第3話 ちょっとした失敗
洗礼によってスキルが発現した俺は父さんと共に自分たちの屋敷に入る。そこには母さんと兄さん、それにスィスルが立っていた。このタイミングで3人一緒にいるなんて…もしかして馬車が見えて迎えにきてくれたのかな?父さんは伯爵だし、そういう事もあるのかもしれない。
「ただいま」
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい。ラソマ、スキルはどうだったの?早く聞きたかったから迎えに来たのよ」
「あ、ありがとうございます」
俺のスキル確認のために集まっていたのか。
「それで、どうだった?ちゃんとスキルは発現した?」
「はい。超能力というスキルでした」
「超能力?聞いた事がないわね」
「神父様も聞いた事がないそうです」
「どういうスキルなの?」
「その前にリビングに行かないか?玄関で話す事でもないだろ」
「確かにそうだったわね。早くラソマのスキルが知りたくて急いでしまったわ」
父さんの指摘に母さんは照れ笑いをする。
それから俺たちはリビングに移動して、それぞれ椅子に座る。
「僕のスキルは超能力でした。こういう事ができます」
俺は目の前のテーブルに置かれているお菓子を念動力で宙に浮かせた。
「…物体操作かしら?」
「俺もそう思ったんだが、名前が違うからなぁ」
「そうよね。強化していけば、どういう風に進化するのか楽しみね」
「はい!」
翌朝。俺は屋敷の庭に来ていた。目的はスキルの強化だ。
「さあ!スキルの練習をしようかな!」
「頑張ってください!」
「うん!」
今日から俺は超能力を強化していく。本当は1人でも大丈夫だと思うんだけど、万が一の事態に備えて、アミスがついて来てくれている。
まずは庭に植えられている木の下に落ちている落ち葉を浮かせてみる。1枚だけではなく、同時に複数を動かせるかの確認だ。
結果、5枚の落ち葉を浮かせる事に成功した。
複数を浮かせられるという事は、今は5枚でも、強化していけば、もっと多くの数を浮かせる事ができるようになるかもしれないな。
次は重さだ。近くにある高さ2メートルほどの大きさの岩を動かそうとしてみる。でも岩はビクともしない。やっぱり、いきなりこの重さのものを動かすのは無理だったか。
1時間ほど訓練した結果、景観用に置いている直径1メートルほどの丸石をなんとか動かせるようになった。
「ふぅ…」
少し休憩しようかな。
「ラソマ様、大丈夫ですか?」
「ん?何が?」
「疲労はないですか?」
「ないけど…どうして?」
「スキルは使い過ぎると体力を消耗するんです」
そうなのか。1時間ほどスキルを発動し続けたけど、何も異常はないな。
「体力を消耗しないスキルってあるの?」
「聞いた事がないです」
「じゃあ、僕のスキルがそうなのかもしれないね」
「そうですね!」
その後、少し休憩をしてからスキルの訓練を再開した。でも結局、あれ以上の重さのものを動かすことはできなかった。
「もう少しだと思うんだけどなぁ」
感覚的には、もう少しで動かす事ができるような気がするんだけど。
「焦りは禁物です。ゆっくり、じっくりと訓練した方が良いです」
「…そうだね。焦っても仕方ないか」
アミスの言葉に納得する。
「昨日の今日でもう訓練していたのかい?」
「兄様!」
休憩している俺に対して兄さんが話しかけてくる。
「早くスキルを強化したいんです」
「そうか。ラソマが本気で頑張れるなら、スキルは強くなるよ」
「本当ですか?!」
「ああ。僕も一所懸命に努力を続けたらスキルが強くなってきたからね」
「じゃあ僕ももっと努力します!」
「うん、それが良いね。でも無理はし過ぎないようにね」
「はい!」
それから兄さんは屋敷に戻って行った。兄さんは屋敷から来たはずだけど、もしかして今のアドバイスを言うために来たのかな。
普段、兄さんは伯爵を継ぐ為、一所懸命に努力しているけど、俺やスィスルのことを気にかけてくれている。この世界に関する知識も、殆ど兄さんが教えてくれた。兄さんが忙しい時は屋敷の書庫で勉強している。文字は前の世界とは違うけど、この世界に生まれたからか、すぐに文字を覚える事ができた。ただし身長は低いので、高いところにある本はアミスに取ってもらっている。
そして1週間後。俺は庭の2メートル程度の大きさの岩を浮かす事に成功した。
「すごいです!ラソマ様!」
「ありがとう!」
アミスが賞賛してくれる。
「たった1週間で、これだけの大きさの物体を動かせるなんて、なかなかできないですよ」
「でも、これだけじゃ満足できないね。もっと強くならないと!」
「フフ、頑張ってください」
「うん!」
さらに1週間後。俺は庭で父さんに怒られている。理由は庭に植えられている木を超能力で引き抜いてしまったからだ。
「駄目だとは言わない。スキルの訓練をしているんだからな。お前が悪戯でした事ではない事も分かっている。だが木を抜くのなら、俺かマースに相談するべきだ」
「はい、ごめんなさい」
精神的に子供ではないから、これくらいで泣く事はない。でも怒られる理由は理解できるから、とても反省している。自分の家の庭だから、破壊さえしなければ何をしても良いと思ってしまったんだ。今思えば、とても軽率だった。
「反省しているのなら良い。今後は相談するんだぞ?」
「はい」
「だけど」
そう言いながら怒っていた父さんが笑顔になる。
「これだけの大きさの物を動かせるようになったのは凄いな!よく頑張ったんだな。えらいぞ」
「父様…」
父さんは俺を褒めて頭を撫でてくれる。…危ない。嬉しくて泣きそうになってしまった。嬉しくて泣く、というのは子供としては違うような気がするから泣かないでおこう。逆に怒られている時は子供なんだから泣いたほうが良いような気がするけど、中身が大人だから泣けない。難しいところだ。
「これからも努力を続けるんだぞ?」
「はい!」
俺の言葉に満足したのか、父さんは離れて屋敷に入って行く。俺はスキルの訓練を続ける事にした。
半年後。
スキルの新しい使い方を覚えた。最初は物体を動かせるだけだと思ってたんだけど、動かした物体の一部を動かす事もできるみたいだ。例えば、スキルで木の枝を持ち上げ、さらに枝分かれしている枝を動かして折るという事もできる。枝を捻って千切る事も可能だ。このスキルは良いな。
ただし石は捻じ切る事ができなかった。石は捻じ切れるものではないからか、それともスキルの訓練を続けていけばできるようになるのか…。
可能か不可能か分からないんだから、可能だと信じて訓練を続けるか!
「普通の物体操作では、そういう事はできませんよ」
訓練中にアミスに聞くと、そう答えた。つまり念動力は普通の物体操作ではないという事か。まあスキル名が超能力だからな。名前からして普通の物体操作とは違うか。
「全く知られていないスキルですから、どのように進化していくのか楽しみですね!」
「うん!」
本当に楽しみだ!スキルは使い方を考えれば何でもできる。普通なら動かせるだけでも良いのに、折る事にも成功した。使い方を想像すれば、想像しただけ進化するのかもしれないな。
そう考えて俺はスキルの訓練を続ける。限界は決めていない。どれだけの事ができるか楽しみだ!
「ラソマ、スキルを使い過ぎじゃないか?」
ある日の夕食後、リビングで家族で団欒していると、兄さんに言われた。
「スキルの強化が楽しいんです」
「でも座る際に椅子を動かしたり、軽い物でも動かしたりしてるだろう?体が鈍ってしまうよ」
「確かにそうですね」
「たまには体を動かした方が良い。別に重たい物を持つようにとは言わないけど、軽い物なら自分で持った方が良い」
「分かりました。気をつけます」
兄さんの言う通りだ。超能力に頼り過ぎて何でも超能力で動かしてしまった。こんな生活をしていたら将来、体を自分で動かせなくなってしまっていたかもしれない。その事に気付かせてくれた兄さんに感謝だな。
数日後。俺はいつものようにスキルの訓練をする為に屋敷の庭に来た。もちろん、アミスも一緒だ。
「今日はアミスにも協力してほしいんだ」
「何をすればよろしいですか?」
「そこに立っていてくれるだけで良いんだ」
「立っているだけ、ですか?」
「うん。でも何があっても慌てたり、暴れないでね?」
「わ、分かりました!」
俺の前にアミスは直立不動で立つ。顔は緊張している。言葉だけとれば、何をされるか分からないものな。暴れるな、なんて、暴れるような抵抗をしなければならない攻撃をすると言っているようなものだから。
「それじゃあいくよ。大丈夫、僕を信じて」
「はい………あ!」
アミスは自分の履いているスカートが捲れ上がったから、慌てて押さえた。
失敗した…本当にしたい事とは違う現象が発生した。
スカートの裾を押さえているアミスの顔は赤い。
「…ラソマ様?私の下着を見るために立たせたのですか?」
「そ!そんな事ないよ!」
とは言ったけど、見えてしまった。黒いガーターベルトと太腿、真っ白でレース調の下着が………見なかった事にしよう。…忘れられるかな。
「ラソマ様…」
アミスの目には涙が浮かんでいる。まずいな、泣きそうだ。本当にそんなつもりはなかったんだけど。
「私の下着が見たいのであれば、寝室に呼んでください。せめて人のいない場所で…」
…弁解する前に言いたい。この世界で俺は5歳だぞ?確かにアミスは可愛いけど、5歳の男の子が性的な何かをするわけがないだろう。
「落ち着いて、アミス。僕はアミスをそんな風に傷つけたりしないから!」
「…本当ですか?」
「本当だよ。約束する」
一所懸命に弁解すること数分、ようやく誤解が解けて、アミスの態度が元に戻った。
「それでは何をしようとしていたのですか?」
「こういう事だよ。今度は落ち着いていてね。失敗しないから」
「はい」
アミスが返事をして直立したところで、俺は超能力を使う。次の瞬間、アミスの体が数センチほど宙に浮いた。
「よし!成功だ!」
「これは…飛行魔法…?」
「ううん、超能力だよ」
「こんな事までできるんですね…」
「うん。自分を浮かす事はしていたんだけど、他人を浮かす事はしていなかったから、アミスにお願いしたんだ」
そう言って俺も数センチほど宙に浮かぶ。本当はもっと高くまで浮かぶ事ができるけど、アミスが驚くといけないから、この位にしておかないとな。高くまで浮かせて、万が一、落ちた場合、大怪我は免れないから、慣れるまでは無理をしない。
それからアミスを地面に降ろし、俺も降りる。
「そう言えば、飛行魔法って何?」
「空を自由に飛べるようになる魔法です。でも自分だけで、他人を飛ばす事は難しかった筈です」
「そうなんだ」
「これなら訓練次第では、どこにでも飛んで行けるようになりますね」
「その時はアミスも一緒だよ」
「私もですか?!」
「うん。一緒に飛んで、どこかに出かけようよ!」
「はい!その時はよろしくお願いします!」
アミスは笑顔で返事をしてくれる。こういうセリフは子供だからこそ言えるな。大人が言うと、2人きりで出かけるなんて、下心があるように見られてもおかしくない。前世でこんなセリフ、言った事がないな。
「楽しみに待ってますね!」
そんな風にアミスが言ってくれる。頑張ろう!
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