聖剣 クラウ・ソラス

「あいつ、貧乏な芸術家をだまして、格安で絵を描かせていた。贋作をね。それを、伝統ある芸術品と入れ替えようって腹さ」


 博物館・美術館から品々を盗み、バロールについて隠された暗号を解く作戦らしい。


 レオも、関与させられそうになったらしい。


「ワタシは、バロールの秘密なんてまるで知らないんですがね。ですが、ワタシはメディチ家と縁が深い。財産に関して知らないのか、と、奴らは遠回しに聞いてきました」


 ごうつくばりな貴族だ。

 力さえあれば、何でも手に入ると思っている。

 バロール復活も狙いだろうが、財産が欲しいだけかも知れない。


「それだけじゃない。奴らが狙っているお宝のひとつは、聖剣クラウ・ソラスなんだ」


 ケルト最強の剣だ。伝説の中にしか存在しない。その上、形状すらも様々だという。

 同じケルトの伝承武器である、カラドボルグやフラガラッハと並ぶほどの知名度を誇っていた。

 振れば百発百中と言われている。

 バロールを倒した剣ブリューナクと同じ性質を持つ。

 あるいは、ブリューナクとクラウ・ソラスは同じ光る武器として解釈されているとも。


「伝説の武器も集めているの、伯爵は?」

「そう。でね、その武器の隠し場所が、ここパリだって言うのね」

 

 まさか。そんな話など聞いたことがない。

 アンも大概、文献を漁っている書籍マニアを自負している。数々の伝承も幼い頃から読み聞かされてきた。

 が、神話的価値のある芸術品がパリに持ち込まれたとは知らない。


「ふ、ふうん」

「何か知っているのかい?」

「べ、別にー」

「まあ、アンタが王族に詳しいってワケでもなさそうだし、いいんだけどさ」


 とにかく、伯爵はクラウ・ソラスを手に入れて、破壊しようとしているらしい。再びバロールが倒されないように。


「クラウ・ソラスを狙って貴族たちが動いているのね?」

「こちらが先回りして、見つけ出したいんだけどさ。心当たりがなくて」


 武器に関しては、手がかり一つないそうだ。


「面倒だから、先に美術品の独占自体をぶっ潰そうとしたんだ。そいつを探っていたら、イタリアから逃げるハメになってね」


 国王ルイ一二世に、計画の全てを告白しようとしたのだが、空振りに終わった。

 ルイ国王は現在、フランスにはいない。


 イタリアでニアミスもできただろう。しかし、逃走ルートを塞がれ、パリまで来ざるを得なかったという。


「運行場所は分かっています。エチエンヌ伯爵の家に美術品は持ち込まれるそうです」


 期日は二日後だという。


「伯爵の家は、パリからは近いわね」

「一緒に乗り込んでくれるかい?」

「もちろんよ。ぶっ飛ばしてやりましょう」

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