第4話 人の心を読む

『ポーン!』


「な、なんだ!?」


 寝ている時に突然、頭の中にチャイムが聞こえて、俺は飛び起きた。


『スキルの新たな超能力を解放します』

「誰なんだ?」


 頭の中で聞こえる事務口調の女の声に質問したけど、返事はない。その代わり、新たな超能力というものが何かは理解した。最初、スキルが発現した時と同じだな。


「今度は読心か」


 効果は対象の思考を読める事。また効果を実験しないとな。でも読心の事は誰にも言えないな。他人に思考を読まれるなんて嫌だろうから。このスキルは一生秘密にしておこう。


「先に謝っておこう。皆、ごめん」


 誰もいない自室で謝っておく。明日から俺は読心の効果を確かめ、強化していく為に皆の思考を読む。その事を謝っておいた。


 翌朝。


「おはようございます、ラソマ様。起きていらっしゃいますか?」

「うん、起きてるよ」


 俺が返事すると、アミスが部屋に入ってくる。いつもの身支度だ。


「お誕生日、おめでとうございます!」

「ありがとう」


 今日で俺は6歳になった。もしかして6歳になったから読心という新しい超能力が使えるようになったのか?でもこれは検証できないな。7歳になった時、新しい超能力が使えるようになっていれば、この仮説が正しい可能性が出てくる。


 それから身支度を済ませた俺はアミスの思考を読む事にした。ごめん。


『ラソマ様、今日も素敵です!大好きです!』


 アミス…そんな風に思ってくれてるなんて嬉しいな。

 いや、ちゃんと読心が機能しているか分からない。そこを検証しないと。


「アミス、好きなものって何?」

「どうしたんですか?突然」

「知りたいなって思って」

「そうですね…」


 ここで読心発動。


『好きな人ならラソマ様!でも物よね。うーん…街で最近流行りのケーキが美味しかったなぁ』


「街に売っているケーキですね。美味しかったのが忘れられません」

「へぇ、そうなんだ」


 最初に何か聞こえた気がするけど…アミスは俺の事が好きなのか。子供相手だから恋愛とは違うだろうけど、嫌われていなくて良かった。

 思考と発言が一緒だから、読心スキルは合っているみたいだな。


「それじゃあ今度、僕もそのケーキを食べてみたいな」

「申し訳ありません。買ってきたいんですけど、持ち帰りが不可能なんです。必ず店内で食べないといけないんですよ」

「そっか。じゃあ、いつか一緒に食べに行こうよ」

「私とですか?」

「うん。アミスは嫌?」

「いえ!凄く一緒に行きたいです!」

「楽しみにしてるね」

「はい!それでは今度は私から質問しますね。ラソマ様の好きなものは何ですか?」

「んー、そんなに多くの物を知らないし」


 この家から出た事が殆どないからな。どんな物がこの世界にあるのか殆ど知らない。


「それなら人でも良いですよ?」

「父様と母様と兄様とスィスル。それにアミス!」

「私も好きでいてくれるのですか?」

「勿論だよ!」

「ありがとうございます!」


 やっぱりアミスの笑顔は最高だ。


 さて、朝食も食べ終えたし、読心の訓練でもするか。でも読心は誰にも言ってはいけないから、表立って訓練する事はできない。だから念動力の訓練をするフリをして読心の訓練をする。…難しいな。でも家族の思考は読まないようにしよう。親しき仲にもってやつだ。執事やメイドの思考を読む事にする。これも悪い気がするけど、仕方がない。


 それから数日間の訓練の結果、効果は思考どころか、記憶も読む事ができた。古い記憶までは読めないけど、最初は全く読めなかった事を考えたら、訓練次第で古い記憶も読めるようになるかもしれない。

 効果範囲も訓練次第で広くなると思う。数日前と今を比べると、範囲が広くなっている。

 複数人の思考を同時に読む事は可能だけど、あまりしたくない。複数人の思考を同時に読むと、騒がしくて頭がパンクしてしまう。


「あとは読心の使い道だな」


 夜、自室で呟く。読心の使い所は難しい。人のプライベートを覗いてしまうわけだから、あまり使いたくない。


「まあ、訓練はするけど、使い所は今後、考えていくか」


 俺は読心スキルの使い方を今は考えない事にした。でも、せっかくあるスキルだから使いたいな。


 翌日。俺はいつものように屋敷の庭で念動力の訓練をしていた。

 来年、俺は7歳になる。兄さんは7歳の時に家庭教師がついた。伯爵になる為だ。俺にも家庭教師がつくんだろうか。伯爵を継ぐわけじゃないけど、せっかく異世界に生まれたんだから、この世界の勉強をしてみたいな。

 そんな事を考えながら、俺は庭に生えている雑草を念動力で一気に抜いた。


「すごいです!ラソマ様!」


 アミスが褒めてくれる。俺の念動力の効果範囲は、この庭くらいなら余裕で入る。庭の広さはサッカーコートくらいか。長方形じゃないけど、そのくらいだと思う。


「これくらいなら余裕でできるようになったよ」

「すごいです!」


 本当に余裕だ。今後の課題は効果範囲の拡大だな。理想としては目に見える範囲を効果範囲にしたい。


「もっともっと努力をしないと!」


 そう言って、もっと頑張る決意をした。


 数ヶ月後。


「緊張します…」


 俺の目の前でスィスルが呟く。今、俺は父さん、スィスルの3人で馬車に乗っている。目的地は教会で、目的はスィスルの洗礼だ。本当は父さんとスィスルの2人で行く予定だったんだけど、スィスルの希望で俺もついて行く事になった。


「スィスル、緊張しなくても平気だよ」

「でもラソマ兄様、おかしなスキルが発現したらと思うと緊張してしまうんです」

「スィスルならおかしなスキルは発現しないよ」

「どうして分かるんですか?」

「兄の勘だ」

「それなら大丈夫ですね!」


 昔、アミスに言われた言葉を、そのままスィスルに伝える。でも本当にスィスルならおかしなスキルは発現しないと思う。


「お前たちは仲が良いな」


 俺たちの様子を見た父さんが微笑みながら言う。確かにスィスルの俺に対する態度は普通の兄妹とは違うような気がする。まあ、前世で一人っ子だった俺には想像しかできないけど。ただ、スィスルは兄さんには普通の態度なんだよな。まあ、好かれているんだから何も問題はない。


 教会に到着した俺たちは神父の対応を受けて中に案内される。俺も入って良いのか聞いたけど、問題はないようだった。


「それではスィスル様のスキルは………これは!」

「ど、どうしたんです?!」


 神父が驚くので父さんも驚く。


「すみません。驚いてしまって。スィスル様のスキルは大魔法です」

「なんだって!?」

「すごいですね!」


 驚いてしまう。大魔法といえば、この世界に存在する全ての魔法を使えるスキルだ。そんな凄いスキルが発現するとは。


「あの…このスキルはそんなに凄いものなんですか?」

「ああ、凄いぞ!スィスルにはまだ難しいかもしれないが、将来有望だという事だ。ただし使いこなす為の努力は必要だけどな」

「私、頑張ります!」

「うむ」


 その後、馬車で屋敷に戻り、母さんたちにスィスルのスキルを話す。案の定、母さんと兄さん、それに、その場にいた執事やメイドは驚いていた。大魔法を持つ人はこの国にも数人しかいないらしい。そして全員が国に仕えている。有事の際、全ての魔法が使える魔法使いは重宝されるからだ。戦争なら、戦局がひっくり返るほどだ。


「そのスキルは絶対に使いこなせるようにならないといけないな」

「そうね。暴発したら大変だし、魔法関係の家庭教師を雇おうかしら」

「そうだな。明日にでも募集をかけよう」


 俺より先にスィスルに家庭教師がつく事になった。いや、俺に家庭教師がつくのかどうかは知らないけど。


 翌日からスィスルに家庭教師がつき、スィスルは一所懸命に魔法について勉強している。

 俺も読心の訓練は続けており、1年で、効果範囲は屋敷が入るほどになった。さらに対象の思考を読む事で、今、どこにいるのかが、方向と距離から分かるようになった。ただしその相手を知っている必要があり、全く知らない人の思考を読んで距離と方向を知る事はできない。

 もしかしたら訓練次第ではできるようになるかもしれないけど、現在はできない。


 そして俺が7歳になる日の夜、脳内に再び声が聞こえた。


『スキルの新たな超能力を解放します』

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