第9話 プレゼント購入

 俺とアミスは装飾品店に向かった。目的は母さんとアミスへのプレゼントを買う為だ。


「ここが装飾品店です。ただ奥様が気に入られるものがあるかは…」


 そうだろうな。母さんは伯爵夫人だ。王都でもない街の装飾品店に気に入るものがあるか分からない。でも母さんはそこまで着飾る人ではない。父さんと一緒にパーティーに出かける時以外は普通の服装をしている。


「大丈夫だよ。プレゼントは価値より気持ちだから」

「そうですね。たまにラソマくんは言う事が大人ですね」

「そ、そうかな?」

「はい」


 前世は25歳だったからな。


「とにかく店の前に立っててもなんだし、中に入ろうよ」

「そうですね」

「いらっしゃいませ」


 俺たちが中に入ると、店員の女性が話しかけてきた。


「本日はどのようなものをお探しですか?」


 ちなみに店員はアミスに対して話しかけている。子供の俺が買うとは思わないからな。


「僕が買いに来たんだよ」

「…きみが?」

「うん。母さんにプレゼントをしようと思ってね」

「そうなの?」

「あれ?は、伯爵様の息子さん?!」


 店内にいた女性が俺を見て声をあげる。


「だ、誰でしょうか?」

「たぶんギルドにいた人じゃないかな。見た感じも冒険者っぽいし」


 女性は魔法使いのような服装、長いローブを着ている。俺のことを知ったのはギルドで見かけた時だろうな。


「あの…失礼ですが、伯爵様のご子息ですか?」

「はい」

「そうでしたか!大変、失礼しました!」

「そういうわけなので、母様にプレゼントを買いたいんです」

「分かりました。ただ、この店に伯爵夫人にお似合いの装飾品があると良いのですが…」

「そんなに気にしなくて良いですよ。あと、予算はこれくらいで」


 と言っても、店員は気を遣うだろうな。何せ客は俺だけど、着ける人は伯爵夫人だ。気にしない人の方が少ないだろう。でも本当に気にしなくて良いんだけどな。

 思った通り、店員は一所懸命に装飾品を選んでいる。


「すいません」

「なんでしょうか?」

「この女性にもプレゼントがしたいので、オススメの物をお願いします。予算はこれくらいで」

「え?!ラソマ様?!」


 アミスが驚きの声をあげる。ここまで来てアミスに買わないという選択肢はないよ。元々、買うつもりだったしね。


「かしこまりました」


 店員はそう言って装飾品を探しに行く。


「あの、ラソマ様?私は要らないですよ?」

「そんなわけにはいかないよ」

「ですが…」

「お金の心配はいらないよ。…実は母様がこういう時用にお金を渡してくれたんだ」

「奥様のぶんはどうされるのですか?」

「そのぶんは自分のお小遣いを持ってきたよ。今まで貯めてきたものだから足りると思う。残念なのが、アミスへのプレゼントは母様から頂いたお金だという事なんだよね。今度、僕が働いたお金でアミスにプレゼントするからね」

「ラソマ様…」


 いつか絶対に自分で稼いだお金でアミスにプレゼントをしよう。

 その後、しばらくして店員が指輪とネックレスを持ってきてくれた。


「こちらの指輪が伯爵夫人への品になります」

「指のサイズを知ってるんですか?」

「いえ、この指輪は魔法が仕掛けられていて、着ける指に合わせてサイズが変化するんです」

「へぇ、便利ですね!」


 そんな便利な物があるのか。やっぱり魔法というのは便利なものだな。俺のスキルだと使えないけど。


「こちらのネックレスがお連れの女性への品になります」


 ネックレスは誰にでもサイズが合うから大丈夫だな。


「では、それらを買います」

「ありがとうございます」


 俺は代金を支払い商品を受け取ると、アミスと共に店を出た。


「それじゃあ、これはアミスお姉ちゃんにプレゼント」

「あ、ありがとうございます♪」

「しゃがんで?」

「え?」

「着けてあげるよ」

「い、いいです、自分で着けれますから」

「僕が着けてあげたいんだ。お願い」

「…分かりました」


 嫌がってはいないから、押していく。アミスは完全に照れているな。

 俺はしゃがんだアミスの後ろにまわり、ネックレスを箱から取り出して、首にかける。その際、アミスの髪の毛を避けて着けてあげる。アミスの髪の毛からシャンプーの香りがするな…って、何を考えてるんだ。


「はい、着け終わったよ」

「ありがとうございます!」


 アミスは立ち上がりお礼を言ってくる。笑顔がとても素敵だよ、という言葉は俺の年齢だとおかしいから言わないでおこう。


「アミスお姉ちゃん、似合ってるよ」

「ありがとうございます!一生、大切にします」


 そこまで喜んでもらえたら満足だな。


「あとはブラブラして帰ろうか」

「はい!」


 その後、俺とアミスは街を見てまわり、屋敷に帰る事にした。


「さっきと同じ方法で帰るのですか?」


 アミスの問いに頷く。方法は結界で俺たちを囲い、宙に浮かして屋敷まで移動するというもの。ただし街から少し離れてから使用する。人に見られて、あれこれ詮索されるのは嫌だからだ。


「ん?あれって、もしかして魔物?」


 結界で移動している最中、前方に動物がいたのでアミスに聞く。大きさは中型犬ほどで、全身を黒く短い体毛で覆われており、両目が赤い。

 兄さんから聞いた話だと、魔物という、動物のような生物がいるらしい。魔物は一部を除いて凶暴で人を襲う。ただ一方で大人しい魔物もいるようで、ペットにしたりもできるらしい。ちなみに魔物の肉も食べれるようだ。


「そうですね、魔物です。でも、あの魔物は危険ではないので安心してください。といってもラソマ様の結界があれば、凶暴な魔物が相手でも問題はないと思いますが」

「そっか、良かった」


 たしかに結界の効果によって魔物は弾き飛ばされるはずだ。…でも弾き飛ばすのは可哀想だな。道の真ん中にいるから、道の端を行こうとしても魔物の動きを読めないから、もしかしたら当たるかもしれない。


「アミス、もう少し高く浮かぶよ」

「え?…ひあっ!」


 アミスの返事を待たずに上昇する。理由は魔物を避けるためだ。そして魔物を上空から通り過ぎた俺たちは元の高さに戻って屋敷を目指した。


「大丈夫?」

「あ…はい…大丈夫です」


 アミスの顔色が悪い。


「高いところが苦手なの?」

「そんな事はないんですけど…地面がなく宙に浮いたままで高い場所に行くのは少し怖かったです」

「そっか。ごめんね?」


 もっとマシな方法を考えたら良かった。ちなみに高さは魔物が跳躍してくる事も考えて、5メートルほど上げた。それに降りる際、エレベーターのような浮遊感があったのかもしれない。この世界にエレベーターのようなものがあるかは知らないけど、体感した事がないなら気にしてしまうかもしれない。


「いえ!ラソマ様は悪くありません!私の心が弱いのが悪いんです!」

「そんな事ないよ。さて、気を取り直して、屋敷を目指そう」

「はい!」


 謝罪の堂々巡りが始まりそうだったので、違う話に変えた。でも俺は、アミスは悪くない、全面的に俺が悪いと思っている。

 その後は魔物に遭遇する事もなく、無事に屋敷に到着した。


「ただいま帰りました」

「お帰りなさい、どうだった?」

「楽しかったです!」


 屋敷に入ると母さんがいた。どうしてバッチリのタイミングで母さんが玄関にいたんだろう。


「不思議そうね。実は窓から街の方を見ていたの。そしたらラソマが見えたのよ」

「そうだったんですか」

「でも、おかしな移動方法ね」


 あ、それも見られてるよな。


「あれは結界を使った移動方法です。馬車みたいに揺れないし、攻撃を受けても完全に防げるんです」

「凄いのね!今度からパーティーに行く時はラソマに連れて行ってもらおうかしら」

「そうですね!」


 とは言ったけど無理だろうな。あんな方法でパーティーが開催される場所に行ったら、悪目立ちしてしまう。


「そうだ、母様にプレゼントを買ってきました」

「私に?アミスには買ってあげたの?」

「はい。それと母様に、これを」


 言いながら指輪の入った箱を取り出す。母さんは箱を開けて指輪を見ると、驚いた。


「ラソマ…ありがとう。大切にするわね」


 喜んでくれて良かった。

 母さんは自分の指に指輪をつける。本当にサイズが変化した。よくできてるな。

 今度はもっと良いものをプレゼントしよう。もちろんアミスにも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る