レオの指摘

 夜、アンはリザに会うため、再び城を抜け出した。


 パリには同業者組合があるが、冒険者ギルドも例外ではない。

「冒険者ギルド」は、いわば「冒険もする職人・商人」の総称である。


「登山家リスト」のようなモノといえばいいか。

「冒険に出ました。失踪したらここにいるから探してね」

 という程度の制度だ。


 中には、百年戦争などで活躍した「傭兵団」のような、戦闘に特化したグループもいる。が、彼らにも本業があるのだ。


 ギルドの存在は、一五〇五年となった今でも続く。


「あったわ」

 アンは、剣のマークがある看板を見つけた。ここが、冒険者ギルドである。一見、ただの酒場だ。



「こっちだよ、アン」

 店に入ると、奥の席から声が掛かる。

 二人は木製テーブルに腰掛け、ソーセージなどの加工食品シャルキュトリをつまんでいた。



 ブドウ酒をオーダーし、席に着く。


「改めて、エルフのリザだよ」

「レオと申します。リザ様には、ワタシのボディガードをしていただいています。その代わり、リザ様の仕事をお手伝いしております」


 聞けば、四分の一ほど、ノームの血が入っているのだとか。どうりでレオは頭がいいわけだ


「ところで、お子さま方は、お休みになられましたかな?」


「えっ、ええ。おかげさまで」

 レオは、アンが子どもたちを寝かしつけた後にギルドへ来たことを知っていた。


「どうして、レオは私が子持ちだと分かったの?」

 隠していても仕方がない。娘が二人いることだけ明かした。


「服がユルい。また、裾にわずかな絵の具の跡がありました。あなたがつけるには、場所が低すぎる。ご自分で手をスカートで拭いたなら別ですが」


 この男、あのとき倒れたフリをして、アンのことを観察していたのだ。アンが信用できる相手かどうか。


「私は、合格でしょうか?」

「十分よ。ただ、あまり私のことは詮索しないで。慣れていなくて」

「申し訳ありません。節操なしは生まれつきでしてね」

 悪びれもせず、レオは口ヒゲを泡まみれにした。この野郎め。


「で、そんな天才の二人が、どうして逃げた来たの? あんたたちなら、あの賊ですら余裕で倒せたでしょうに」

 先日気づいた点を、アンは指摘した。


「見抜かれてたか。悪いね。実は一目見て、あんたはできると踏んだんだ。それでレオと打ち合わせして、一芝居打ったのさ」

「そんなに私を、腕が立つ女だと思っていたの?」

「四キロ近くある大剣を振り回しといて、よく言うね」


 この剣の重さを、触りもせずに調べたのか。たしかに三.五キロある。


「あんたは普通の主婦として振る舞っているつもりだね。けど、姿勢や立ち居振る舞い、どこをみても立派な貴族さまかなと思われちゃうよ」


「バレてはしょうがないわね。実は」

 ひとまずアンは一拍おき、アイデアを巡らせてから話す。


「没落貴族なの」


 自分はブランシェ家の三女で、とある貴族と結婚した。二人の子宝にも恵まれる。

 しかし、先の戦争で夫に先立たれた。家も取り壊しに。

 娘二人は実家にて面倒を見てもらっている。

 剣術は、自衛のためと、冒険者として自分で生計を立てるために習った。


 と、適当なエピソードを並べ立てる。


「苦労なさったんだね」

 言いながら、リザはきつい酒をあおった。


「そうでもないわ。娘がいるから」

「大丈夫。あんたを危ない目に遭わせるつもりはないから」

「ありがとう。それで、なんの仕事をすれば?」


「転売ヤー潰し」

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