第62話 驚いた1日
時は遡ること8日前。
「……ケイ」
「なんだー?」
「……フミが倒れた。あと、私も倒れそう……」
「そうだな。ここらで飯にするか」
「……ん、待ってた」
ケイは倒れているフミの襟首辺りを掴んで、引きずりながら、ユイともう少しだけ歩いた。
「……あ、川がある」
「よし、そこで休憩だな」
「……ん、ご飯!」
20分ほど歩いて川の近くまで来た時、フミは目を覚ました。
「ふぁ〜って、あれ?」
「よぉ、起きたか。休憩にするぞ」
「あ、はい。ありがとうございま……って、え? なんで私の足がさらに汚れてるんですか!?」
「……フミ、うるさい」
起きて早々に騒ぐフミ。倒れて、気絶している間に少し回復したのか、一昨日のような明るさを取り戻していた。チャラチャラと揺らしながら。
「その、うるせーの早く外せよ」
「いやいやいや、これ外すと電気が流れて死ぬんですよ、特に首のやつ!」
フミの格好は奴隷服。汚れた肌に、汚れた毛並み。そして、両手首と両足首にはそれぞれ枷が着いており、鎖で繋がっている。見た目は奴隷そのものだった。
「……ケイ?」
「ユイ、この川に雷を打ち込め」
ケイの指示で、ユイは手を前に出す。
「え? 魔法? いやいや、魔物がそんな……」
「……ん、『雷魔法──サンダーボール』」
「って、えぇぇぇぇえ!? ま、魔物って魔法使えないんじゃ……?」
小川に向かって放たれた雷球は、水面に当たると、川に感電して消えた。
「……ん、出てきた」
「おぉ、結構いたな〜」
「さ、魚!? なんで!?」
「川に電流を流しただけだ。さ、集めて食うぞー」
「……おー!」
ポカーンと驚いているフミを置き去りにして、ケイとユイはせかせかと水面に浮かび上がっている気絶さた川魚を集めた。そして、それが終わると焚き火の準備をして、串刺しにした魚を周りにおいて、焼き上げていく。
「そ、そんな……馬鹿な……魔物が魔法? 魚を気絶?」
「世の中は広い。お前の持ってる定規で測るな」
「……いい匂い」
頭が混乱していてもお腹が空きまくっているフミは、考えることを放棄して、魚の香ばしい匂いに食欲を擽られ、チャラチャラと鳴らしながら近くまでって来た。
「それ、うるさいな」
「あ、触っちゃダメですよ! これ触ると10秒後に電気ショックが……って、え?」
フミが気付かぬ間に、ケイの体は正面まで近づいていた。それはもう、少し動けば唇と唇がくっつくほどの距離まで。
「え、あ、あの……そんな、こんな場所で……」
「いいから、黙ってろ」
「わ、私にも、心の準備が………………? あれ?」
フミは覚悟して、目を瞑り、火照る体と赤面の顔を我慢しながら、顎を少し上げて、いつでも「キス」を受け入られる体勢を取って、待つこと10秒。そこでフミは違和感を感じた。
「今だな」
「ケ、ケイさん? って、あぁぁぁぁぁあ!! なに触ってるんですか!」
「……フミ、うるさい。あ、焼けてる」
ケイは首輪を触れ、カウントダウンが始まった。一気に首輪の色が変色していく。真っ黒な首輪が徐々に薄れて、黄色に変わる。
「『再構築』」
ケイはフミの首輪に軽く触れて、形を変えていく。瞬時にサイコロの形に変え、手の中に納めた。一方、取れないと思われていた首輪から解放されたフミはキョトンとしている。
「え? あれ? なんで?」
「やっぱり『再構築』しても、元からついてる付加魔法は取れないか。そらっ!」
ケイはサイコロにした首輪を小川に落とした。すると、そこから電流が流れて、またまた魚が気絶して浮かび上がってきた。
「……ん、今日は大量」
「保存は任せた」
「……ん、任された」
「ほら、手足の枷がも取るぞ」
「え? あ、はぃ……?」
理解が追いついていないフミを置き去りにして、ケイは『再構築』を使って枷を取った。
「これでうるさいのは消えたな」
「あ、あ、あなた達は本当に魔物なんですか? それなら、おかしいです。なんで魔法が使えるのですか!?」
「……あ、焼けた」
「とりあえず、飯だな」
3人で焚き火を囲い、焼きたての魚を食べながら話を進める。
曰く、魔物は魔法ではなく物理攻撃が主な攻撃。何より体内にある魔力暴走により、凶暴化したものをものを魔物と定義されている。
大きさや危険度、強さなどが異なりによって、ギルトの討伐ランクが変わってくる。F〜Sランクまであり、最上位のSランクはドラゴンを倒せる実力になっている。
「つまり、雑魚いんだな」
「なっ! ドラゴンですよ!? 神災級なんですよ!?」
「……美味しい……美味しい」
フミの常識をケイは軽率に取り、その隣でユイは黙々と焼きたての魚を堪能している。フミも魚を齧りながら、次々と生まれてくる疑問をぶつける。
「というか、なんで食べ物持ってないのに旅してるんですか。街で用意して……」
「街は消えたぞ」
「…………はい? いや、そんなわけないですよ。だって、どれだけの人口が……。ほ、本当……なんですか?」
「ここに来る時に見てなかったのか? ユイが滅ぼした張本人だ」
フミは、ケイが指の先にいるユイを見た。当の本人は、小さな口をケイに向けて、開けたまま待機している。
「……ケイ、あーん」
「いや……その、ユイ。人が見てる前では……」
「……あーん」
「…………はい」
「……ん、同じ味」
「そりゃあ、そうだろ。あ、ユイ、ちょっと元に戻ってやれ」
ユイはしっかりと噛んで飲み込んだ後、自身の周りに小さな青い電気を流して、元の姿に戻った。
尻尾や耳と同じ色で同じ毛並み。目は禍々しい程の赤色。大きさは13mとさらにでかく、母に近づいている。そして、魔物特有の血管のように全身に張り巡らされている淡く光る青い線。
「こ、これって……もしかして……で、伝説の……」
「……私、フェンリル、だよ?」
「えぇぇぇぇえ!?」
この日、フミは1番驚いた。
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