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ではこの思想的背景には何があるか。それはイマヌエル・カントの倫理学である。カントによれば嘘をつくことは非倫理的である。それは1797年の『人間愛から嘘をつく権利と称されるものについて』に始まる。
かつてはこの考えは厳格主義のカリカチュアとして評判があまりよくなかったが、その思想が哲学界を席巻し、嘘をつくことは最大悪となったのである。しかし、その一方「まったく嘘をつかないというのは人間の自由や意志に反するものではないか」という反駁がなされ、法律において例外的に人生において一度だけ嘘をつくことが許されることになった。つまりは嘘をつくことは、マイホームを買う事よりも、子供を産むよりも、もっとも重要な事柄となったのである。
…そうその日私は嘘をついたのだった。リビングで立体映像が映されるテレビを見ているところだった。そこではやらせなんかではない、ドキュメンタリーの番組が流されていた。昔は当然のようにやらせが横行していたようだが、先述の法律施行以降それはなくなった。
しかし、無くなったら無くなったで面白くないものである。どこにでもありがちな話が流されそれを見ている芸能人たちは嘘を付けないがためにリアクションはそれぞれで「まったく感動できなかった」などと言うものまで出る始末である。なお、ドラマにおいては事前に総務省に申請をすることで、撮影放映することが許されている。
私はその面白くもないTV番組を消した。
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