マリア・ヴァレンタイン【3】

【3】


 マリアの提案にのる事にした快斗は、マリアからアイツについて学んでいた。


「俺はカイト!カイト・ウエルフ!よろしくな!」


 サッと右手を差し出しながらそう言うと、マリアが深いため息を吐いて答えた。


「違う、違う。アイツはそんな爽やかなヤツではない。もっとこう…」


 首を左右に振りダメ出しをするマリア。


 ならばと、快斗は違う感じで演じてみる。


「オ"、オ"レ、オ"レはカイト…カ、カイト・ウエルフ…よ、よろひくな…」


 低いトーンで弱々しく自己紹介をしてみる。


「……く、くくく」


 どうやら、マリアのツボをついたようだ。


「ふー。うん。大体そんな感じのヤツだ」


「いやいや、嘘ですよね…」


 などといった具合に、マリアから遊ばれるしどうされる快斗であった。


 ーーーーーーーーーーーー


 三時間後。


「良し。喋り方や仕草はまぁ、大体そんな感じでいいだろう。なあ快斗」


「なんだ」


「いや、私の前では快斗でいい。快斗は快斗であってカイトではないという事を忘れるなよ」


 言われなくても。と、思う快斗であったが、マリアが自分を気遣って言ってくれているという事ぐらいは分かる為、にっこりと微笑みながら、お礼を告げた。


「ありがとう。しかし、普段から慣れておかないと、うっかりボロを出してしまうかもしれないからな。コレはその対策さ」


「…そうか。こちらはお願いしている身だからな。どうするかはお前に任せるさ」


 ーーーーお前?


 それは果たして、快斗を指すのか、カイトを指すのか…。


 快斗には判断できない事であった。


「良し。それじゃあ次は、戦闘訓練にうつるとしよう」


「わかった」


 ーーーーさてと。ここからが本番だな。


 サバゲーのリーダーとしての資質。素質。


 勿論、サバゲーをやった事はない。


 しかし、モデルガンを打った事はある。


 少年時代。


 ゲームが流行ったり、ドッジボールが流行ったり、エアーガン戦争が流行ったりと、色々したものだ。


 エアーガン戦争。


 おもちゃ(モデルガンやエアーガンという)の銃を使い、B.B弾と呼ばれるおもちゃの弾(プラスチック製の小さな弾)を弾いて遊ぶゲームである。


 おもちゃの弾といっても、目にあたれば失明してしまう恐れがあったり、あたると痛い為、顔面を狙うのは禁止。服装は長袖に長ズボン、手袋にゴーグルにと、完全武装をしないといけない事を忘れてはならない。


 ーーーーフフフ。手榴弾として、水風船を投げまくったものだ。


 思い出に浸っていると、マリアから声がかけられる。


「良し。外に出てろ」


「ああ…って、その格好で出るのか?」


 マリアの格好は、白いワンピースのような格好の為、白くて綺麗な細い腕や足が見えてしまっている状態である。


 サバゲーには不向きな格好だぞ?と、快斗は注意したのだった。が、


「……てけ」


 快斗の質問に対しマリアは、何故かプルプルと震えながらそんな事を呟く。


「…てけ?」


 聞き返す快斗。


 すると、バッと顔を上げ、マリアが叫ぶ。


「着替えるんだから出てけ!!」


 バン!!と、玄関の扉を閉めながら、先に言えよ…と、快斗は深いため息を吐くのであった。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 玄関前。


 空を見上げ、流れる雲を見る。


 空は青く、流れる雲は白い。


 雲の形は、わたあめみたいな形をしていた。


 まるで、あの訳の分からない日のようだ。


 気がつけば、美人だが残念な女性、残念系女子マリアに出会っていた訳なのだが、ここは何処なのだろうか。


 視線を空から地上に戻す。


 目の前には森がある。


 地面は土で、後ろを振り返ると、木の丸太などで作られた小屋が目に入る。


 ーーーーここはペンションか何かなのか?


 夏には、リア充供がバーベキューとかしていそうだな。などと考えていると、ガチャッと小屋の扉が開いた。


「待たせたな」


「…ああ。な、何だ、その格好は?」


 驚きのあまり、言葉を詰まらせてしまう。


 ーーーーサ、サバゲーをするんじゃないのか?


 マリアの格好は、どう見てもサバゲーをする格好ではない。


 銀色に輝く鎧を着ているマリア。


 ーーーーいや、西洋の甲冑かっちゅうだったか?


 バサッと黒いマントを翻しながら、マリアが歩き出す。


 黒いマントを羽織っているのは、擬態化を図る為なのだろうか?しかし、森に擬態化をするのであれば、黒ではなく、緑なのではないだろうか?


 ーーーーいや、待てよ。夜に向けてか?


 銀色の長い髪は、邪魔にならないようにと、後ろで一つ結びにしている。


 ポニーテールにしてある髪。


 白い手足を守る為の鎧、マント。


 サバゲーをするには、動きにくそうな格好だが、安全性を考えるのであれば、問題はない。


 しかし、一番の問題はこれだろう。


 地面から腰まである長い剣。


 銀色に輝くつかに、金色に輝く柄。


 2本ある長い剣。


 まるで、RPGゲームに出てきそうな格好ではないか。と、快斗は思った。


「な、なあ…」


 声をかけられずにはいられない。


「…なんだ?」


 くるっと振り返るマリア。


 バザバサ音をたてるマント。


 一瞬だけ、カッコいいと思ってしまった自分が恥ずかしい。


 ーーーーアホか!中二病でもあるまいし。


「そ、その…格好なんだが…」


 戸惑いを隠せない快斗。


 少しの間が空いてしまう。


「格好?ああ。お前はそのままでいい」


 間が空いてしまった所為で、快斗の質問は勘違いされてしまう。


 その格好なんだが。その…格好なんだが。


 勘違いをさせる言い方をしてしまったのは快斗なので、特に何も感じない。


 ーーーー確かに、俺は長袖に長ズボンだが。


 快斗の格好は、先ほどと変わらない。


 動きやすい格好であり、弾があたっても、あまり痛くないような格好だ。


 しかし、相手は鎧でこちらはただの服。


 RPGゲームで例えるのであれば、青銅の鎧に旅人の服。ぐらいの差がある。


 ーーーーまあ、マリアは女性だしな。し、しかし、あの剣といい、この前のモーニングスターといい、この国のサバゲーというのはどうなっているんだ?


 女性だからと考慮するのであれば、鎧なのは納得する話しなのかもしれない。


 しかし、剣って何だよ 笑。


 そう思わずにはいられない快斗であった。


 ーーーーーーーーーーーー


 しばらく歩く二人。


「良し。この辺でいいだろう」


 立ち止まるマリアはそう言いながら、こちらに顔を向ける。


 ーーーーおいおい。


 周りには何もない。


 いや、正確には森の中なのだから、木がそびえ立っている。


 円状になった地面。


 下は雑草が生えている。


 休憩ポイントのような場所。


「なあ。武器はどうした?」


 快斗がツッコんだのは、サバゲーをする為の道具ぶきが見当たらなかったからであった。


「ほら」


 と、言いながら、マリアは金色の柄である方の剣を差し出してきた。


「本来であれば、得意か不得意かを確かめたいところなのだが、すまない。アイツは剣を使うのでな。教えるのはコイツだ」


 快斗はカイトのフリをする事になっている。


 その為、マリアは剣を差し出したというわけなのだが、サバゲーをすると思い込んでいる快斗からしてみれば、到底納得できる話しではない。


「ちょ、ちょっと待て。銃じゃないのか?」


 サバゲーかと思いきや、まさかのチャンバラ。


 こうなるのは自然といえる。


「銃?お前は銃を使うのか?」


「い、いや、そうじゃなくてだな」


「悪いがアイツはコレだ。安心しろ。この私自ら稽古してやるんだ。この、マリア・ヴァレンタイン自らがな」


 ザッザッと、ゆっくり歩き出し、少し離れたところで剣を構えるマリア。


 構えるといっても、右手に持った剣は地面を向いており、左手は腰にあてた状態だ。


「良いか?良く聞け!私が教えるというからには、お前は今日から私の弟子になるということになるわけだ。願わくば、この私を超える、勇者となってくれ!」


 スッと、右腕をあげるマリア。


 剣先はこちらを向いている。


 そんな中、快斗はというと…


 ーーーーふざけんじゃねぇよ!!


 怒りでいっぱいなのであった。

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