第6話
満ち足りていた。
これほどに心安らかにいられたのはいつぶりだろう。
私は机に置いた例のフイルムカメラを眺めた。
一体あの現象はなんだったのだろう。そんな疑問が湧き上がってきた。
単なる私の思い込みか。
そう考えることもできたが、ファインダー越しに見たあの世界は、活き活きとした活力に満ち溢れていたように思えた。
単なる雨が止んだことによる心理的な作用が景色をそう見せたのか。
『あっ。』
私は外に傘を置き忘れたことに気づいた。
今から戻って取りに行くのは少々億劫ではあるが、私は再びあの場所へ傘を取りに行くことにした。外に出ると不意に生ぬるい液体が私の頬をつたった。
『雨か。』
気づけば先程まで晴れていた空は再び分厚い灰色の雲に覆われていた。そのまま家に戻ろうとも考えたが、唯一の傘を失うのは流石に痛いと思い、駆け足で目的地へと向かった。
徐々に雨足は強くなっている。多少息を乱しつつようやく傘を立てかけた壁の前にたどり着いた。だがどうしたことか、確かにあの時立てかけておいた筈の傘がなくなっているのである。
この短時間の間にもう盗まれたのか。
なんともやり切れない気持ちで雨の中立ち尽くしていると、
『すみません。』
後ろから女性の声がした。
振り返るとそこには私の傘をさした、私と同年代くらいの女性が立っていた。
続くーーー
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