第63話 召喚魔法

 一際、フミが驚いたところで、ユイは再び元の姿に戻った。


「……ふぅ」

「ご苦労さん」

「……ん、もう、お腹いっぱい。早く、行こ?」

「あぁ、そうだな。行こうか」


 再び3人が歩き始めた。それから2日経ち、フミに訪れた次の危機は──


「あれは……」

「ま、ま、魔物!!?? ケ、ケ、ケ、ケイさん! 逃げましょうよ!」


 遠くの物陰から土煙を上げてこちらに走ってくる魔物が10匹程いる。


「あ? 何言ってんだ。飯がこっちに向かってきてんだぞ」

「……ここのやつ、食べるの初めて」

「確かに。見た目は美味そうだ」

「……はい? えっと……た、食べるんですか? 魔物ですよ? ランスポークですよ?」


 3人に向かってる魔獣はランスポーク。口の周りに牙が2本、額に大きな角が1本生えた猪型の魔獣。鼻が大きく、全身が茶色い毛並みに覆われており、魔物特徴の淡く光る青い線が全身を張り巡らされている。


「いやぁぁぁぁあ!! 来てる! 来てますよ! 無理無理無理無理! あんなのギルドランクBクラスじゃないと……って、あれ?」


 10匹の大型の猪型が、ケイの前でピタッと止まった。


「よし、ユイやるぞ」

「……ん、『空爪(極)』」

「『再構築』」


 ケイはホーンラビットキングの角を巨大なハンマーにして、頭を叩き潰す。ユイは見えない巨大な鎌で頭と胴体を切断する。


「おらっ! おらっ! おらっ!!」


ケイは1匹1匹を確実に仕留めるために頭を潰す。その度にクレーターが地面に出来る。


「……えいっ! あ、しまった」

「え?」


 たまたま、ユイの『空爪(極)』がフミの真正面を通り過ぎた。見えない鎌は、大地を削り、空気を斬り、雲を斬るように縦一直線に何もかもを切断していく。そして、威力は衰えず、フミの右側に聳えている山さえも斬った。


「えぇぇぇぇえ!? な、なんなんの……この人たち…………けど、わ、私はこのままじゃ、ダメなんです! よし、ケイさん!」


 ちょうど3体目を殺し終えた所で、フミはケイに話しかけた。


「? なんだ?」

「わ、私に魔物の倒し方を教えてください!」

「……よし、こうだ!」


 動かないランスポークの頭を、巨大なハンマーを振り上げて、砕く。即死の一撃。可哀想なことに原型が保てないほどの強烈な一撃。今ので地面には巨大なクレーターが4つも出来ている。


「いや、あの、もっと具体的に押してください………………いや、もういいです」


 桁違いで無類の強さを誇る2人には、実力が絶対的に追いつけないほどの遠さを、この日、フミは感じた。圧倒的すぎる強さ。


「……こんな力が、私にも欲しかった……です」


 ボソッと呟く願望にも近いため息混じりの言葉をケイは最後の1匹の頭を潰しながら、しっかりと聞いていた。


「だったら、強くなるんだな」

「それはケイさんが魔物だから強いんでしょ?」

「俺は元は人間だ」


 唐突のケイの告白を、フミは頭の中で処理する。


「ほら、やっばり! だから……え? に、人間? 嘘だ。それはありえないです!」

「本当だ。負けてばかりだから自分を変えた。それだけだ」

「人間から魔物になるなんて聞いた事ないです!」

「しつけぇーな。とにかく、力なら自分で勝ち取れ。やれることをやっていけ……って、あ、ユイ! 勝手に食うな!」


 フミはこの日、2人の認識を改めた。初めはおかしな2人組だった。だが、今は違う。自分には無い圧倒的な強さ、自信、躊躇いの無さ、容赦の無さ。本来備わっていふはずの物が欠如しているにも関わらず、無類の強さを誇っている。

 決して追いつくことの出来ない絶望的なまでの差を見せつけられ、フミの認識は尊敬と畏怖へと変わる。


「自分に出来ること……ですか」


 フミは何度も言い聞かせるように言葉を繰り返し、反復する。

 そこに遅れて1匹。全滅させられたランスポーク達よりも大きい巨大なランスポークが突っ込んできた。

 食事をしている最中のユイが初めに気が付き、それに釣られるようにケイも気がついた。


「……ケイ、あれもご飯」

「あ、いや、ちょっと待て。面白そうだ」


 ケイは、ユイの目の前に手を出して、攻撃を止めさせた。ケイの目線の先。それは両手を合わせ、自身に風を囲っていたフミだ。


「はぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 囲む風は強く、鋭く、周りを吹き荒らす。そんなフミの目の前に、白く光る魔法陣が現れた。


「ここに顕現せし、冥土の門よ。彼の者を招き入れ、彼の者を出させん。その者は番人であり、守護神。我が一族の守り神よ。今、1度、その姿を見せ、我を守たまえ!」


 詠唱を読み終えた時には、ランスポークはすぐそこまでやって来ていた。


「『召喚魔法──出よ! ケルベロス!!!』」


 あと少しで直撃するという距離まで詰めていたランスポークは、フミの目の前にある魔法陣から出てきた巨大な犬のような手によって吹き飛ばされた。

 魔法陣はさらに大きくなろうと、上から上からと何重にも重ねられていく。重ね終えると魔法陣はそのまま空へと上がり、消えた。そして、フミの目の前には魔物が1匹残されていた。


「……あれ?」

「ん? どうした? ユイ」

「……この人、守護神だ」

「はい?」


 出てきた魔物は、外側は濃い紫色の毛皮、首から胸にかけての内側は綺麗な白。青い線はもちろんのこと、印象的なのは3つの頭、鋭い牙、そして赤い目。


「お初にお目にかかります。ケイ殿」


 3頭ある内の真ん中の頭がペコリとお辞儀をする。


「で……でき、まし……た……」

「……あ、フミが倒れた」

「色々とまじか」

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