第二章 赫絲之夢
辺り一面の暗闇の中で、ぼうっと静かな光を放つ赤い糸が見えた。それは弛みながらも真っ直ぐに、ずっと遠くの方まで続いていて、暗闇の奥へ進めと暗示しているようであった。糸を辿って目線を移動させると、自分の左手の小指に小さな蝶々結びの成された真紅の糸がしっかりと巻き付いていた。
不思議なことに、自分の体だけは発光しているかのように漆黒の中でぼんやりと浮かんで見える。
指に絡まるこれは所謂、運命の赤い糸というやつなのだろうか。右手で摘んでみると、糸はピアノ線ほど細くも無いが、毛糸ほどの太さも無い。触った感触はつるりとしていたが、ほんの少しだけ熱を帯びていて、まるで爺ちゃんが稀に作ってくれる茹でそうめんのようだと思った。
再度、糸の続く先を見据え、糸を少しだけ引っ張ってみた。大した手応えはなく、か細い糸が千切れる気配はなかった。探究心に身を任せて右手の四本指で糸を巻き取りながら、スルスルと潤滑油にでも浸したような手触りのそれらを辿って行く。しかし、最初は軽かった足取りが、何故だか段々と重くなって来た。巻き取り続けた糸は既にドーナツ大の円を作って俺の四指の動きを封じている。やがて足は止まり、巻きつけた糸の束は俺の手から音も無く落下した。
怖い。この先にいるかもしれない誰かに会うことが、果てしなく怖い。一歩一歩進む毎に増した恐怖が、俺の心を蝕んで、俺の影の中に侵食している。
「牛月さん」
声が聴こえた。
辺りを見回しても誰もいないことは分かりきっていたが、俺は思わず顔を上げていた。たったそれだけのことなのに、単純な俺は物理的に前を向けた事で前へ進む力も湧いた気がした。
俺は何を迷っているのだ。これがもし運命の赤い糸で、この先に運命の相手がいるとすれば、そこにいる人物は彼女に決まっている。そう思い直すと、糸の示す方角に人影が見えた。
艶のある黒髪をすっきりと短く切り揃え、濁り無く白い華奢な
やはり猪木だ。彼女は俺の運命だった。それまで探究心に身を任せるままだった足が、猪木の姿を視認した瞬間、浮かれたように走り出した。猪木はその場から動くことなく、俺はすぐに猪木の元へ駆け寄ったが、彼女の周囲の異様な光景に釘付けになった。
その場で俯く猪木の左手の小指には、綺麗な蝶々結びなどなかった。指どころか手首や腕まで伸びた真紅の糸が、無造作に彼女の肢体に絡みつき、皮膚に食い込む程に締め上げ、辺り一面に張り巡らされている。
「猪木」
無意識に彼女を呼ぶと、猪木は顔を上げ、消え入りそうな声で俺の名前を呼び返した。
「忠さん」
初めて見るその表情にハッとして、いつのまにか辺りに張り巡らされた糸を掻き分けて腕を伸ばす。
「猪木! 待ってろ! 今この糸を切ってやるから!」
今度こそ助けてやる。必ずこの手を伸ばして、お前を救ってやる。だからお前も、俺に手を伸ばしてくれ。
「切ってしまうんですか?」
必死で猪木に縋ろうとして、あとほんの少しというところで、落ち着いた彼女の低音が響いた。女性にしては低めの無感情な声が、俺の動きを不思議と静止させた。
糸に絡め取られて身動きが取れない筈だった猪木が、俺の顔を温もりの感じられない冷え切った両手で包んだ。目の前に差し出された彼女の黒曜の瞳は、冷たく光を失った硝子玉のように無機質だった。
視界の隅で揺れる赤い糸が目障りで仕方がない。
「貴方はこの糸を切れますか?」
その言葉を皮切りに、無機質だった糸は生き物然とした動きで俺の足元をすくい猪木から引き離した。どれだけ歯向かっても抗い難い力で後ろに引かれてしまう。距離が開き、猪木の姿が段々と小さくなって行く。目が合ったまま、最後に猪木が少しだけ口元を緩ませた気がした。
「私を殺したのは誰でしょう」
それはまるで、言外に「お前だ」と告げられたようだった。
目の前には見慣れた天井の木目があった。今まで見ていたものが全て夢だったと理解した瞬間、気持ちの悪い汗がどっと吹き出した。心臓の鼓動が大きく頭に響き、目を覚まして飛び起きなかった悪夢は初めてだなと呑気なことを考えて、早まった呼吸を鎮めた。薄手の掛け布団を軽く蹴り飛ばし、ベトベトと肌に張り付いた寝間着代わりのシャツを脱ぎ捨ててタンクトップ一枚になると、床に倒れた時計が朝四時を指していた。
夏休み二日目、部員達との待ち合わせ時間は午前十時だが、目覚まし時計のアラームは敢えて普段の生活時間と変えずに六時に設定していた。だが結局、それよりも早く目が冴えてしまった。邸内から生活音は聞こえてこない。早寝早起きを心がけている祖父母ですら、まだ起床していないようだ。寝覚めの悪い夢を見てしまった手前、二度寝もできない。
祖父母に気を遣いつつ、牛月は音を立てないように襖を開閉した。廊下に足を踏み出すと、どうしてもミシミシと床が音を立ててしまうが、これは不可抗力だ。狭い廊下を通り、居間と台所を経由して書斎の戸を開けると、埃っぽい空間に大量の本が積まれている。古く黄ばんだものから、真新しい帯にキャッチーなフレーズが描かれたものまで、大小様々な書籍が混在している。
牛月は部屋の真ん中に置かれた黒い椅子に深く腰掛けると、手頃な一冊を手に取って読み耽り始めた。そこは小説家であった牛月の祖父が昔、仕事場として使っていた場所だった。幼い頃から祖父母に面倒を見て貰っていた彼は、周囲の同世代の子供達の間で流行っていた遊びは殆ど知らなかった。決して友人が少なかったわけではない。持ち前の明るさと素直さ、不実や差別を嫌う正義感の強さ、当時から運動神経も良かった為、通っていた幼稚園では人気者の部類だった。しかし、彼は祖父の所有する小説の読破という、年齢に見合わない一人遊びに熱を入れた。毎日のように書斎に入り浸り、難しい漢字は辞書を引いて徹底的に調べ上げた。忠少年は、特に推理小説を気に入って読んでいた。あまりに没頭するものだから、友人も大人達も不思議がったが、祖父母は寧ろ新たな本をどんどん買い与えていった。幼稚園、小学校、中学校、高校まで続いたその趣味は、結果として偏った知識と必要以上の人間関係を築かなかった事による異様なまでの素直な思考回路を彼に植え付けた。
シャーロックホームズ、コロンボ、怪人二十面相、お気に入りの本は沢山あれど、遠の昔に読み切ったこの書斎の本の中で、最も好きな本を聞かれたら、彼は迷う事なくこの一冊を取り出すだろう。
『赫絲』
これは祖父が執筆した小説の中で、唯一の恋愛小説と持て囃され、ベストセラーとなった作品だ。身内の贔屓目無しにも、この本は最高の名作であると豪語できる。
政略結婚を強いられた名家の令嬢が、運命の相手を探して旅に出る。彼女には時折、人間の小指に赤い糸が見えるという特殊な能力を持っていた。旅先で出会った青年の指に赤い糸を見た令嬢は、彼に運命の相手がいる事を告げる。しかし、彼は生涯誰とも結ばれる気は無いと言う。紆余曲折を経て、令嬢は自分と青年の赤い糸が繋がっていた事に気がつく。最後は二人が想いを告げて幸せになり、ハッピーエンドという純愛の物語なのだが、牛月にはこの話の終わりにどうしても納得ができずにいる。幸せなエンドロールを迎えるかに見えた令嬢は、折角結ばれた赤い糸を自らの手で断ち切ってしまったのだ。
物語の最後のページはこう締め括られている。
【引き裂かれた赫絲は無残に散らばって、やがて音も無く煙のように霧散した。彼女はただその場に立ち尽くして、晴れやかな気分で唄を歌う。青年はその姿を見て、また彼女を愛しんだ。】
何故、彼女は糸を切ったのだろう。赤い糸を利用して青年と結ばれたという罪悪感に苛まれたのか、長年自身の指にあった呪縛から解き放たれたかったのか、青年の心を試したのか。ファンの間では、曖昧に濁された赫絲の結末を考察する様々な説が飛び交っている。
俺は昔から、この本に関して一つだけ思うところがある。今朝見た夢の内容も相まって、作者である祖父に直接問う事すら出来なかったその仮説が頭を占める。彼女は糸ではなく、青年から解放されたかった。結婚願望など微塵もなかった彼女は、自身を運命という鎖で縛った糸を、果ては青年の愛すらも煩わしく思っていたのかもしれない。この小説にはそもそも、令嬢が青年へ想いを寄せる描写は全く存在していないのだ。
祖父自身はこの小説に関して、恋愛小説だと名言はしていない。祖父はただ一言、「通例とは一風変わったミステリになるかもしれないな」と、幼い俺の頭を撫でただけだった。
*****
夏季休業期間中の朝の学校は、無人を錯覚する程に静寂の世界で、実際には職員室に当直の先生方がいる筈だが、校門から校舎までの道のりが随分と長く感じられた。通常のグラウンドは、運動部の朝練の関係で毎朝のように多くの生徒で埋まる。それが昨日今日に限っては、警察の出入りで生徒間に根も葉もない噂がたたぬよう、学校側の計らいで部活動は一時停止という形になっている。尤も、最果てに位置するミス研の部室付近に普段から人通りが少なかった事もあって、騒ぎを実際に目撃した生徒は殆どおらず、今のところは友人たちから流れて来るどの噂にも猪木の名が出ることは無かった。
犬山と部室棟へ向かう道中、蛍光色の目立つ赤色のリュックサックを右肩にかけた人影が前方に見えた。
「おはようございます。早いですね」
「おう! なんか早起きしちまった! お前らこそ、何してるんだ?」
振り向いた牛月部長は朝だというのに、発声練習でもして来たのかというくらいの最大音量で声を上げた。空元気だろうが、この様子ならば少しは気力を取り戻してくれているのだと思って大丈夫だろう。部長が気丈であれば、俺たちもその背に倣っていられる。
「ちょっと気になることがあって、職員室に寄っていたんです」
ミス研で待ち合わせた時間は午前十時、現在の時刻は八時半だ。昨日の推理の裏付けの為に、俺たちは待ち合わせより随分前に職員室へ足を運び、教員に聞き込みを行なった。事件の存在と大雑把な内容を把握している教師たちは、同情の視線と共に快く質問に応じてくれた。
「何か分かったのか?」
「はい。後で全員揃ってから話すつもりです」
自信たっぷりにそう答えると、犬山は「ふ」と軽く吹き出して、小さな動作でカラカラと笑った。
「なんかそうやって勿体ぶると、大和、探偵みたい」
「いや、そんなつもりじゃねえよ」
「うおお! 格好いいな名探偵大和!」
「冷やかさなでくださいよ」
目を輝かせて興奮気味に言う部長は、まるでヒーローショーを見てはしゃぐ小学生のようだ。それに水を差すような心持ちで、恐る恐る猪木の容体を訪ねた。
「昨日と変わらず、まだ目は覚めていない。いつ起きるかも不明だ。後遺症についても、今はまだなんとも言えないらしい」
「いつ起きるか不明って……」
「明日かもしれないし、場合によっては何年も目を覚まさない事も考えられる」
予想外に重たい言葉を聞かされた犬山は、眠たげな半目を驚愕で丸くする。俯いた牛月部長の顔色は伺えない。
「大丈夫ですよ! きっと夏休み明けるまでには目を覚まして、学校に戻ってきますよ」
自然と口が開いていた。
「だから、それまでに真相を解き明かしましょう」
偽善ばかりの自身の口を閉じることもできず、また勢いのままに余計な慰めをする事しかできない歯痒さで、震える語尾が気弱く縮こまった。
「お前、絶対に大丈夫ですって、あの時も言ってくれたよな」
「すみません」
部長の様子を伺う事なく間髪入れずに謝罪してしまったのは、自身の無責任さに嫌という程の自覚があったからだ。昨晩からずっと考え続けていた。猪木が殺されるような理由、自ら死に至る動機、考えれば考える程に猪木の事が分からない。彼女の事を何も知らない情け無い自分が浮き彫りになるばかりだった。
すると、曲がった背筋を正す力強い平手が俺に襲い掛かった。
「いっ!」
「ありがとうな」
誰よりも辛いはずの彼の、不器用で素直な慰め方に思わず涙が出そうになる。大した年齢差もない筈だが、俺より一回りも大きい男らしい大きな手を広げて豪快に笑い飛ばしたこの人の顔が、空元気ではなく本当の笑顔に戻ってくれる日が来る事を願う。
烏丸と辰巳は、九時になるより前に学校に到着し、結局予定よりも大分早く俺たちの初動捜査は開始された。
「テレビとかでよく見る、キープアウトってテープは貼られていないんですね」
人がいない事以外は普段と全く変わらない様子の静かで古びた校舎を眺めながら、俺たちは靴を部室棟専用の上履きに履きかえる。
平地よりも標高があり日当たりの良いこの学校は、どの棟の室内でも立ち込める熱気が酷く、壁や床の日焼けは著しい。開けてもいない窓の外からは蝉の激声が耳鳴りのように響いている。はだけたワイシャツが汗で肌にへばり付いて気持ちが悪いのに、無人の校舎の妙な雰囲気のせいで身体の芯は冷える。俺たちがいる時点で、正確には無人ではないのだが、誰ともすれ違わない違和感が夏の特別を演出していた。
「殺人事件ではないし、学校はまだこの件を公にしていないからな。この棟は侵入禁止だが、夏休み中の部活動に使う備品を回収しに来たって設定で通して貰える」
「よくそれで許可が出ましたね」
「流石に先生方も、俺たちが捜査の為に嘘をついただなんて突飛な考えには至らないんだろ」
階段を上りながらそんな事を話していると、唐突に真後ろから渋い重低音の声が聞こえてきた。
「顧問同伴で、だけどな」
「ひっ」
突然のことに驚き、声とも言えない声を上げて跳ね上がり、一気に五段程上へ駆け抜けた。
「お前ら、よく目の前に俺がいるのに設定とか、捜査とか、嘘とか堂々と言えるな」
静止した俺達を余所に、さも当然の如く階段を登って行く彼は、
「いつからいたんですか!」
心臓が未だにバクバクと音を立てて、落ち着きを取り戻そうと若干息が上がっている。
「最初からいたわ。全力で無視してくれやがって、挨拶くらいしろ」
まったくと呟きながら歩いて行く彼の驚異的な影の薄さといったら、まるで妖怪のようだ。最初からと言っても、いつからついて来ていたのか全く見当がつかない。これだけ目立つ風貌の男が近くに居て、誰一人として気付かないものだろうか。
「それで、つまりお前らは、猪木の事件が自殺じゃないって言い張る訳か?」
それを聞いた烏丸の遺憾そうな顔にいち早く気づいた辰巳が、まあまあと人当たりの良い笑顔を取り繕って諌めた。
学校側の人間である教員たちは、警察の考えに従って猪木は自殺未遂だと思っている筈だ。例え鼠家先生がその結論に何らかの違和感を感じ、個人としての意見を持ったとしても、立場上生徒に滅多な発言はできない。勿論、俺たちの捜査に手を貸したりはしてくれないだろう。情報が聞き出すリスクを負うより、ここは穏便に否定して事を荒立てずにこっそりと部室の調査をするべきだ。隣にいた犬山と、後方を歩く二人に目配せをして、安全策をとって話を逸らそうと思考を巡らせた。
「先生は、どう思っているんですか?」
そう思った矢先だというのに、足を早めて先生に追い付いた部長がとんでもない質問をしてのける。そうこうしている内に階段を登り終え、後は角を曲がって廊下を歩けばすぐそこにある部室に到着する。
鼠家は黄ばんだ出っ歯を突き出して、フケを被った頭をボリボリと掻き毟る。
「知らん。知っての通り俺は放任主義で、猪木の事件がどうこうってのは分からないし、言える立場じゃない」
「じゃあ、俺たちの捜査に協力して下さい」
慌てて部長に駆け寄り、鼠家先生に聞こえぬよう小声で忠告をする。
「何言ってるんですか部長! そんなの無理に決まってるじゃないですか!」
それが聞こえていたのかいないのか、鼠家先生は白衣の両ポケットをゴソゴソと漁り、見慣れた部室の鍵を取り出した。カチャと小さな音を立てて開いた部室のドアノブを捻りながら、振り向いてあっさりとこう言った。
「いいよ」
「いいのかよ!」
「バレたら先生怒られちゃうから、こっそりやれよ」
「あざーす!」
それまでの真顔が嘘のようにヘラっと軽薄な笑いを浮かべる部長と、無表情なまま教師失格発言をする鼠家先生とのやり取りに、後輩組はついていけずに呆れ果てた。
「怒られるだけで済んだらマシな方でしょう。結局ついて来ないし、あの人教師として色々大丈夫なんですか?」
烏丸の文句は尤もだ。何かあれば監督責任は問われるだろうに、放任主義を通り越してただの物臭なのではないだろうか。仮に俺たちを信頼した上での判断だとしたら、彼は中々の大物という線もあり得る。
「それはないか」と独りごちると、真横に立っていた犬山が小首を傾げたので、何でもないと頭に手を乗せてやりつつ、未だに嫌悪感丸出しな烏丸へ向けて先生のフォローを入れる。
「鼠家先生ってさ、基本的にやる気とか皆無だし、テキトーな感じがするけど、生徒の話とか頼みはちゃんと聞いてくれる人だよ」
部長にちらりと目配せをすると、便乗して貴重な顧問教員について、いつだったか理系に進む予定だと言っていた辰巳に助言をする。
「もし来年化学を選択するつもりなら、質問に行けば多分嫌な顔しながらなんでも答えてくれるぜ」
「嫌な顔はするんだ」
「一年の女子からの評判悪いんですよね。私もああいうタイプは苦手です」
稀に見ない個性的な鼠家の事を『ああいうタイプ』と言い切った烏丸に違和感を覚えたが、それはさて置き部室の調査を迅速かつ慎重に進めなければならない。
あんな事件があった片鱗も、警察が捜査をした形跡も全く見受けられない普段通りの狭い部室に、一人欠けた状態でミス研部員が集まった。自然とできていたそれぞれの定位置には近づかず、全員が棒立ちで牛月の指示を待つ。
窓側に立って見る外の眺めは相変わらず殺風景で、中庭の大木は風に揺れて道に容赦なく青い葉を落とす。少し距離を空けて本校舎の壁が正面に
「さてと、まずはみんなこれを着けろ」
そう言って牛月部長がリュックサックから取り出した物は、何枚かの薄手のゴム手袋だった。それこそ、警察や探偵が現場検証の際に身に付けるような本格的な物で、流石のミステリー研究部、受け取って全員に配り終えると各自がその手触りに興味津々と言った面持ちだった。
「用意周到過ぎません?」
「ミス研たるもの、いつ何時でも事件に遭遇する可能性を考えておくべし」
珍しく感心している様子の烏丸に、部長は急に仰々しい声色を作って言う。独特の低い声が、どこか哲学的な言葉の羅列の効果で妙な迫力を醸し出す。手袋をした両の手を握って開いてと繰り返しながら、耳にタコができるほど聞いた懐かしい彼女のフレーズに本人の姿を頭の中で再生した。
「それ、猿飛先輩がよく言っていましたよね」
「猿飛先輩というと、牛月先輩の先代の部長ですか?」
「あれは部長以上の変人だったよ」
先代の部長、猿飛静紅さんは部長の一つ上の先輩で、俺たち二年生も一年近く一緒に活動をしていた。卒業を迎えて新生活へと羽ばたいた彼女の姿を最後に見たのはいつ頃だったか。大学のキャンパスは此方ヶ丘駅からバスで十分程の距離に所在しているが、生活時間の違いからか、連絡も余り取れずに疎遠にってしまっている。
幅広くミステリーに対する関心が深い牛月部長とは対照的に、彼女はシンプルに殺人事件の起こる推理小説や探偵物の作品のみを愛し、本気で探偵事務所の設立を夢見て経営学部に進路を定めた程だった。パワフルでリーダーシップのある彼女に、俺たちはいつも振り回されていた。今となってはいい思い出だ。
「調べると言っても、何をすればいいんです?」
いざ調査を始めるにも、現場検証など本格的な事ができるはずもなく、素人の烏合の集では話にならない。何から手をつけたら良いのか、具体的に考えていなかった俺は完全に手持ち無沙汰である。
部屋を静かに見回していた烏丸が口を開く。
「関係ありそうなカードとか、猪木の荷物は警察に回収されていますよね」
日に焼けて色褪せた机に残っている物は埃と傷くらいで、この部室の備品や設置物は老朽化して使われなくなった物ばかりだ。何がどこに置かれているかを完全に把握している人間がいるとしたら、長い間部長に代わって部室を管理し続けている猪木くらいのものだ。無意識に口に出しかけて思い留まった。不用意に彼女の名前を出してはいけない。
「何かが失くなっているとか、逆に増えているとか、普段ここを出入りしている俺たちにしか分からないものを探す。違和感があれば言ってくれ。物は下手に動かし過ぎないようにして、やむを得ない場合は同じ位置に戻せ」
「了解でーす」
玄人然とした部長の的確な指示の元、奇妙な音を立てるオンボロなクーラーが申し訳程度に稼働する部屋で、気休めに袖を捲って暑さを誤魔化しつつ各人で物色を始めた。
胡座をかいて床に座り込み、整理された戸棚の下段を空き巣のような手探り状態で漁る。汗が頬を伝い、ポタリと溢れてズボンの生地を濃くした。
牛月部長は肩まで袖を上げて筋肉質な肩を晒し、汗だくになりながらも懸命に隅々まで調べている。毎日大した悩みもなく楽しそうで、キシシッとチェシャ猫のように歯を見せて無邪気に笑っていた。真面目に部長として働いている姿を見たことがない位の軽佻浮薄な彼の態度が嘘のように真剣だった。猪木のことが心配なのは皆同じだが、彼にとって彼女は唯一無二の存在だ。一見では分かりにくい彼等の仲の良さと熟年夫婦のような距離感は、世間一般の高校生の男女のそれとは異なっていて、互いを想い合っている事がほんのりと、しかし確実に俺にも伝わって来た。
この人が諦めない限り、俺たちも手を休める訳にはいかない。そんな思いで手を動かし続けた。
数十分間、真剣にあちこちを覗き込み、備品を動かし戻すを繰り返したが、別段大した収穫もなく、いい加減集中力の限界が訪れていた。クーラーは室温を一定に保ち始めていたが、節電を銘打って事務室で集中管理された最低限の温度は無理な体勢で動き続けていた俺たちの体力を余計に消耗させた。部員の限界を察したのか、牛月が唐突に床に寝転んで堰を切ったように叫んだ。
「あっちー! 何にもねえなあ!」
無言の時間に耐えかねていたのは皆同じだったようで、彼を始めとして全員が口を開き始めた。
「最近増えたものといえば、前回の暗号作りに使った折り紙と厚紙くらいですかね」
本棚に並ぶ書籍を片端から調べていた烏丸が、活動記録のファイルを捲りながら言う。
ミス研には猪木が作成して生徒会に提出している活動日誌とは別に、毎月決まった部員が当番制で活動記録をまとめている。その月の担当は何かしらの問題や話題を用意し、他の部員でそれを取り上げて話し合ったり答えを導き出したりと、ミステリーを主軸とした活動だ。もしも部室で部費を使って遊んでいるだけだと学校側に文句をつけられた時に対抗できると、定例として真面目に活動を行っておこうと、先代の猿飛部長が提案した催しを現在も継続している。
俺は先ほど隅に追いやった物を手に取り、重心を操って上手いことくるくると弄びながら言う。
「それと、犬山の飲んだコーラの空のペットボトルな」
「ごめん。ちゃんと持って帰るから」
「お前、ファストフードやらお菓子やら、偏食も過ぎるといい加減健康を害すぞ」
「ごめん母さん」
「俺に出産の経験はない」
俺と犬山のやり取りを眺めて苦笑いした辰巳が、ゴミ箱の蓋を開けて中を覗き込む。
「ゴミ箱も、出しに行ったばかりで見事に何も無し」
「猪木先輩は部室に私物を置く人ではなかったですし、もうここを調べても何もないんじゃないですか」
壁時計を見やると、時刻は既に十二時を回っていた。随分長いこと集中して調べていたようだ。
視界の隅に不快な黒が横切ったので、仰ぐ振りをしてそいつを振り払う。
「今月のミステリー当番って誰でしたっけ?」
パン、と腕に留まった蚊を潰した音とほぼ同時に、辰巳が今度はカレンダーに付けられた印を眺めながら言った。俺の腕の上で無惨な姿となった虫を、ズボンのポケットから取り出したティッシュで綺麗に拭き取る。血の混じった黒ずみに、噛まれた時のあの理不尽な痒みを想像する。噛まれるといえば、前に俺が当番だった時は巷で流行りの人狼ゲームで部長達に挑戦した。結果は惨敗、猪木と烏丸の完全なるポーカーフェイスとルールを把握しきれなかった正直者の牛月部長が戦犯だった。
「俺と、猪木」
犬山がまだ甘い匂いの残るペットボトルを受け取って答えた。
「何作ったんだ?」
「水平思考問題って知ってる?」
「何それ?」
「ああ、所謂イエスノーゲームのことだろ」
何やら難しげな単語に首を傾げる俺とは裏腹に、部長を始めとした他の面子はなんとなく理解が及んでいるようだった。
「ああ、回答者がイエスかノーかで答えられる質問を出題者にして、その答えをヒントに出題者が定めた正解の物を当てるっていうあれですか?」
「そう、それの応用。シチュエーションパズルとか、ウミガメのスープとか、呼び方は色々あるみたい」
「海亀のスープ?」
またもや出てきた聞き覚えのない単語に疑問符を浮かべる辰巳と俺の為に、犬山がペンと紙を取り出して具体的な説明を始めた。机の上にA4サイズの紙を置き、空気の抜けるような音と共に黒のマジックペンの太字のキャップを外した犬山は、特徴的な丸文字で大きくこう書いた。
『レストランでウミガメのスープを注文した男は、次の日に崖から身を投げた。それはなぜ?』
何度も文字列を目でなぞったが全く訳のわからない文章に俺はますます首を傾け、部長や辰巳も紙に釘付けになったまま黙って熟考している。
烏丸が少し離れた場所から紙を見やって言った。
「スープに毒が入っていたから?」
「なんで毒が入っていて崖から身を投げるんだよ」
「猛毒の激痛に耐えられなくて、とか?」
挑発的に笑う烏丸が明らかに俺をからかっている事は分かったが、つい想像して顔を青くしてしまう。俺が人の恐怖を煽るホラーやグロテスクは得意ではない事はミス研内周知の事実である。
「お前、エグいこと言うな」
「ノー」
「出題者である犬山は、やっぱりイエスかノーでしか答えないんだな」
部長が合点がいった様子で一人頷いたが、俺にはいまいち理解ができなかった。結局、俺は何の質問もできないままで他の人間と犬山が質疑応答を繰り返す。
「男は死んでしまった?」
「イエス」
「ウミガメのスープを飲んだせいで身を投げたんですか?」
「イエス」
「スープが男には払えない位の高額だったとか?」
「ノー」
腕を組んで唸りだした一同に、犬山が時間切れと言ってスマホを掲げてみせた。それはとあるクイズサイトの解答ページが開かれた状態だった。好奇心の塊達は揃いも揃って画面に顔を近づける。
昔、船乗りであった男はある日遭難し、数人の仲間と共に無人島に流れ着いて難を逃れた。やがて食料が尽き、衰弱した男に仲間が「これはそこで獲ったウミガメのスープだ」と言って飲ませ、男は一人生き延びた。レストランで本物の海亀のスープの味を知った男は、昔飲んだウミガメのスープの正体を知り、自責の念に苛まれて命を絶ってしまう。
その内容は先程の端的な文章などでは到底辿り着く事のできないであろう、固定観念を逸脱した残酷な物語だった。
普通の問題は、問題文に情報を詰め込み、明快な解答と解説をつける。対してこの水平思考問題では、問題文には最低限のヒントや要点以外の不必要な言葉を、情報のほとんどは答えに委ねられる代わりに質問というハンディキャップが与えられる事で、問題の情報量を回答者自らが好きなだけ増やすことができる。
「この通り。モノによっては、答えにストーリー性があって、想像力を働かせないとなかなか解けない問題もある」
「いや、これは難し過ぎる。さっきの文だけでここまで分かるわけがないだろう。微妙に納得できない」
こっそりネットで海亀料理、毒などと検索をかけようとしていた自分が恥ずかしくなり、辰巳の「えー」という落胆の声に便乗してついつい文句が口から溢れさせた。
作問者でもないのに小さな口を尖らせながら、犬山は不満気に低い調子の声色で言う。
「難易度は高いけど、この長い答えにかすりでもしてれば正解だし、質問が的を得ていれば解ける問題だと思う。俺がストーリー担当、猪木が作成担当で、まだストーリーは考え中だった」
以前に冷え性で汗をあまりかかないと言っていた犬山は、この暑さの中でもワイシャツの背や脇下に染みを作ることはなく平然としていた。一人だけ同じ温度を感じていないような虚ろ気な姿が妙に気掛かりで、俺は無性に彼に何かを言わなければと強く思い、よりにもよって過ぎた事を掘り返すような話題を選択してしまったのだ。
「一昨日の放課後に猪木とあった時、その話はしたのか?」
咄嗟のことで、俺自身どんな声音でそれを口にしたのかは分からなかった。不味いと思った時にはもう遅く、すぐ近くに立っていた犬山は俺の目をじっと見つめた。
「してない」
犬山の丸い額からつうと一筋の汗が流れたのを見て、俺はやっと肩の力を抜いた。次に、なんの含みもない純粋な返答が脳に浸透し、俺は頭の後ろで手を組みながら「そっか」と短くつぶやき返した。
草臥れたスリッパが床に叩きつけられる音がして、立て付けの悪い部室の扉が無遠慮に開かれる。
「おーい。まだかかりそうか?」
倦怠感の滲み出る低い声でそう言った鼠家先生は、何本かの鍵を連ねた輪に節くれだった指先を引っ掛けて回しながら、逆の手で疎らに生やした無精髭を弄る。
「流石に昼飯は食えよ。話すんならクーラーの効いた場所でやれ、熱中症で倒れられたら俺が責任を問われる」
「自己保身を隠しませんね」
清々しい程に本音を包み隠さず言い切る彼に侮蔑の視線を向け、烏丸はいよいよゴミを見るような目でその教師を見ている。俺達を気遣っている部分もあるだろうに、烏丸は意固地な割に変なところで物事を素直に受け取る。開け放たれた扉から入り込んだ熱気は疲労の甚だしい身体には毒でしかない。早々に涼しい場所へ移動したい気持ちが膨らむ。
「どこで食べる?」
「どこか空いてる教室があればいいんだけど」
「ここで食べるわけにもいかないし」
「どこか涼しいところはないかなあ」
全員がわざとらしく悩ましげな唸り声を上げ、困り果てた懇願の眼差しを彼に向けた。
「先生」
鼠家は盛大に眉を顰めたが、やがて俺たちの狙い通り、肺の中の空気を全て放出するかのような深い溜息を吐いて渋々昼食場所を提供してくれた。
「ああもう、分かった分かった。俺の部屋で食え。汚したら廃部にするからな」
「大人気なさ過ぎ」という烏丸の誹謗を聞き流して、俺たちは空腹で音を鳴らす腹を抑えながら部室を後にした。
部屋を出た時、一瞬頭を過ぎったあの時の光景を振り払い、自然な笑顔で鼠家の後ろに続いた。どこかぎこちない様子を感じているのはきっと俺だけではない。
本校舎三階の端に位置する化学準備室は、この学校で唯一の化学専門の教師である鼠家の根城となっている。机には授業関連のプリント類や生徒のノートや得体の知れない薬品の瓶が無造作に並べられ、床の半分は分別されていない弁当やペットボトルのゴミが袋から溢れて散乱していた。クーラーはついているが埃っぽく、空気の篭り具合からするに掃除も換気もほとんどしていないようだ。
レンジや小型冷蔵庫が設置されている様子を見る限り、明らかに私物化されたこの部屋を取り締まるまともな人間はこの学校にはいないのだろうか。
軽蔑の眼差しを更に色濃くしながら、烏丸は部屋に入る事を躊躇した。
「なんか臭いんですけど」
「文句言うなら廊下で食え」
「サイテー」
生徒と教師だというのに性格的に反りが合わない二人を「まあまあ」と落ち着けつつ、辰巳は烏丸の座ろうとしている椅子を引き、邪魔な物とゴミを手早く退かした。いくらなんでもこの環境で食事をするのは衛生的にも精神的にも良くない気がする。男でも多少は戸惑うこの空間は、女子には辛いものがあるだろう。神聖な学び舎たる学校にこんな汚物地帯があるなどと、信じられない思いで床に落ちていた袋を拾って片端からゴミを詰め込み始めた。周囲のガラクタを整理して、窓を開けて換気を済ませ、全く使用した形跡のなかった新品同然の消臭剤を先生諸共カーテンに向かって吹き付けた。
持参して来た昼食を、邪魔な物の無くなった机にそれぞれ広げ、やっと一息つくと、犬山が俺の弁当に入っていたちくわを加えながら言った。
「あ、大和、あの事伝えなくていいの?」
「ああ! そうだ! 鍵!」
「鍵がどうした?」
「聞いてください! 昨日の帰り道で、俺達なりに推理をしたんですよ」
鼠家先生が現れたり、夢中になって部室の調査をしている内にうっかり忘れかけていた。このために早い時間から学校へ来て、部長にも自信満々なそぶりを見せたというのに、やはり俺も多少は気が参っているのかも知れない。とりあえず、昨夜の犬山との会話を端折りながら説明する。
「なるほど、可能性は高いんじゃないか。朝、職員室で聞いてきたんだろう? どうだったんだ?」
拳大のおにぎりにかぶりつき、牛月部長は口の端についた米粒を拭った。彼の昼食は炭水化物とたんぱく質たっぷりの、運動部員のような量と栄養価重視の和食の手作り弁当だ。
「鍵の棚に一番近い席の先生に聞きました。あの日、猪木先輩の姿は目撃していないそうです。夏休み前で、休みの部活が多かったので鍵を取りに来る生徒も少なかったそうで、間違いないと証言しています」
「じゃあ、やっぱり」
各自が予想通りの反応を示したので、「もう一つ」と前置きして新たに手に入った情報を加えて話す。
「髪の長い男子生徒が一人来ていました。各部活の代表者の中では見覚えのない顔だったので印象に残っていたらしいです」
俺と犬山の推理によって得た一番の収穫はこれだった。長髪の男子生徒はこの学校に確かに存在している。
「猪木先輩の家に通っていた奴と、同じ奴かもしれません」
「背の高い黒髪の生徒だったって、先生が言ってた」
犬山は焦げ茶色の頭髪で、背も百六十台後半程度で長身とは言えない。更に証言をした先生は犬山の現代文の授業を担当していて、国語係である犬山とは交流の深い教師だった。証言を得た時、当然犬山も同行していたが先生と普通に会話をしていたので、件の長髪の男子生徒が彼と同一人物であるはずがないのだ。
「犬山の疑いは晴れましたね!」
「俺、疑われてたの」
「言葉の綾だよ」
犬山の持参した菓子パンはとても成長期真っ只中の男子高校生の腹が満たされるような量ではない。一口は小さく、咀嚼音のほとんどしない上品な食べ方で、アーモンドとチョコレートのかかったパンを齧っていく。
「ほら食え」
栄養が心配で、俺はいつも多めに作っているおかずの一部を犬山に与える。口元に箸を近づけると、犬山は条件反射のように黙って口にする。嫌いなものをやると、意地でも口を開かない。
「そうなって来ると、その長い黒髪の男子生徒が誰なのか特定すべきだな。心当たりはないか?」
全員が他の誰かの反応を待って無言の時間が流れる。部長は早々に弁当を平らげ、黒塗りのシンプルな弁当箱に蓋をした。
「そんな目立ちそうな特徴なのに、思い当たらないって言うのも変な話だな」
「長髪の男子?」と、急に気配を露わにした鼠家に、一同は驚かされた。影が薄いという次元の問題ではなく、完全にそこには誰もいないと錯覚させられていた。先ほど掃除してやったばかりだというのに、彼の目の前には新たなコンビニ弁当のゴミが乱雑に放置されていた。使用済みの割り箸が片方床に落ちているが、拾おうとする気配は一切ない。その癖、だらしなく突っ伏しながらも生徒間の話にはちゃっかり聞き耳を立てていたようだ。
「いるぞ、二年に」
「え?」
「理系で猪木と同じクラスの猫羽って奴だな。長髪というか、襟足だけ伸ばしてあるからぱっと見ただけだと分かりにくいが」
「猫羽、名前はなんとなく聞いたことある気がするんだけど」
少人数制を銘打つ此方ヶ丘高校とはいえ、学年全員の名前を把握しているわけではない。二年生ともなると選択制の移動授業が増える為、同じクラスの生徒でさえ全員親しいとは限らない。猪木のクラスは二年二組、俺と犬山は三組である。
「部活とか、分かりますか?」
「いや、流石にそこまでは分からねえけど、猪木のクラスの担任なら分かるんじゃねえか。虎牙先生、水泳部だから今日もいるはずだぞ」
水泳部は都大会出場経験もある強豪で、本校舎から離れたプールで夏休み中もほぼ毎日活動している。今日も特例で活動を許可されていた。顧問は複数人いて、英語科で二年二組担任の虎牙先生もそのうちの一人である。
「いえ、今日はいないと思います。この前、商店街の福引で旅行のペアチケットが当たったとかで、夏休みが始まると同時に有給取って彼氏と旅行に行くって浮かれてましたから」
烏丸がそう言った事で、手がかりを追求する折角の手段が絶たれた俺たちはすっかり落胆した。生憎と俺の交友関係はあまり広くはなく、二組には数回喋ったことがある程度の友人が数人いる程度で連絡の取りようもない。
虎牙先生は二十代半ばの若い女性の教師で、授業の合間によく自分の話をする。選択授業の臨時で一度だけ教わっただけの俺ですら、年下の草食系彼氏がいて、実家は愛知県の名古屋市で、お酒が好きだが弱いのであまり飲まない等、知っていても利の無い彼女の赤裸々な生活事情を大量に取得してしまった。
「虎牙先生の英語受けてるのか。あの人の授業って面白いよな。身の上話とかめっちゃしてくる」
「いえ、授業で聞いたわけじゃないですけど」
「姫ちゃん、真面目だからよく質問に行くんですよ。英語は特に熱心に受けてるから」
「うるさい。余計な事言わないで」
辰巳が自分の事のように自慢気に言うと、烏丸は声を荒げてそれを遮るが睨みつける表情には他の人間に啖呵を切る時のような迫力がない。顔を赤らめたりという分かり易い変化はないが、辰巳に対する彼女の態度を見ていると最初の印象とは異なる二人の関係性がつかめて来る。人の感情を深読みする事のない部長と鈍感な副部長は全く気がついていないが、俺と犬山は時々この可愛い後輩たちの行く末を想像してニヤついていた。
共感を求めて隣のパイプ椅子に腰掛けている犬山の方を向くが、彼は俺と視線を交わす事なく訝しげな表情を浮かべていた。
「烏丸、その話っていつ聞いたの?」
「旅行の話ですか? だから、質問に行った時に」
「いつ、質問に行ったの?」
その場の空気にはそぐわない威圧的な犬山の問いに困惑すると同時に、烏丸は何故か目を見開き、自ら言葉を封じるように唇を噛んだ。
「今日は水曜日で、終業式の前の日は日曜日だったよね。それに、先週はあの人、風邪でしばらく休んでた」
「犬山?」
捲し立てるような早口が、彼らしくない刺々しさを感じさせて俺の不安を煽った。事件以来、みんなの様子が変に思えてしまうのは俺の疑心暗鬼が過ぎるからだろうか。
「ねえ、この前っていつ?」
威圧的に見開いた瞳で烏丸を見つめる。ただならぬ雰囲気の二人に、ゴクリと誰かの喉のなる音が聞こえた。
「ああ、思い出しました。始業式の日の朝ですよ」
しかし、今の今まで青い顔をしていた烏丸が何食わぬ顔で言い放った。
「うっかり平常登校の時間に学校に来てしまって、暇を持て余して自習をしていたんです。問題集の中に分からない部分があったので、虎牙先生のところに質問に行きました。それが、どうかしましたか?」
「別に」
犬山の様子は戻っていたが、今度は形勢逆転といった風に、辰巳が不機嫌な声を上げて椅子から勢いよく立ち上がった。
「犬山先輩、もしかして姫ちゃんを疑っているんですか?」
「そういうわけじゃ」
「姫ちゃんはあの日の放課後は僕とずっと一緒にいました。犬山先輩と猪木先輩が一緒にいるところも、渡り廊下で姫ちゃんと見たんです」
「だから、疑ってないってば」
言葉を遮る勢いの辰巳に苛立った犬山も少しだけ声を荒げる。謎と疲労と暑さが積み重なり、意見の対立が発端となってそれぞれが喧嘩腰になってしまっている。救済を求めて部長を見遣ると、立ち上がった牛月部長が手の届く距離にいた辰巳の肩に手を置いた。
「辰巳も犬山も少し落ち着け。部員同士で争ってどうする」
部長の鶴の一声で一瞬静かになったように思えた。
「やっぱり猪木先輩は自殺未遂だと思います」と、烏丸が強気で言い切った。最初からこの件を調べる事に納得していなかった烏丸は苛立ちを隠さず、ここぞとばかりに意見を主張し始めた。
「私は最初から言っていましたよ。中途半端に捜査なんてして、その結果、部活内の人間関係が崩壊したら本末転倒じゃないですか」
「烏丸、それは違う」
「何が違うんですか。事実、何も見つからなかったじゃないですか」
烏丸は厳しい口調で部長を黙らせる。
「か、烏丸たちの言ってる事が怪しいからでしょ。ちゃんと本当の事を言ってよ」
争い事を好まない犬山が恐々と震えながらも烏丸に反論した事にギョッとして、俺は口を挟む隙を見失った。烏丸は矛先を部長から犬山に移し、への字に結ばれた紅い唇を動かす。
「言ってますよ。そういう犬山先輩こそ、本当に猪木先輩と何もなかったんですか? 大体犬山先輩ってこういうのに付き合うタイプじゃないですよね。浮気がバレるのが怖かったんですか? それとも彼女に浮気された上に自殺未遂までされちゃった部長が可哀想で同情してるんですか?」
「何言ってるの、何もないよ」
犬山は消え入りそうな声で精一杯に烏丸を睨み返すが、明らかに涙目になっている。偽善者振るつもりも、理由なく犬山の味方につくつもりもなかったが、理不尽な虐めまがいの罵声に、流石に我慢の限界を迎えた俺は思わず怒鳴った。
「おい! いい加減にしろ!」
声を上げてから、つい先日ゲーム機の取り合いが喧嘩に発展した下の弟二人を同じ台詞で叱りつけた時のことを思い出した。
なんで友人と後輩を怒鳴りつける羽目になるんだ。俺たちは猪木を助けたかっただけだろう。俺たちが仲間割れしたって何にもならない。やめてくれ。これ以上は、戻れなくなる。
「はい、そこまで」
また突然に現れた鼠家先生に心臓が止まりそうになる。目の前で勃発した生徒たちの喧嘩を、今まで制止することなく見ていたと言うのか。
鼠家先生は眠たげに瞼を擦る。心なしか顎元に何かに圧迫されていたような赤い跡が付いている。
寝てたのか。この人、生徒の揉め事を意にも介さず居眠りブッこいてやがったのか?
「喧嘩すんなら今日はもう解散にしろよ」
説得力はカケラもないが、初めて教師らしい言葉を口にした鼠家の顔を立てて、俺たちは黙って昼食を片付け始めた。
*****
本校舎の屋上は基本的に施錠されているが、階段横の用具室の勝手口から出入りすることができる。用具室は暗証番号式錠になっていて、ドアノブ部分に数字とアルファベットが羅列している。番号は特に秘匿されておらず、先輩から後輩へと受け継がれるように生徒の過半数に出回っている為、実質自由に屋上に入る事ができるのだ。教師達も危険が無い限りは黙認しているらしい、此方ヶ丘高校暗黙のルールの一つだ。
出入り口からそう遠く無い位置で、安全性の考慮された頑丈な手摺にもたれ掛かり、烏丸姫は町の景色を見つめている。
東京にしては自然の残る街並みが一望できる屋上は、彼女の密かなお気に入りの場所だった。屋上のさらに上に設置された貯水槽が、都合良く日陰を作り出してくれている。
他人の好奇の視線に晒される人混みも、思春期の女子高生相手に何の配慮も見受けられない無遠慮な身内も、嫌いでは無い居場所であった筈のミス研も全て、今の烏丸にはとても居心地の悪い空間だ。
口が悪い自覚はある。この悪癖が災いして、何度も人間関係で問題を起こして来た。その度に彼に迷惑をかけ続けて生きて来た。口を噤む事を覚えたら、今度は彼以外のものをほとんど失っていた。今よりも青かった私にはその事実が耐えられなくて、彼に酷く八つ当たってしまった。
今日、初めて故意に人を傷付ける言葉を吐いた。そうすれば、彼を守れると思った。
「姫ちゃん、大丈夫?」
どんな不満があろうと、こいつの側に居られるのなら問題はないと思えていた殊勝な自分は、一体どこへ消えてしまったのだろう。あの日から、私が道を踏み外した日から少しずつ歯車は食い違い、既に大きく狂ってしまっている。
風に攫われて広がる髪を纏めて、烏丸はこれ見よがしに溜息を吐く。
「何が」
芯まで冷えた氷柱のような棘のある声、自身が感じている声と、相手に聞こえる声はまた違う筈だが、きっと相手にはもっと非情に写っている。光臣は気にせず、私が寄り掛かっているよりも少し距離を開けた場所に背を預けた。
「色々と、冷静じゃなかったみたいだからさ」
「冷静だよ」
「ねえ、姫ちゃんは、牛月先輩とか、兎林先輩とか、犬山先輩が嫌い?」
光臣は高音とも低音とも取れない不思議な声をしている。何を言っても往なされてしまい、何を言われても絆されてしまう。マイナスイオンでも生成してるんじゃないかって位に穏やかな彼の声が、ずっと聞いていても飽きないくらい、無性に愛しかった。その反面、中学時代のいつだかを境に私よりも大人びてしまった彼の諭すような言い回しが嫌いだった。それをされると自分の幼稚さを思い知らされるから、彼も私が嫌がる事を察して私の行動に口を出すことは滅多にしなかった。
「別に、好きでも嫌いでもない」
「先輩とか後輩っていうと、少し距離を感じてしまうけど、結局は年齢の違う友達みたいなものだと思うんだよね」
「何が言いたいの」
フェンスを蹴って離れて彼へ向き直すと、光臣は私の不機嫌と相殺するようにして、にへらと口元に必要以上の爽やかな笑みを浮かべる。私の怒りとバランスをとるようにして明るく笑うのは、多分本人も気づいていない光臣の癖だ。
「姫ちゃん、友達を大切にしてね」
けれど、それはいつもの癖などではなく、はっきりと光臣自身の意思を持った笑顔だった。目を見開く私から目を逸らし、光臣は細い睫毛を伏せ、風に煽られる前髪をかき上げた。
「猪木先輩の事が嫌いでも、他の先輩まで嫌いになる必要はないよ」
背中に嫌な汗が伝った。
穏やかな彼から感じた不穏を振り払いたくて、自分の罪を忘れたくて頭を振ると、髪が乱れて口の端に一束引っかかる。咥えてしまった髪を、光臣が正面から手伸ばしてそっと摘んで避けた。口元に伸ばされた指の爪は綺麗に丸く整えられていて、几帳面な光臣の性格を物語っていたが、軽い出血の痕が残る親指の逆剥けが痛々しかった。
「お前、何を考えてるの」
「うーん。姫ちゃんを守りつつ、猪木先輩を確実に殺す方法かな」
平然と明るく言い放った残酷な言葉が、私以外の誰にも聞かれていない事を願う。悪びれもせず床に胡座をかく光臣の様子を見て、今度は逆に安心してしまった。
「どうせ目を覚まさないのなら、死んでいるのと同じでしょう」
胡蝶之夢という荘子の故事を元にした言葉がある。胡蝶になって遊ぶ夢をみて、目が覚めると夢で胡蝶になったのか、胡蝶が夢をみて自分になったのか、混乱に陥ったという話だ。目の前にある現実が、夢か現実かを証明する手段はない。夢だとしたら、自分は生きているのか、死んでいるのか、人の命の概念はそんな儚い問答ですら歪む。
無機質な病院の一室で眠り続ける猪木先輩は、今はどんな夢を見ているのだろう。
*****
犬山と兎林は少しでも情報を得ようと、他の生徒がいることを期待して校内を巡回していた。本校舎二階の渡り廊下付近には自習スペースと自動販売機が一台設置されていて、休憩にはもってこいだった。室内とはいえ、体力のない文化部男子が小一時間ほど歩き回れば気力も尽きる。熱中症対策にとスポーツドリンクを購入して、兎林は備え付けのテーブルに腰かけた。犬山も缶のコーラを買って来て、近くの椅子を引いて力なく持たれた。
大方予想通り、廊下を歩いても生徒とすれ違うことはなく、施錠された教室は勿論、窓の外に見える校庭も無人で、ここには俺たち二人しか存在していないような気分になる。
「お前、なんで烏丸にあんなこと言ったんだ?」
烏丸の発言に矛盾があっただけなら、犬山があそこまで敵意を剥き出しにする必要はなかった。然るべき理由があったからこそ、犬山は烏丸に指摘をしたのだと思う。少なくとも俺の親友は、ただの言い間違えに突っかかるような奴ではない。
白い首に薄らと浮かんだ喉仏を上下させて、コーラをこくんと飲み干した犬山はプルタブを弄りながらポツリポツリと話し出した。
「俺、二人を疑ったんじゃなくて」
「うん」
犬山があまり感情的でない要因は、生来のおっとり気質が割合を占めているが、一見歯切れの悪い言葉選びも急かさずに待ってやれば彼の中で理論の道筋が出来上がる。思考の整理が人より慎重で、その分鋭い観察眼を持っている。
犬山の特技はゲームだが、決してオールジャンルで強い天才的なゲーマーという訳ではない。初見のゲームをプレイする時、一度目、二度目は初心者丸出しでありがちなミスを連発するが、回数を増すごとに集中力は洗練され、飽きを知らずに何度も何度も同じゲームを繰り返す。最終的には周囲よりも短時間で熟練のゲーマーと拮抗する程の実力をつけるスロースターターなのだ。普段の思考回路もそれと同じで、少し時間を与えてやれば良い。
犬山の中で流れる時間と、周りの人間を取り巻く時間の速さは異なっているのかもしれない。だから、犬山は置いて行かれないように人の温もりにしがみつく。
しばらく待ってやると、犬山は眦を決した様子で俺に訴えた。
「二人の様子が、いつもと違うなって思ったから」
「いつもと違う?」
「いつもより、べったり一緒にいる。いつもは辰巳が烏丸の側に控えてるって感じなのに、今日は二人共近くにいるように動いてるっていうか。あと、なんとなく、会話が少なく感じた」
「俺にはいつもと同じように見えたけどなあ」
何とは無しに俺の主観を口にすると、犬山は自信なさげにしょんぼりと俯いた。犬山に悪意はなかったとはいえ、自分の指摘が揉め事に発展してしまった事に罪悪感を隠せないようだ。
「ごめん。気のせいだったかも。空気悪くした」
「お前が俺よりも後輩のことをよく見てるってだけの話だろ。あんま気にすんなよ」と言って頭に手を乗せるがいつものように手にすり寄って来ない不自然な犬山の顔を覗き込む。思い詰めたような顔で俯く彼の頭頂部を戸惑いながらも撫で続けていると、犬山は俺のシャツを握り締めて軽く引いた。
「あのね。昨日の夜、家に帰ったら、変な手紙が届いてて」
「変な手紙?」
「怪文書みたいな。意味の分からない手紙だったんだけど、もしかしたら烏丸と辰巳に関係しているかも知れなくて、いや、俺の勘違いかもしれないけど、でもそうとしか思えない文章だったから」
要領を得ない犬山の発言に只ならない気配を感じ、切羽詰まった瞳で何かを訴えようとしている彼の細い肩を支える。肉付きのまるでない、布の上から骨を掴んでいるような恐ろしい触感がした。偏食な生活を送る犬山の手足は、元々小柄で頼りない細さをしていたが、今は力を入れれば折れてしまいそうな程に痩せてしまっていた。犬山が尋常ではない何かを抱えている事は容易に想像できた。
「落ち着けよ。なんて書いてあったんだ?」
「写真ある」
「見せてくれ」と頼むと、犬山は慌ててスラックスのポケットから手帳型のケースに入れたスマホを取り出してパスコードロックを解除しようとするが、焦るあまり二度も認証に失敗していた。ようやく開いた写真フォルダの一番下、最新に保存されていたものは、わざわざ宛名だけが印刷されたシンプルな白い便箋だった。木製の机の上に広げ、急いで撮られたらしいその写真は少しだけブレていたが、便箋の中から取り出されたと思わしき一枚のカードの文字だけをはっきりと写していた。
『巳と酉は嘘吐きだ』
一般的な細い明朝体で印字された、たった一文だけの手紙は異様としか言い表しようのない、奇妙な圧を放ってそこに存在していた。
「なんだこれ」
「干支で使う漢字の蛇と鳥、最初は訳が分からなかったんだけど、もしかしたらそのまんま、辰巳と烏丸を表しているのかもと思って」
「だとしても、嘘吐き? 何についての嘘だ? そもそもこれは誰から送られてきた手紙なんだ?」
「切手も差出人の名前もないから、直接投函された。でも、ただの悪戯かもしれない」
「このタイミングで、こんな手の込んだ悪戯が?」
「分かんない」
他人と共有できた事で、少し緊張が和らいだのか、犬山は息を深く吐き出してスマホの画面を閉じた。手紙について詳細を聞こうとした直後、暗くした筈の画面が明るくなり、待ち受け画面に『部長:これを聞いてくれ』と彼からのメッセージが表示された。
「部長? なんだって?」
「なんか、録音ファイルが送られてきた。聞く?」
「再生してくれ」
メッセージのトーク画面に、部長からたった今送信されたファイルがあった。首を傾げながら横三角の再生マークをタップする。
屋外で録音されたのか雑音が酷く、犬山は音量を最大まで上げた。
『お前、何を考えてるの』
先程まで行動を共にしていた後輩の声が、機械を通して流れ出した。
『うーん。姫ちゃんを守りつつ、猪木先輩を確実に殺す方法かな』
突然でた猪木の名前と、軽々しく告げられた物騒な単語に驚いて、俺は思わず机から降りて立ち上がった。
「は?!」
「し、まだ続きがある」
『どうせ目を覚まさないのなら、死んでいるのと同じでしょう』
烏丸の無関心な冷たい言葉を、信じられない思いで耳にした。疑問は山ほどあるが、これが真意であるならば、犯人は本当に辰巳と烏丸で間違いなくなる。
録音はそこで終わっていた。
何故、部長はこんなものを撮って俺たちに聞かせたのか。何が本当で、何が嘘なのか。
混乱と不可解をうまく言葉にできずに固まった二人は、近くの階段から足音が向かってくる事に気付かない。
何も解決しないまま、ただ時間だけが過ぎて行く。
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