第12話 喋るスライムのスラさん登場!

 

 十二



「な、何かな、ソレ……。僕の目にはちっちゃなスライムに見えるけど? ……と言うか、それって魔法なの!? 何だったら、早く人形を攻撃して見せてよ! すっごい気になるし! ……それとも、失敗かな? あ、でもでも、人形には君が直接攻撃すれば大丈夫だから、とにかく攻撃してね!」



 ボク自身唖然としてるのに、カミーサさんは人形をとにかく攻撃してと急かすです。

 しかしボクのイメージだと、このスライムは自分で考えて人形の弱点を突いた攻撃をする筈でしたが、何故に動かないですかね? ただ、プルプルと可愛らしく揺れてるだけです。……とりあえず、命令でもしてみるですかね?



「……あ、あの人形を攻撃するです!」


「ヌヴァー! 主よ。あの人形は敵では無いですよ? あ、それと、私を生み出してくれてありがとうございます。私の名前は……スライムだけに『スラさん』とでも呼んで下さい。という事で、私は主の肩辺りで待機させてもらいます。ヌヴァー」


「何ですと!? ……ひゃうっ!?」



 しゃ、喋った……ですと!?


 それはともかく、ボクの放った魔法のスライムは喋るだけに留まらず、ボクの命令さえも拒否したです。しかもあろう事か、そのままボクの足からローブの中を這い上がり、胸を通って首元から左肩へと移動し、そこでプルプルと揺れながら落ち着いてしまったです。……ボクの素肌をニュルっとした感触と共に移動するスラさんに、少し妙な気持ちになったです……


 ともあれ、人形を攻撃しない事には試験も終わらないので、とりあえず人形の傍までトテトテと駆け足で近付きました。

 だけど、どうすれば良いですかね? 素手で殴っても、今のボクの力では大した威力も出ないと思うですし、かと言ってスラさんは敵じゃ無いから攻撃しないと言うです。

 ……あ、そう言えば! 【黒神】の中に【ブラフマー】を仕舞ってたのを忘れてたです!

 ならば、ブラフマーを使ってみますかね? ゴリライガーの時にも使わなかったですし、どれ程の斬れ味なのかも試しておいて損はないです。……決まりですね!



「やってみるです! はぁぁぁっ!!」



 アイテムボックスである指輪の黒神から双刃剣ブラフマーを瞬時に取り出し、柄の部分で二つに分け、双剣……つまり、二刀流の構えをボクは取りました。右手には白刃剣、左手には黒刃剣です。

 そしてそのまま小さく気合いを込め、人形の両肩から腰に掛けてを少しの時間差で、袈裟斬り、逆袈裟と両腕を振り抜き、あっさりと手応えも無く切断しました。



「えっ!? なっ!? ど、どこから出したの、その剣! ま、まさか……君って、手品師なのかい!? そっかぁー、手品かぁー。僕も手品を覚えれば、マレさんも振り向いてくれるかなぁ……? いや、でも――」


「……カミーサさんは放っておくです。しかし、ブラフマーの性能はいまいち分からないですね。手応えが無さ過ぎて」


「ヌヴァー! 主よ。主にばかり攻撃させるのは私の臣下としての失態。故に、今更ですが攻撃を開始します! ヌヴァー!!」



 ぶつくさ呟くカミーサさんに、ブラフマーでの手応えの無さに納得のいかないボク。

 そのボク達をよそに、スラさんはボクの肩から人形に向けて飛び付くと、そのまま人形を覆う様に大きくなり……その後、どうやったのか分からないですが、人形を一瞬で消滅させてしまったです。

 ……と言うか、人形はマジックアイテムであり、しかも学園所蔵の品です。という事は、ボクは凄く怒られるのでは!?

 に、逃げますかね? 今の内ならば逃げても大丈夫な筈です……!

 となれば、善は急げ、ですね。それでは皆さん、短い間でしたがお世話になりました!



「ヌヴァー! 主よ。どこに行くのですか? 主の行く所は何処まででもお供しますよ? ヌヴァー」


「き、君! えっとぉ……ユーリちゃんって言うんだね。可愛いよね♪ ……じゃなくて! どうやったの!? 人形が無くなっちゃったよ! ……と言うか、そのスライムの魔法の威力なのかな!? こんな事は前代未聞だよ! 凄い、凄いよ、ユーリちゃん! さ、早く園舎の方に行こう! 僕も一緒に行って、みんなにこの興奮を話したいからさぁ!」



 ……逃げられませんでした。


 こうなったら覚悟を決めたです! 後は野となれ山となれ。女は度胸だという事を証明してみせるです!

 ……などとボクは覚悟を決め、再び小さくなってボクの左肩に落ち着いたスラさんとカミーサさんと共に園舎へと向かいました。

 あ、ブラフマーは黒神の中に仕舞いましたよ? 抜き身のままだと危ないですからね!


 冒険者学園の園舎は煉瓦造りの建物だというのは前にも言ったですが、その形はと言うと……円柱を五つ横に並べてくっ付けた様な造形でした。オシャレと言えばオシャレですが、どことなくのっぺりとした雰囲気を感じるですね。五連の塔、とでも呼べば良いのですかね?

 それはともかく、園門から一番近くて一番大きな塔の中へとボク達は入りました。

 中に入ると、煉瓦造りでした。……床、壁、天井の全てが黄土色の煉瓦造りです。何だか、陶器を焼く為のかまどの中にいる様な感じがして落ち着かないです……



「き、君かっ!? 最後の新入生は! なんて事をしてくれたんだ! こんな事は前代未聞だぞ!!」


「ひぃぃっっ!? こ、これにはレイク湖よりも深い事情があるです……!」


「……レイク湖は水深3メートル程の浅い湖だぞ?」



 塔の中に入った所で、さっそく怒られたです。

 歳の頃は三十歳前後ですかね? 赤い髪に赤い瞳が印象的な強面の先生(?)に、ボクは怒鳴られました。

 その先生の怒気を少しでも落ち着けようとしたボクの言葉も、全く通じません。……少しくらい笑ってくれても良いと思うのに、イケズ、ですね。



「ちょ、ちょっと待って下さいよ、『レイド』さん! ユーリちゃんは試験に全力で挑んだんですよ? それを一方的に怒るのは違うと思いますよ、僕は! 何だったら僕が身代わりに……は、ならないけど、少しは新入生に優しく接した方が良いと思います!」


「……カミーサ? お前、何を言ってるんだ? 俺は怒ってなんぞいないぞ? その娘……ユーリと言ったか。ユーリがとんでもない数値を叩き出したから褒めてんだぞ?」



 ……あれを褒めたと言うのは、どう考えてもおかしいです。あまりの迫力に、少し……出たです。下着が濡れて、気持ち悪いです。


 チビった恥ずかしさと、下着の気持ち悪さにモジモジしているボクをよそに、二人の会話は更に続いてました。



「ほ、褒めてたんですか!? 僕にはどう見ても怒ってる様にしか見えなかったですよ? と言うか、やっぱり凄い数値が出てたんだぁ! 凄かったんですよ? レイドさんにも見せたかったなぁ! ユーリちゃんが放ったスライムみたいな形の魔法がね? 人形に、こう……バッと覆ったと思ったら、サッと消滅しちゃったんだよ! いやぁー、僕も長年色んな魔法を見てきたけど、ユーリちゃんの魔法は初めて見たし、世界はまだまだ知らない事がいっぱいだなって思っちゃいましたよ! レイドさんだってあるでしょ? そういう事って。でもでも、Bランクなんだから僕よりも世界の事について知ってるのは当たり前かな? 良いよなぁ、冒険者って! 僕も冒険者に戻ろうかな? でもぉー、あの娘の事が気になるしー、やっぱり……あ。たははははは……僕の事はどうでも良いですね! 失礼しました」


「……相変わらずだな、カミーサ。まぁいい。とにかく、そこのユーリはとんでもない数値を叩き出した。今日の連中は例年に比べても粒揃いだったんだが、その中でもネコノリオ=ノースライン=ハポネ、ミサト、クリス、ノルドの四人は群を抜いていた。他の連中の倍程もあったんだからな。それがユーリはな、桁が違うんだよ。とは言え、この学園の人形は旧型だから四桁までの数字しか分からん。それはともかく、さっきの四人の数値は平均して500前後だった。だがユーリはな? 一つ上の桁だったんだよ! ……と言っても、9999でストップしちまったから正確な数値は分からん。だが恐らく、この学園始まって以来の天才だという事は確かだ! 今じゃSランクのマキトさんでさえ、この学園に入学した時の数値は1000程だったんだから、ユーリがとんでもないって事は分かるだろ? だから俺は褒めてたんだよ!」



 ……話はまだ終わらないですかね? 濡れた下着が冷たくて、トイレに行きたくなってきたです。


 …………。


 ……漏らさないですよ?



「だから人形が消滅しちまったのは、ダメージの許容範囲を大きく超えた攻撃を受けたからだろうな。それしか考えられん! とまぁ、それはさておき。ユーリは俺と一緒にSクラスに行くぞ! 付いて来い! 人形の事は心配しなくてもいい。後でダストさんに言っておくから大丈夫だ」


「あ、そっかぁー! トキオで初めて見る顔だなって思ったら、ダストさんが連れて来た娘だったのかぁ! じゃあ、孤児院に入ってるのかな? 良いなぁ! 羨ましい! 院長のミーナさんも美人だよねぇ。しかも、孤児院の料理もマレさんが作ってるし! 両手に花とはこの事だよね! 僕も孤児院に入れないかなぁ? うーん。今度ダストさんに掛け合ってみようかな? でも、大人はダメだって言われそうだし――」


「さ、行くぞ!」


「は、はいです!」



 自分の世界に没頭し独り言を喋り続けるカミーサさんをその場に残し、ボクはレイドさんに連れられてSクラス(?)の教室へと向かいました。

 あ、途中のトイレで用は済ませたですよ? 人前で漏らすのは、もう懲りごりです!


 ちなみに女子トイレに入りましたが、トイレの中はかつての世界の女子トイレと同じ様な造りでした。

 入口から入ると直ぐに手を洗う為の水道があって……水道と言っても、蛇口を捻れば直ぐに水が出るというのでは無く、青銅製の手動タイプのポンプですが。

 とにかく、手洗い場があって、その向こうに扉が互いに向かい合う様に十個の個室がありました。扉は木製ですね。

 個室の中の便器はやはり洋式で、そして水洗です。便器の後ろ側にも手動のポンプがあって、そのポンプでトキオの地下に整備されている上水道から水を汲み上げて流す仕組みでした。

 そう言えば、孤児院のトイレもそうでしたね。

 中世ヨーロッパを思わせる長閑のどかな世界ですが、上下水道などがある事を考えれば、意外と進んだ文化なのかもしれないですね!


 ……え? シャワーとかお風呂のお湯とかはどうしてるのかって?

 仕方ないですね。教えてあげるです。


 これも後で聞いたと言うか分かった事ですが、どうやら手動ポンプの代わりとなるマジックアイテムが有るらしく、それを使ってるみたいです。そして、そのマジックアイテムにはお湯にする機能も付いてるのだとか。便利ですね!

 それでマジックアイテムの燃料となるのは『魔石』と呼ばれる、魔物から取れる魔物の核とも言うべき物だそうです。つまり冒険者が魔物を討伐するのは、その為もあるみたいですね。

 あ、ちなみに生活用のマジックアイテムは、ほぼ全てが魔石を使うみたいです。代表的な物と言えば、照明……つまり、ランプです。孤児院は普通のランプでしたが、魔石を使ったマジックランプ……魔晶灯という物もあるそうですよ?



「……そう言えばレイドさん」


「ん? 何だ?」


「人形の事をダストさんにお願いするって、どういう事です?」


「あぁ、その事か。願書によると、お前は孤児院に入ってるんだったな。ダストさんはダスト商会の他に孤児院を経営してる事でも有名だが、トキオの冒険者学園の出資者でもあるんだぞ?」



 トイレ及びマジックアイテム云々はともかく、ボクは気になっていた事をレイドさんに聞いてみました。

 すると、ここでもダストさんの名前が!

 本当に凄い人ですね、ダストさんは。トキオを本当に支配しているのはネコーノ君のお父さんでは無く、実はダストさんだったりして。

 とまぁ、そんな事をレイドさんと話しながら考えつつ、Sクラスの教室へと着きました。


 後で聞いた話ですが、学園の五連の塔で座学の為の教室として使われるのは、今ボクが居るこの塔だけとの事です。

 残りの四つの塔は、魔法を学び実習する為の『魔法の塔』、剣技を学び剣での模擬戦を行う為の『剣技の塔』、罠の解除や鍵開けを学び訓練する『技能の塔』、魔物についてや野営の仕方、それに即席料理や応急手当などのサバイバル術を学ぶ『冒険者の塔』になっているそうです。

 ちなみに、塔間の移動は外からだとか。五連の塔は建築物としては一つですが、中が繋がっていない為に五連の塔と呼ばれているとの事でした。

 そうそう、教室がある塔は『座学の塔』だそうです。教室の数は全部で10クラス。一年生5クラス、二年生5クラスの合わせての数ですね。つまり、二年の間で冒険者としての力と知識を学ぶ様です。

 クラス名と割り振りは、Sクラスが一つ、Aクラスが二つ、Bクラスも二つの五つで、Sクラスはともかく、A1クラスとA2クラスと言う様に、AとBはそれぞれ数字で分けられています。


 ともあれ、ボクは一年生のSクラスの教室へと入りました。場所は、座学の塔の二階の一番奥ですね。手前から順に、B2、B1、A2、A1と続いての一番奥のSクラスです。

 ちなみに一階は二年生の教室でした。三階はと言うと、どうやら全校集会みたいな事を行う為の広間だと言う話ですね。

 それはともかく……教室の造りは簡単に言うと、大学などで多く採用されている円形教室です。半円の形をしており、教壇を中心に階段状に席が配置されているです。

 そのSクラスの教室の中では先程のレイドさんとカミーサさんの話の中でも出てきた様に、ネコーノ君、クリス君、ノルド君、それにミサトちゃんの四人が居ました。つまりSクラスは、ボクを含めた五人になるみたいです。

 元々人の顔と名前が一致しないボクとしては、少人数なのはありがたいですね。この四人の顔は完璧に覚えたです!


 ともあれ、この五人で二年間。しっかりと冒険者の知識や技能などを学びたいと思うです。楽しみですね!

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