第10話 驚きの事実と新たなスキル
「母様、素敵な指輪をしてますね」
「そうでしょう?」
「本当だな。買ったのか?」
スィスルに聞かれた母さんが嬉しそうにするので、父さんも指輪の事が気になる。
「これはね、ラソマが買ってきてくれたの」
「なに?ラソマが?」
「はい」
家族に装飾品店に行ったことを説明する。
「私も欲しかったです!」
スィスルが自分も欲しかったと抗議してくる。
「考えたんだけどね。スィスルが成長して、今よりもっと可愛くなったらスィスルに似合う装飾品を買ってあげるよ」
「本当ですか?!」
「うん、本当だ。約束するよ。それまでにケーキを食べに行こうか。美味しかったからスィスルも気にいるはずだ」
「楽しみに待ってます!」
笑顔のスィスルも可愛いな。あ、可愛いって思ってるからって、妹として可愛いって事だ。アミスに対する可愛いとは違う。
そんなことを考えていたら、父さんが俺を見ている。
「なんですか?」
「お前…本当に7歳か?今の言葉遣いは7歳とは思えなかったぞ」
父さんが苦笑いしながら言う。また、やってしまった。前世は25歳だったからな。
「7歳以外に見えますか?」
「いや、見えん」
転生しているとは言えるわけもなく、また、言ってもおそらく信じないだろう。
さて、いつスィスルとケーキを食べに行くかな。
「それで街はどうだった?楽しかったか?」
「はい。街の建物も綺麗でしたし、人々にも活気がありました。それに、エルフやドワーフの方々も初めて見る事ができました」
「そうか…最初の方は子供らしくない感想だったが…しかしエルフか…」
「どうしたんですか?」
「いや、エルフと会うのは初めてではないだろう?」
「え?!」
父さんの言葉に驚く。俺の知り合いにエルフはいないはずだ。
「言ってなかったのか。もしかして秘密にしているのか?」
父さんは俺の後方に向けて話しかける。俺の後方にいるのは、アミスだ。
「いえ、秘密にはしていません。私事でしたので、ラソマ様にお聞かせするような話ではないと思っていましたから」
「うむ、まあ、そうだな」
「今の話にアミスが関係してるんですか?」
「アミス、話しても良いか?」
「勿論です」
「アミスはな、ハーフエルフだ」
「ハーフエルフ、ですか?」
「そうだ。エルフと人のハーフだ」
「そうだったんですか!?」
驚きだ!まさかハーフとはいえ、エルフがこんな近くにいたなんて。
「でも耳が…」
「ハーフエルフの耳は、人族と同じ形状と、純エルフ族と同じ形状の2種類があります。私は人族と同じ形状ですね」
そう言ってアミスが耳を見せてくれる。
「そうだったんだ。顔立ちが整って綺麗なのも、それが要因だったんだね」
「っ!あぅ…えっと…綺麗かどうかは…その…」
アミスは照れて顔を赤くしている。
「ラソマ、もう1度聞くが、本当に7歳だよな?」
「そうですよ?」
「そうか…」
また父さんは疑問に思ったらしい。俺もこんな言葉がよく言えたものだと思う。前世で漫画やドラマ、それにゲームなんかで俺が絶対に言えないようなセリフを言っていて、俺も言ってみたいと思っていたからなのか、この世界で自然とそんなセリフを喋れるようになってしまった。
人生がガラリと変わると、ここまで変わってしまうものなんだろうか。
「そういえば問題も発生したようだな?」
「問題ですか?…もしかしてギルドの事ですか?」
「そうだ」
今日、発生したギルドでの問題は既に父さんの耳に入っていたようだ。
「ラソマたちが帰ってくる前に街からギルドマスターが来てな。ラソマに迷惑をかけてしまったと謝罪していったぞ」
「ギルドマスターの方は悪くないですよ」
「それは分かっている。話の内容は聞いているからな」
「すみません。問題を解決するために伯爵の息子という権力を使ってしまいました」
「構わん。お前が伯爵の息子だというのは事実だし、それで安全に事が終わるのならな。但し、この権力を悪用してはいけないぞ?」
「はい!」
その日の夜、俺は自分の部屋のベッドに横になっていた。
(それにしても、まったく限界が来ないな)
結界を張り続けているというのに限界が来ない。スキルを使うには体力が必要で、魔法を使うには魔力が必要だ。超能力はスキルだから体力を消耗するはず。それなのに疲労がない。7歳の俺の体力が無尽蔵にあるわけでもないし。神父も知らないスキルだから誰かに聞く事もできない。いつか女神様に聞いてみたいな。
そうして1年の時が過ぎた。その間、結界は常時発動していたけど、まったく消える事がなかった。そして…。
『新たな超能力を解放します』
俺の脳内に、毎年恒例になった声が聞こえた。
今回の超能力は瞬間移動か。効果は見えている場所、もしくは行った事のある場所に一瞬で移動できるというもの。
今からすぐに効果を試してみたいけど夜中だし、明日まで我慢するか。
とは言ったものの、なかなか寝付けずにいる。何せ瞬間移動だ。期待してしまうのも仕方がない。
だけどそこは子供。眠りたい欲に勝てず寝てしまったようで、気づいたら朝だった。
まず朝食の席で俺は新たなスキルが発現した事を報告する。
「なに?また新しいスキルだと?いったいどうなってるんだ…」
「本当に面白いスキルね。ラソマがおじいちゃんになるまで、新たなスキルが発現するのかしら」
驚く父さんと笑う母さん。うーん、多ければ良いってものでもないし、死ぬまでスキルが発現するのは嫌だな。
「それで、どういうスキルなんだ?」
「瞬間移動です。まだ試した事はないんですけど、行った事のある場所や、視界に入っている場所に一瞬で移動できるスキルみたいです」
「瞬間移動か…魔法でならあるが」
「あるんですか」
「ああ。だが消費する魔力が多いから、普通の魔法使いは使えないな」
「ラソマは、そんな魔法をスキルとして使えるようになったのね。今日から訓練をするの?」
「はい」
「そう。でも普通の魔法使いでは使えないような内容のスキルなんだから無理はしないようにね」
「はい!」
食後、俺はアミスと一緒に、スキルの訓練をするため庭に来ていた。
「それじゃあ、実際にやってみるね。まずは、あの壁際まで行くよ」
「はい」
壁際というのは庭を囲っている壁の事。外からは見えないような高さがある。
スキルが発現したと同時に使い方は分かっている。
アミスが返事した直後、俺は庭の壁際に来ていた。
「ラソマ様、すごいです!」
庭は広いけど周囲が静かだから、驚くアミスの声が聞こえた。次の瞬間、俺はアミスの傍に瞬間移動した。突然、横に俺が現れたからか、アミスはビクッとする。
「すごいですね!疲れはないですか?」
「うん。全然大丈夫だよ。これなら次の実験ができる」
「次の実験ですか?」
「瞬間移動は連続で何回使えるのか、移動する距離に応じて使える回数が増減するのか」
「どれも大切ですね」
「まだ使えると思っていたら、緊急事態に使えなくて困るなんて嫌だからね」
「そうですね」
「あとは、効果の範囲が僕だけではなくて、他人も一緒に移動できるのか、という事だね。もし僕以外の人も一緒に移動できるなら、とても便利だと思うんだ」
「確かにそうですね!」
「その時はアミスも協力してくれる?」
「勿論です!」
俺の問いにアミスは笑顔で応えてくれる。
その日から瞬間移動の訓練を、実験を含めて始めた。
半年後。
なんとなく瞬間移動の事が分かってきた。と言っても他のスキルと同じだ。消費する物がない。瞬間移動も連続で使える。部屋の中で短距離だけど、何回試しても限界はこなかった。距離も自分の部屋から遠い場所にある屋敷の門まで何回も往復したけど、ずっとする事ができた。
壁や扉が移動先までの間にあっても関係なかった。
俺のスキルは本当に何も消費しないみたいだ。これはこの世界でとても珍しいのではないだろうか。
瞬間移動の訓練中、特に大切にしている約束事がある。それは、自分以外の人の部屋に勝手に入らない事だ。両親や兄さん、それにスィスルの部屋は見た事があるから入れる。執事やメイドの部屋も全員は知らないけど、一部の人の部屋なら見た事がある。俺はレミラレス伯爵家の次男だけど、それでも使用人の部屋に無断で入る権利はない。
「わ、私はラソマ様がいつ来られても大丈夫なように用意しておきますね」
アミスはそんな事を言ってた。何を用意するんだろうな。というか、許可があっても女性の部屋に瞬間移動で入らないよ。
瞬間移動に関する検証は、誰かが一緒でも移動できるのか、触れていないと駄目なのか、俺が一緒に移動しなくても可能なのか、というくらいか。
今考えた事が全て可能なら、強力なスキルになる。
さて、検証を続けるか。
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