バロール教団

 リザが、羊皮紙を見せた。

「とある貴族が溜め込んだ、美術品のリストだよ」


 確かに、エチエンヌ伯爵という高名な貴族が、大量の芸術品を買い込んでいるのは分かる。


「イタリアで描かれた絵画や彫刻を、エチエンヌ家はフランスに集めようというのね」


「表向きはね。これを見て」

 リザは、絵画の作者を見せた。


「レオの名前まであるわ!」

「だろ? この貴族の依頼で描かされそうになったんだ」

「で、逃げてきた」


 レオがうなずく。


「でも、どうして? そんなに悪い金額ではないでしょ?」


 レオが偏屈であることは、さっきのやりとりで分かった。それにしても、貴族からの依頼を断るとは。


「エチエンヌ伯爵って、王族にも届こうか、ってほどの貴族でしょ? よほどいけ好かないのね?」

「正解です。依頼自体に妙な気配を感じまして」


 言っている意味が分からない。依頼が妙だと?


「分かりやすく説明してちょうだい」

「本来美術品というのは、それだけで価値のあるモノです。ですが、それ以外の目的があるのです」


 聞くと、宝の地図だったり、隠し財産の在処を示す暗号・キーワードになっていたりするのだとか。絵の具の材質や筆の走らせ方などの中に、緻密な計算の元、それら暗号を忍び込ませる。


「最近の芸術家って、そんなことまでするのね」

「まさか。美術品を使ってお宝の在処を隠すなんざ、古代の頃からみんなやってるよ。『スフィンクス像が見ている先にお宝が眠っている』って逸話も、盗賊団の間では有名な話さ」


 一般には知られていなくても、マニアの間では常識らしい。


 芸術品にうといアンは知らなかった。

 夫がイタリア遠征から帰ってきたら聞いてみよう。


「財宝の在処や、遺産の隠し場所を書き記すことも、芸術が持てはやされる理由の一つだったりします」


 そうやってパトロンを集めて、芸術家たちは生き残ってきたらしい。現金な話だ。


「モナ・リザを描いた腕を見込まれて、レオはエチエンヌ家から依頼を受けたんだ。けど注文が細かくて。紙や絵の具の材質から何まで。だから気になって調べてみたんだ。案の定、とんでもない奴らだった」


 机をドンと叩き、リザはまた酒をあおる。


「あいつら、バロール教団と繋がっていたんだ」


 バロール教団、ケルトの天敵だ。魔王バロールを崇拝し、フランスを滅ぼそうとする一団である。


「魔王バロールを復活させる手段を、奴らは狙っているんだ」

「美術品の中に、復活の鍵が眠っていると?」

「エチエンヌ伯爵のヤツは、集めた芸術品をバロール教団に売りつけるつもりだよ」


 転売ヤーとはそういう意味か。

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