第61話 巫女のフミ
「それで? どっちだ?」
「……どっち?」
「へ? 何がです?」
ケイ達の質問にキョトンとした顔で、少女は返答を返す。
「だから、お前の国だよ! ていうか、名前すら聞いてなかったな」
「……割とどうでもいい」
「それもそうだな」
「ちょっと!?」
少女は正座をやめ、真っ直ぐに立った。そして、華奢な体でありながら胸に手を当て、堂々と胸を張って、自己紹介をする。
「私は、ケルベ王国の巫女。フミです!」
「……巫女?」
「あれだな。俗に言う神と意思疎通ができるって言うやつか」
「……なる……ほど?」
「ふふん〜♪ 私は凄いのです!」
腰に手を当て、フミは自慢気に話す。だが、ケイ達は全く興味を示さないまま、話を淡々と進めていく。
「んな事、どうでもいいから。ほら、場所どっちだ?」
「私の扱い酷くないですか!?」
「……それは当然。私は『妻』だから」
「つ、つ、つ、妻!?」
さっきのフミよりも更に自慢気に話すユイ。ニヤッとした顔をしている辺り、堂々と宣言出来たことが嬉しかったのか、尻尾までフリフリとしている。
「ユイ、話をややこしくするな。話を戻すぞ。どっちだ?」
「えっと、あっち……いや、そっちですね!」
フミは、1度右斜めを指したあと、直ぐにケイ達が向かっていた真っ直ぐの方向に指し変えた。
「今、なんで方向を変えた?」
「いや、それは……ですね。りゅ、龍王の巣がありまして……ですね……? 遠回りをするのが普通で……って聞いてます?」
「……ケイ、これ……」
「あぁ、間違いない」
ケイとユイは互いに見つめ合い、コクっと頷くと同時に口を開く。そして、一言。
「「行くぞ!」」
「い、嫌ぁぁぁぁぁあ〜!!!」
こうして、フミは奴隷服の首元をケイに引きずられながら、右斜めの方角に住む龍王の元へと歩き始めた。
それから10日が過ぎた。時刻は夜は闇に沈んで、朝日が登り始めた頃。
「うぅ……こんなことになるなんて……」
「……ケイ、なんか泣いてるよ?」
「嬉し泣きだろ」
「違いますよ! 頭おかしんじゃないですか!?」
検討違いの意見に、フミは思わず突っ込んでしまう。「何が悲しくて、死と隣り合わせの空間にいないと行けないのか?」と、何度も思考しているが未だに答えは出ていない。
「うるせぇーな。絶景な上に、馬車よりも移動速度が早くて、楽じゃねーか」
「あぁ、お父さん、お母さん。私、フミはもうすぐそっちに行くかもしれません……」
座り心地の悪い場所で、フミは祈る。
真下には恐怖の権化があり、いつ振り落とされるさも分からない恐怖と、それを全く感じていない規格外の2人にフミは打ちのめされていた。
フミはそんな2人に対して抱くのは尊敬と畏怖。理由は単純。僅か10日の旅で、それを感じるほどの「絶対的な差」を見せつけられたからであった。
「……ん。どうせ、いつか死ぬから変わらない」
「あの……ユイさん? 元も子もないこと言うの、辞めて貰えませんかね?」
「……フミ、反抗期?」
「いやいやいや、だっておかしいでしょ! なんで私たち、龍王の頭の上に乗ってるんですかぁぁぁぁぁあ!!!」
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