レイコ

お名前をお伺いしても?


 部活が終わり、今日も今日とてカフェに行く。いつものメンツ。つまりヨウコと2人ってことだ。

 そんなわけで、いつものカフェへと向かう途中のこと。ヨウコは急に立ち止まると、出し抜けにこう言った。


「……あれ? ここはどこですか?」


 あぁ、またか。またなんの前触れもなく、始まるのか。緊急ミッション。幼馴染を解放せよ。


「えーと……、あなたは?」


「そりゃおれのセリフだろ、どう考えても。それで、お前はどこの誰だ?」


「私はレイコと申します。失礼ですが、あなたのお名前をお伺いしても?」


「おれはコウ。守神コウだ」


「コウさんですか。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げられる。いや何をよろしくってんだ。ため息交じりでおれは問う。


「レイコつったな。お前の望みはなんだ?」


「それは、どう言う意味でしょうか?」


「そのままの意味だよ。レイコが幽霊で、ヨウコに取り憑いてるってことはもうわかってる」


「まぁ、なんと! 私が幽霊だとわかるのですね!」


 驚いた表情で、レイコと名乗る幽霊は言う。しかしこんなに丁寧な口調のヤツは久しぶりである。最近のヤツは傍若無人なヤツばっかだったからな。


「さっきも言ったけどな、おれはレイコの願いを叶えてやりたいんだ。そしたらレイコは成仏できる。レイコが成仏すると、ヨウコは元に戻るからな」


「なるほど、そう言うことですか。よくわかりました」


「やけに物分かりがいいな」


「人様にご迷惑をかける訳にはいきませんから。それにコウさんに望みを叶えて貰うのですし、ここは申し訳ないのですが、お言葉に甘えさせて頂こうと思いまして」


「で、レイコの望みってのは何だ?」


「お恥ずかしい話なのですが。私、ある『なぞなぞ』について、死後もずっと考えてまして。それらを解く、手助けをしていただきたいのです」


「なぞなぞって、あのなぞなぞ?パンはパンでも食えないパンは、的な?」


「はい、そのなぞなぞです。生前、ずっと考えてまして。集中するあまり、車に轢かれてしまったのです。本当に、お恥ずかしい限りなのですが」


 それはなんというか。随分とパンチが効いていらっしゃる死に方じゃねーか。しかしバカにはできない。ここは迅速に成仏してもらうが吉である。


「おれで力になれるかわからんが、善処しよう。でもまずはカフェに行かねーか? どっちにしろ今から行く予定だったんだ。そこなら落ち着いて考えられるだろ」


「まぁ、カフェですか! 素敵です! ぜひ参りましょう!」



  ──────────



 さて、そんなこんなでいつものカフェに到着。ヨウコの中身は入れ替わってるけど、結局は当初の予定どおりである。


「レイコ、注文は何にする?」


「そうですね、このお店のオススメは何ですか?」


「おれはいつもアイスコーヒーだけど。ヨウコ……その身体の持ち主は、いつもカフェラテを飲んでるな」


「そういえば、カフェラテとカフェオレって何が違うのでしょうか?」


 頬に手を当てて、首をわずかに傾げて問うレイコ。なんていうか、その動作にとても品を感じる。結構育ちが良いのかも知れない。


「カフェオレはフランス語だ。で、カフェラテはイタリア語。どっちもミルクコーヒーって意味だな」


「そうなんですか。それなら、味は一緒ですか?」


「いや、結構違う。フランスのコーヒーは、一般的なドリップコーヒーだ。ペーパーフィルタで入れたりするヤツな。だけどイタリアのコーヒーはエスプレッソ。あの量が少なくてすげー濃いヤツだ」


「あぁ、わかります。お砂糖をたくさん入れて飲むコーヒーですね。小さなカップに入ってる」


「そう、それだ。それでだな、さっき言ったドリップコーヒーに、ミルクを半分注ぐとカフェオレになる。一方、もともと量が少ないエスプレッソに、ミルクをたっぷり注ぐとカフェラテになるんだ。つまり、カフェラテの方がたくさんミルクが入ってる。だから味が違うんだよ」


「お詳しいのですね。つまりたくさんミルクが入っている方が、カフェラテってことでしょうか?」


「まぁ、そうなるな。ラテはオレよりミルクの味が濃いぞ」


「それでは私はカフェラテをいただきます。今日は暑いくらいなので、冷たいカフェラテを」


 手を挙げて、おれは店員さんにアイスコーヒーとアイスラテを注文した。またしても瞬く間に運ばれてくる。いつもこの組み合わせだから、おれたちが来た瞬間に作ってるのかと思うくらいに早い。


「これがこのお店のカフェラテですか。とても美味しそうですね!」


「ゆっくり味わうといい。ここはおれがご馳走するよ」


「では遠慮なく、いただきますね!」


 ヨウコがいつも入れないガムシロップを入れていた。レイコはヨウコよりも甘党らしい。結構たっぷり入れているので、なんか新鮮だった。


「……まぁ、美味しい!」


 おれは笑顔でラテを飲むレイコを見ながら、アイスコーヒーに口をつけた。いつもの深いキレ味が口の中に広がる。やはり美味い。

 さて。目の前のレイコは、とあるなぞなぞを解きたいと言っていたが。それはどんななぞなぞなのだろうか。頭を使うのはあまり得意ではないのだけど。

 それでもやるしかないのは、いつものことだ。

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