第13話 どうやらジョブシステムがあるみたいです!
十三
ボクで最後となるSクラスの生徒は五人。ミサトちゃんを初め、クリス君、ノルド君、ネコーノ君の合わせて五人です。
30人は入れるSクラスの教室ですが、たったの五人だとさすがに広く感じるですね。
「よーし、席に着けぇ!」
五人しか生徒が居ない教室を寂しく感じていたら、ボクと一緒にこの教室へとやって来たレイドさんが教壇の前に立ち、ボク達に着席を促しました。
という事でさっそく着席しましたが、それぞれ思い思いの席へと着きました。ちなみにボクは最前列のど真ん中です! やる気満々です!
クリス君とノルド君は中列辺り、ミサトちゃんは最後列の席に着いてました。……ネコーノ君から逃げる様に。
そのネコーノ君はと言うと、結局ボクと同じ最前列の、教室の入口に一番近い席に着きました。どうやら、授業が終わって帰ろうとするミサトちゃんを逃がさない様にとの思惑がありそうです。
ともあれ、全員が席に着いて落ち着き、それを確認したレイドさんが話を始めました。
「席に着いたな? よーし、んじゃさっそく始めるぞ! ……と言いたい所だが、今日はそれぞれ自己紹介をして終わりだ。何せこの後、英雄の呼び声高いマキトさんが三階の広間で話をしてくれるそうだ。珍しい事もあるもんだな。とまぁ、それはさておき。まずは俺から自己紹介をする。俺の名前はレイドだ! 冒険者ランクはBで、『静かなる賢狼』というパーティのリーダーをやっている。ちなみにパーティランクもBだ。その俺が何故この学園の講師をやっているかと言うとだな、それは……何となくだ! ……と言うのは嘘だ! はっはっはっはっはっ!!
それはともかく、本当は講師としてこの冒険者学園に入ったんだが、講師が冒険者の資格を持たないのは変だという事で、一応冒険者として登録してるって所だな。ちなみに職業は【魔剣士】だ。それと、パーティメンバーも全員がこの学園の講師を務めている。ランクが上がったのは課外授業で長年魔物を狩っている内に、累計ポイントで上がったって事だな。あ、そうそう! 年齢は三十歳で、嫁は絶賛募集中だ! ……俺の自己紹介は以上だ!」
……陸サーファーみたいな感じですかね?
それはともかく、レイドさんは自己紹介でかなり重要な事を言ってました。
それは、冒険者ランクはポイントの累計で上がるという事と、冒険者とは別の意味で職業があるという二点です。
ランクを上げる為のポイント加算がどの様な仕組みなのかは、実際に冒険者になってみないと分からないですが、職業の方は何となく分かるです。
職業とはズバリ、『ジョブ』の事ですね!
これは、ボクがゲームなどをやり込んでいたからこそ分かる要素です。当時、何度も徹夜した事が思い出されます……。寝不足のまま仕事に行って、結局仕事が手に付かず……『秀夫』の奴に何度嫌味を言われた事か。……思い出すだけで腹が立って来たです。自業自得と言われそうですが。
……話が逸れたですね。ともかくジョブと言うのは、俗に言う『戦士』とか『魔法使い』とか、そういう専門職という意味ですね。
となれば、今のボクは差し詰め『魔法使い』になるですかね? それとも、双刃剣ブラフマーを二つに分けての二刀流という事で、『双剣士』になるですかね? まぁ、結局は学園で習わないと分からないですね。
「――という夢が有るから、俺は【聖騎士】を目指してる! 以上だ!」
「おぉ……! クリスは聖騎士を目指してるのか! だが、大変だぞ? 何と言っても、神聖魔法を修めた上で剣士及び戦士を極めないとなれない職業だからな! それもこの先二年間に掛かってると言っても過言では無いから、とにかく頑張れ!」
ボク自身のジョブが何なのかについて考えていたら、クリス君の自己紹介が終わってました。きっと大した事は言ってない筈なので、どうでも良いですね!
それよりも、再びレイドさんから重要な事を聞きました。クリス君が目指している聖騎士というのは、どうやら複数のジョブを一定のレベルまでマスターしないとなれないみたいですね。
という事は、双剣士というジョブは無いですかね? ……でも、ボクの知ってるゲームなんかだと、【忍者】とか【侍】などは二刀流だったりするので、もしかしたらボクは侍だったりして!? 夢が膨らむですね!
「――という事で、僕はドワーフでも魔法戦士として冒険者になれる事を証明したいのですよ!」
「ノルドも上級職を目指してるのか。だが、向上心は大事な事だな。それが人よりも早く習得するコツにもなる。それに、常にそういう事を心掛けていれば、ごくまれに自分だけのオリジナルの技を閃く事もあるからな!」
……ノルド君の事も聞き逃したです。まぁ、いいです。
それよりも、やはりレイドさんは気になる事を言いましたね。常に努力をしていれば、自分だけのオリジナルの技を閃くという事を。
それはつまり、戦士ならば普通の攻撃が普通では無くなるという事ですよね? 例えば、一度の斬撃に追撃効果が出るとか。
だとすれば、これも大事な事です……! だって、それを魔法に置き換えるならば、普通のフレイムボールの魔法が一発分で二発放たれる事と同じです。
とんでもなく有益な情報ですね、これは! これもしっかりと覚えておくです!
「――という事で、僕は猫に囲まれた生活を送りたいのですぞ! だけど、魔法使いにもなりたいのですぞ。…………そうですぞ! トキオの領主を受け継いだら、トキオを猫の楽園に作り変えれば良いですぞ!」
「…………次、ミサトだ!」
ネコーノ君はアホですかね? ミサトちゃんが言っていた様に、本当に猫には目がないみたいです。トキオの街を猫の楽園に作り変える!? ……想像したら、少し楽しそうと思ってしまいました♡
それはそれとして素敵ですが、次の自己紹介はミサトちゃんです。
ここはしっかりと聞かねばなりませんね!
しかし、猫の楽園……ですか。
ミャーミャーと愛くるしく鳴いて、潤んだ瞳で見詰めてきて、更にモフモフ。
あぁ……! 想像するだけで顔がニヤけてくるです♡
それに、幼い肉球をプニプニするのも良いですね♪ に、匂いを嗅いでも許されますかね!?
お日様の匂いの様な、あの何とも言えない匂いがボクは好きです♡ 想像だけで、幸せな気分になって来るです♡
そんな妄想をしながらボクは、ミサトちゃんの方を振り返ってチラッと見ました。
「――以上だニャ!」
……何ですと!?
猫で溢れるトキオの街を妄想してる間に、何とミサトちゃんの自己紹介が終わっていたです!
くっ! 不覚を取ったです……!
どうしてボクは考え事をしてるとそれに集中してしまうですかね……
この癖は直さないと、もしも魔物との戦闘中ならば命に関わる事になるです。気をつけねば!
「ほう……! ミサトはマスターシーフを目指すのか。それも一つの手だな。クリスやノルドの様に上級職を目指すのも困難だが、下級職とは言え一つの職を極めるのもまた困難だ。頑張れよ? それじゃ、最後!」
ボクの癖云々はともかく、今レイドさんが言ったように、一つの職を極めるのも良いですね。
そうなるとまた選択肢が増えて来ます。夢は膨らむですが、それに伴い悩みも増えるです。でも、色々な事にチャレンジもしたいですよね? ……器用貧乏になりそうですが。
「――リ? ユーリ! 聞いてるのか、ユーリ! ……お前で最後なのに。小難しい顔をしてないで、早く自己紹介しろ!」
「ふぇあっ!? は、ひゃいでしゅ!」
……癖を直さねば!
それはともかく、ボクは席から立ち上がり、自己紹介を始めました。
「ここに居るみんなは既に知ってるとは思うですが、ボクはユーリと言うです! 記憶喪失で名前以外は分からないですが、改めてよろしくお願いするです! それと夢ですが、この世界の謎を解き明かしたいですね! 以上です!」
「ユーリは記憶喪失なのか。あぁ、気に病むことはない。むしろ冒険者としてやっていくならば、その方が良いかもしれん。冒険者とは好奇心の塊だからな。記憶が無いなら、この世は知りたい事ばかりだろうし、それが活動する上での原動力ともなる。だから、頑張って立派な冒険者になれ!」
……中々に良い事を言うですね、レイドさんは!
ともあれ、これで担任講師であるレイドさんを含め、Sクラス全員の自己紹介は終わりました。
この後は確か、三階の広間でマキトさんの話を聞くんでしたね。……変態紳士のマキトさんの。
そういう事で、ボク達は三階の広間『修練の間』へと向かいました。
ちなみに修練の間というのは、全校集会みたいな物も行われますが、普段は生徒に解放されているらしく、時おり生徒同士で模擬戦などが行われたりするそうです。……つまり、喧嘩ですね。
その為、修練の間には強固な障壁を張る為のマジックアイテムがあるそうです。
「痛っ! あ、ごめんなさいです! 考え事をしてて、前を見てなかったです……」
前を見ているのに、見えてない。ありますよね、そういう事って!
とにかく悪いのはボクなので、ぶつかった人に謝りました。
「……ってぇなぁ! 人にぶつかっておいて、言う事はそれだけかよっ!?」
「えっ!? ボク、謝ったですよ!?」
「誠意ってもんがねぇだろが! 誠意を込めて謝るって事も知らねぇのか? ふん! これだから最近の若い奴らはダメだって言うんだ!」
この人は何を言ってるですかね? ボクはしっかり謝ったですし、最近の若い人がダメだって言ってるですけど、自分だって見た感じ十五歳程度です。……アホなんですかね?
それはともかく、ボクの目の前で怒っている男の子は、どうやら犬の獣人みたいです。雰囲気から察するにシェパードですかね? 切れ長の目に、筋の通った高い鼻。あ、口には立派な犬歯も見えてます。体毛や瞳の色はダークブラウンで統一されてますね。耳は獣人特有なのか、頭上にあります。ピンと立った耳は時おり音のする方に動いてますが、そこは犬の習性ですね。
ともあれ、どうにか怒りを鎮めてもらわないと、ですね。
「この度は本当にボクの不注意でぶつかってしまい、誠に申し訳ございませんでした!」
「……喧嘩売ってんのか? いいだろう。買ってやるよ、その喧嘩!」
ふぁ!? 今のボクの言葉のどこに喧嘩を売ってる要素があるです!?
それはともかく、修練の間の入口付近で騒いでいる為か、ボク達の周りには他の生徒達がたくさん集まって来たです。これは、避けられない展開ですね……!
昔取った杵柄を見せる時が来たです。……やってやるですよ!
「こんな所で何を騒いでいるのかね? ややっ!? 君はリトルレディユーリじゃないかっ! そうか……君も私の事を愛しているのだね。よろしい! 私もその愛に応えようではないかっ!」
「ひぃぃっ!?」
犬の獣人との喧嘩をやってやると意気込んだ矢先、変態紳士……マキトさんが、謎の言葉を吐きながらボクに抱き着いて来たです。それも背後からという事もあり、避ける事さえ出来ませんでした。
背後から抱き着かれた為、今朝の様に胸に顔を
「マキトさん! 俺に喧嘩を売ってきたそいつに何やってんだよ! つーか、丁度良いや。マキトさん、立会人になってくれよ!」
「むむっ!? 君はツヨケン君じゃないかっ! それはともかく、私のリトルレディユーリに喧嘩を売ってるのかね……? 事と次第によっては許さんぞ?」
マキトさん。ボクに抱き着いたまま凄んでも怖くは無いし、ボクの体はボクの物です。それに、犬の獣人……どうやらツヨケン君と言うみたいですが、そのツヨケン君が困ってるので止めて欲しいです。凄むのは。
ともあれ、ツヨケン君は事情をマキトさんに説明し、いざという時はマキトさんが仲裁に入るという形で、ボクとツヨケン君の喧嘩という名の模擬戦が行われる事になりました。
……という事で、修練の間の中央でボクは今、ツヨケン君と向き合ってます。
マキトさんが居る事でボクは若干怯えてますが、ツヨケン君はシェパードの獣人らしく牙を剥き出しにして威嚇してくるです。
しかし、ボクの言葉の何がツヨケン君をここまで怒らせたのか。……不思議です。
ですが、この世界で初めての喧嘩です。今のボクは女の子の姿ですが、男だった時は喧嘩では負け知らずでした。社会に出て色々と学んで次第に喧嘩もしなくなったですが、やはりこういうのは血が騒ぐです。
ともあれ、ツヨケン君はどんな事をしてきますかね? ワクワクして来たです!
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