マリア・ヴァレンタイン【2】
【2】
ここにいさせて欲しい事を告げた快斗は、具体的な話しを聞かせて欲しいとマリアに告げた。
「アイツのフリとおっしゃいましたが、俺は具体的に何をすればいいんでしょうか?」
アイツのフリ=勇者のフリと言う事は、言うまでもない事である。
「まあ、待て。先ほど快斗は言ったな?魔王を討伐するのが目的なのかと」
「はい。本来勇者とは、そういった事が仕事ですよね?」
内心では、魔王って 笑。と、思っている快斗。勿論、表情にも口にも出さない。至って真剣に、やる気に満ち溢れている。そんな表情で尋ねたのだが、マリアは小さくため息を吐くのであった。
「ああ。すまない。魔王はアイツの
「そうなんですか…」
いやはや残念。
とまではいかない。
流石に馬鹿にしすぎだろうと、快斗は自重した。
「あれ?いないとされているというのは、どういう意味なんですか?」
「ふむ。ドラゴンを見た事はあるか?」
快斗の質問に対し質問で返してくるマリア。質問にはあまり答えない。そういった性格なのだろう。と、快斗は思った。
見た事はあるかと聞かれたが、覚えているか?という意味もこめての質問なのだろう。勿論、答えはノーだ。
ーーーー魔王の次はドラゴンかよ…勘弁してくれ。
などと内心思いながら、マリアの返事を待つ。
「さて、君はドラゴンについてどう思うかな?」
「そ、そりゃあ…でかくて強い。みたいなイメージです」
快斗の回答にマリアは、ふふふ。と、微笑んだ。
「イメージと言うからには、見た事がないのか、覚えていないのか。まあどちらにせよ、答えはここにある」
そう言うと、マリアはスッと立ち上がり、戸棚をゴソゴソとあさり始めた。
何だ?と、見つめる視線の先で、目的の物を手にしたマリアは再び席に着くと、テーブルの上にゴトっとそれを置いた。
紫色のガラス玉。いや、ひし形の形なのだから、ガラス玉というよりクリスタルといった方がいいだろうか。
手にとってみる快斗。
丁度、自分の手の平に収まりきるぐらいの大きさであった。
「…コレは?」
「ああ。龍の鱗さ」
「は、はい?」
ーーーーおいおい聞いたか?龍の鱗だとよ。
マジマジと眺めてみる。
キラキラしていて、とてつもなく硬いのは分かるが、コレが龍の鱗だと分かるはずがなかった。
「疑っているのか?」
ーーーーギク!?
どうやら表情に出てしまっていたようだ。
さて、どう返そうかと悩む快斗であったが、マリアが先に口を開いた。
「では聞こう。コレが龍の鱗ではないという根拠は何かな?」
「そ、それは…」
龍と呼ばれる存在が、架空の存在だからだ!という回答を持ってはいるのだが、果たして、マリアにそれを伝えてもいいのだろうか。
「なら、逆に、コレが龍の鱗だという根拠はあるのですか?」
考え出した末に導き出した答え。
コレが龍の鱗だという根拠は何なのか。
しかし、マリアからの答えは、いたってシンプルなものであった。
「私が倒した際に、手に入れたアイテム。それが根拠さ」
ーーーーマ、マジで言ってんのか?
もしやこれが噂の、残念系女子という存在なのだろうか。
喋らなければ可愛いとか、可愛いのにもったいないとか、色々哀れまれる存在。それが、残念系女子という存在である。
「そ、それは…す、すごい…ですね」
色んな意味でな。と、快斗は涙ぐむ。
「おいおい。泣くほどの事か?おほん。話しを戻そうか」
凄すぎて付いていけません。と、内心思う快斗ではあったが、とりあえずアイツのフリをする為にも、話しを聞かなくてはと、姿勢を正した。
「魔王は確かに倒された。しかし、もしかしたら復活している可能性は否定できない。それに、魔王の子孫がいたらどうだ?新たな魔王として君臨している可能性だって充分ありえる」
「し、子孫…ですか?」
「そうだ。我々と同じように、魔王にも寿命はあるだろう。エルフ族、ドワーフ族のように、長寿命の可能性がある事はあるが、それは未だに解明されてはいない」
「エ、エルフ族?ドワーフ族って、え?え?え?は?」
戸惑いを隠せない快斗。
「まさか、そこまで記憶がないのか?君は見たハズだが?」
「見た…ハズ?」
ゲームの事か?アニメか?漫画か?ラノベか?
「試合の日の事は覚えているのだろ?知らない場所に立っていて、知らない人達に囲まれていた。と、君は言っていたが、知らない人達の中に、エルフ族やドワーフ族、獣人族がいたのを、覚えていないのか?」
「アレは…」
仮面か、特殊メイクじゃないのか?
昔、でっかくなっちゃった耳が流行ったように、とがっちゃった耳〜。みたいなパーティグッズではないのか?
「さて、長くなっては飽きられてしまいそうだから、単刀直入に言うとしよう」
両肘をテーブルに置き、両手を重ねたマリアは、真剣な表情で説明する。
「君が、アイツのフリをする事にはもちろん意味がある。アイツのフリをし続ける事により、嫌でもアイツの耳に入る事になるだろう。そうすれば、アイツもひょっこり戻ってくるかもしれん。それにだ。流石に一週間もすれば戻って来るだろうさ。その間は勿論、食事などは用意しようではないか」
快斗が勇者のフリをし続ける理由、メリット、そういった事を説明しだしたマリア。
行く宛もなく、無一文の快斗にとってそれは、破格の条件ではないだろうか。
ーーーー勇者のフリというより、アイツと呼ばれるヤツのフリをするだけで、三食寝床付き…か。
「快斗の言う通り勇者とは本来、魔王を倒すのが仕事だ。しかし、魔王亡き今現在、勇者の仕事は何だと思うかな?答えは簡単だ。魔王の復活、あるいは、新たな魔王に備えての任務にある」
ーーーーに、任務?
「イーストゴッド。サウスゴッド。ノースゴッド。ウエストゴッド。これら4つの国々が競っているのが、勇者育成機関というわけだ」
「ゆ、勇者…育成機関…?」
「そうだ。アイツの父君の活躍もあり、現在最も大きな権力を握っているのは、イーストゴッドだ。しかし…いや、コレはやめておこう。なあ快斗。政治などには詳しいか?」
「ま、まあ。それなりには…」
詳しいです!とまではいかないが、彼は大学生である。そこそこ勉強はしているので、勉強していない人達よりかは、それなりに詳しい。
「うむ。高い権力を握る方法はただ一つ。結果を出す事にある」
政治だけに限らず、スポーツなどもそうだ。
求められるのは結果。
そして、結果を出した者や国が、一番強い、偉いとされている。
実力至上主義。
それは、どの国も変わらない。
「各国は高い権力を欲している。そして、その為の育成機関に力を入れるのは当然の成り行きだ」
両手をアゴから離し、テーブルの上に置くマリア。
表情は真剣そのものでいて、からかっているようには見えなかった。
ーーーーなるほど。
ここまでの話しから、快斗は何かを掴んだ気がした。
まず、間違いなく、マリアは誘拐犯などではないという事が、今の話しから分かる。
金が目的であるならば、さっさと電話をさせるハズであり、電話がありませんなどと言う、嘘をつく理由がないのだから。
4つの国々。
競っている。
つまりこれは、国取りゲームなのだろう。
国取りゲーム。
国ごとに別れ、相手陣地の制圧をしていき、最終的に国を多く手にした国が勝ち。
分かり易く説明するのであれば、サバゲーがいい見本だろう。
フラッグ戦と呼ばれる試合。
フラッグを国の象徴と見立て、二つのチームに別れる所から、ゲームはスタートする。
試合内容は至ってシンプル。
敵を銃で倒し、先に相手のフラッグに触れたチームの勝利というわけだ。
ーーーーフフフ。つまりアイツ、アイツと言っていたが、アイツとはこの国ゲームのリーダーなる存在であり、リーダーに似た俺に代役をして欲しいという事なのだろうな。
ーーーーそう考えるのであれば、あの日あった試合とやらは、リーダー同士の一騎討ちというヤツなのだろう。流石に、モーニングスターを使うのはどうかと思うが。
何が勇者だ。大袈裟な。ただのゲームのリーダーではないか。魔王とは敵の大将。良くアニメや漫画などでエルフ族は、弓の使い手とされている。つまり援護部隊。ドワーフならばその高い攻撃力と高い防御力で有名だ。つまり、最後の砦。または、迎撃部隊。
なら、初めから、サバゲーのリーダーをと言ってくれれば良いではないか。
しかし、相手は残念系女子なのだから、それを期待するのはどうなのだろうか。
ーーーーフフフ。サバゲーのリーダーをやるだけで食事が貰えるのであれば、答えなど一つしかないではないか。
龍の鱗など、まだ謎は残っているものの、快斗はとても穏やかな表情で告げる。
「俺で良ければ、やりますよ」と。
まさか異世界に飛ばされているなどとは、この時の快斗には想像すらしえなかったのであった。
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