第8話 一悶着

「ここがギルドか」


 俺とアミスは街のギルドの前に来ている。

 ギルドは3階建てになっていて、幅も広い。たぶん奥行きもある。学校の校舎が思い浮かぶな。他の建物は2階建てが基本的に多いみたいだから、3階建てというのは豪華な方だな。


「驚きましたか?ギルドは国が運営しているから、建物も大きくなるんです」

「そうなんだ!詳しいね」

「色々と学びましたから」


 メイドを養成する学校では、そんな事も勉強するんだな。やっぱりアミスは優秀なのか。


「それじゃあ入ろうか」

「はい」


 俺たちはギルドに入る。そこはとても賑やかな場所だった。剣や杖を持った人が沢山おり、カウンターに向かっていく。そのカウンターの向こうにはビシッとした制服を着た男女が立っている。あの人たちがギルドの職員だろう。


「すごく賑やかだね」

「そうですね」


 良かった、結界を張っておいて。小さい体の俺と、同じように小柄なアミスだと、たくさんの人でもみくちゃにされてしまいそうだ。

 結界は今、衣服のように張っている。超能力は俺の想像しだいで、どんな事でもできる。結界の形状も四角や丸だけではなく、衣服のように対象の体に纏わせる事ができるようになった。全身ボディースーツをイメージしたらできた。

 結界の効果は物理衝撃の無効化と、攻撃魔法の無効化。


「ん?子供がこんな場所にどうしたんだ?」


 1人の男性剣士が話しかけてきた。


「ギルドを見た事がなかったから、見に来たんだ」

「そうなのか。でも子供と女だけだと危ないから、あまり長居はお勧めしないぞ?」

「はい。少し見たらすぐに帰るよ」

「ああ、そのほうが良い。…っと終わったか。じゃあな」


 そう言って男性剣士は仲間らしき2人の男女のもとに行った。依頼の受注か、終了の報告を仲間がしている間、ここで待ってたんだろうな。


「ああいう親切な人はいるんだね」

「そうですね。基本的に、ああいう人が多いです」

「おう!?ガキがギルドに何の用だ?」

「それより、その横の女、けっこう可愛いじゃねえか!」

「ホントだな!」


 親切な冒険者に感動していたのに、次に話しかけてきたのは明らかに悪そうな2人組だった。


「ガキに用事はねえからよ。女、ちょっと一緒に来いよ!」

「時間はまだ早いけど、そのぶん、たっぷりと楽しもうぜ!」

「明日の昼までには帰してやるからよ!」


 こんな低俗な連中が父さんの領地にいるなんて、たまらないな。


「2人はこの領地の人?」

「こんな場所に住むかよ!」

「平和過ぎるからな!」


 良かった。2人は父さんの領地の人間ではないらしい。


「それより女、お前、俺たちと楽しもうぜ?」

「嫌です。あなた達に付き合うほど、私は落ちぶれていません」

「なんだと!?いいから来い!」

「それ以上は駄目ですよ」


 男の1人がアミスの腕を掴もうとしたから、その間に結界を張って防ぐ。まあ、結界を纏ってるから大丈夫だと思うんだけど、掴むという行為に結界が作用するか分からなかったから、念の為に結界を張っておいた。


「なんだ?壁がある?」

「貴方が触れていいほど、安い女性ではないです。というより値段自体、つける事はできないですけどね」

「なんだと?!」

「ガキが生意気な口をきくじゃねえか!」


 しまった。こんな言葉、7歳の子供の言葉じゃないな。


「とにかく、貴方たちはこのまま帰ってくれると嬉しいんです。僕たちはまだ楽しみたいですからね」

「この壁はお前のスキルか?まずはお前からだな!」


 男が俺に殴りかかってくる。アミスが防ごうと動くけど、俺はそれを手でやめさせた。

 直後、男の拳が俺の顔面に直撃する。正確には俺の顔面にある結界にだけど。


「キャー!!」


 遠くで見ていた若い女性のギルド職員が悲鳴をあげる。

 大人が子供を殴る瞬間だもんな。見ていて良いものではない。


「あ?あれ?」

「どうした?!」

「当たった感触がない!」


 男たちは驚いている。その通り。それしきの攻撃は簡単に防げる。物理衝撃を無効化しているから、殴った音もない。衝撃自体がないからだ。空気を殴ってる感じだな。


「どうなってる?!」

「まだ間に合います。これ以上は何もしない事を薦めるよ」


 笑顔で言ってみる。


「ガキに舐められたままで終われるか!」

「忠告はしましたからね?」


 そう言って俺は、2人で殴りかかってくる男たちの動きを片手を前に出して念動力で止めた。別に手を動かす必要はないんだけど、気持ちだ。


「な、なんだ!?」

「動けない?」


 さらに少しだけ宙に浮かせる。


「さっきで終わらせておけば良かったのに」

「大丈夫ですか?!」


 ギルド職員が小走りでやって来る。事態が落ち着いてから来るのが残念だけど、仕方ないか。


「状況は理解してますか?」

「は、はい。この2人の冒険者が…」

「何もしてないよな!?」


 宙に浮かされた状態の男が職員を睨む。


「お前、俺たちが不利になるような事を言ったらどうなるか分かってるんだろうな!?」


 完全に脅しだな。職員は俺と冒険者を交互に見て、あたふたしている。これが冒険者の汚点か。


「アミス…僕はこういう人たちが大嫌いだ」

「はい、私もです」

「職員の方、ギルドの責任者、ギルドマスターを呼んでください」

「え?いえ、でも、ギルドマスターは多忙なので」

「この状況で、多忙なんていう理由で出てこないのは困ります。そうですね…それではレミラレス伯爵の息子、ラソマ・レミラレスが来た、そう伝えてください」


 俺の言葉に皆が驚く。


「レミラレス伯爵の…息子?」


 疑問に思うのも最もだ。俺は素早く上着の胸ポケットからレミラレス伯爵家の家紋が刻まれたバッジを取り出し、服の胸部分に付ける。


「僕がそうです。早くギルドマスターを呼んでもらえますか?」

「は、はい!」


 この手の品物は偽造する事ができない。俺が貴族だと分かったからか、俺を殴った冒険者は顔面蒼白だ。しばらくして中年の男性が走って来る。


「すみません、レミラレス伯爵様のご子息でしょうか?」

「そうです。貴方はギルドマスターですか?」

「はい。ギルドマスターを勤めさせていただいている、ギエン、と申します」

「ギエンさんですね。少し問題が起きて、穏便に済ませようと思ったんですけど、できませんでした」


 それから状況を説明する。


「うちの冒険者が申し訳ない事を!」

「いえ、この男たちは他所の冒険者らしいので、こことは関係ないです。でも野放しにはできません。分かりますよね?」

「勿論です!知らなかったとはいえ、貴族様を殴った事は重大な事件ですから」

「それ以前に子供を殴るのも、どうかしてますが」


 俺は7歳の子供だからな。そんな子供の顔面を殴るなんて正気の沙汰じゃない。


「不敬罪も適用できると思いますが、どうされますか?」

「んー、あまり不敬罪は使いたくないかな」

「分かりました。それでは罰はこちらで考えます」

「そうしてくれると助かります」


 あまり罰を考えるのは慣れてないから、ギルドマスターに丸投げしよう。きっと、きちんとした罰を考えてくれるはずだ。

 その後、俺が念動力で拘束している間に、衛兵が来て2人の男を縄で縛る。それを確認してから念動力を解除した。


「それでは他の用事があるので行きますね」

「はい。本日は本当に申し訳ありませんでした!」

「いえいえ、本当にギエンさんが謝る必要はないですから」


 そうして俺とアミスはギルドを出る。


「はぁ、大変だったなぁ」


 出てすぐに俺は溜息を吐く。


「でもラソマくん、貴族として立派な態度でしたよ」


 アミスの言葉に一安心する。俺の対応でレミラレス家の品格を下げたくないからな。そんな形で迷惑はかけられない。


「アミスお姉ちゃんは大丈夫?あんな下品な言葉を投げかけられたけど」

「少し辛かったですけど、ラソマくんの態度がすごく嬉しかったので、もう大丈夫です!」

「良かった。それが心配だったんだ」


 アミスはまだ19歳だからな。あんな言葉を受けたら気分が落ち込むと思ったんだ。でも大丈夫そうだな。


「これからどこに行きます?」

「そうだな…母様にお土産を買っていきたいから、装飾品が売ってるお店に行きたいかな」

「分かりました。では、装飾品店に行きましょう」

「うん!」


 お土産は母さんだけではなくて、アミスにも買ってあげるつもりだ。その為に母さんがお金も持たせてくれたしな。そういうプレゼントは俺が稼いだお金で買ってあげたかったけど、子供の俺に稼ぎはない。いつか俺自身の稼ぎでプレゼントをしよう。


 そうして俺たちは装飾品店に向かった。

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