第4話

ある日の休日。

私は珍しく外へ出かけた。その日はあいにくの雨だったが、私にはその方が良かった。なぜなら降り続く雨だけが私の視覚と聴覚を埋め尽くし、外部からの余計な情報を制限してくれるからだ。雨の中でだけ私はあの不安から解放される。薄暗い部屋でくすぶっていても、余計な考えが頭の中を巡るだけである。

当てもなく街中を彷徨っていると、ふと私は誰かに呼び止められたような気がした。

気のせいだったかそこには誰もいなかったが、振り向いた私の視線の先には骨董屋があった。


ーはて、こんなところにこんな店があったのか ー


この辺りは私も馴染みの場所だったが、今日に至るまでこのような出で立ちの店を見たことはなかった。

その骨董屋の外観は、焦げ茶色に埋め尽くされた木造建てで少々小汚いものだった。

普段ならそのような場所には立ち寄らない私だが、この日はなぜかそんな場所に大変興味をそそられた。雨でヨレヨレなった傘を閉じ、私は骨董屋に足を踏み入れた。

店内の明かりは、裸電球がひとつぶら下がってはいたが、今にも消えそうで照明としての役割を殆ど果たしていなかった。店内を見渡したが、店主の姿はなかった。

絶え間なく降り続く雨が外のあらゆる音を消し去った。


『何かお探しですか。』

ハッとなって声のした方を見ると、そこには白髪の老人が立っていた。見た目は六十かはたまたそれ以上かと言った感じだ。しかし、確かに高齢ではあるが、服装もきちっとしているし背筋も真っ直ぐしていた。印象としては白髪の老紳士と言ったところか。

『いえ、たまたま通りかかっただけです。』

そう言って足早にその場を去ろうとした私の視線の先に何やらきらりと光るものがあった。

それは手のひらほどの大きさのカメラだった。見た目に大した特徴はないどこにでもありそうなありふれた見た目をしていたが、その時の私にはなぜかそのカメラがいたく気になったのだ。


雨は徐々にその勢いを失いつつあった。



続くーーー

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