夫人は使えると思ったらしい。


 翌日、睡眠薬入りの食べ残しを捨てたら、ジャネットは手をつけなかったという。鼻も利くと分かり、夫人は彼女をメイドとしてスカウトした。


「傷んだ食事を食べて苦しんだことがあったので、それ以来、鼻が利くんスよ。その腕を買われて、お毒味役を務めているッス」


 ジャネットの逸話を聞いて、アンは考えを巡らせた。


「アタイの稼ぎじゃ、どうしてもと二人分食わせられなくて。盗みもするようになったッス。それで得た小づかいで、やっと兄弟分食えるように」


 ジャネットは、アンに頭を下げる。


「すいませんッス。死んでもお返しするッス! なんなら売り飛ばしてくれてもいいッス! だから、こいつらだけは見逃してやってください!」


 ただ事ではないと思ったのか、きょうだいたちがジャネットを取り囲む。大きく手を広げて、アンが手を出せないように壁となった。


「道を開けて。ジャネットをいじめたりしないから」

 攻撃の意志がないことを、アンはきょうだいたちに告げる。


「アタイ、どうなっちゃうんでしょう?」


「それは、王宮に帰ってから決めます。この子たちの処分も含めて」

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