第51話 脅.......お話と見つけた復讐相手

「お、来たな! あんちゃん。聞いたぜ、全部食べ尽くしたってな!」

「あぁ、なかなか美味かったぜ」


 受付の奥の部屋。そこはギルマス専用の席だった。客用の低いテーブルとソファー。その奥には仕事用に使うのか、立派な机が置いてある。

 ジャイスがソファーでゆっくりとくつろぎ、ギルマスが立派な机に肘をついて、こちらを睨んでる。


「それで、会計でも終わったのか?」

「あぁ、ざっくり言うと国が3つほど買える程じゃな」

「結構、価値あったんだな……」


 頭を少し抱えながら、ギルマスは話始めた。


「はぁ、全く……どこで手に入れたのじゃ。しかも、発見されてない物や希少価値が高い物まで入っている。おかけで、未だに調べがつかん……」

「どれだけあったんだ?」


 ケイとユイが、ジャイスの反対側に座り、近くにあったコッブに水を入れて、2人してのんびりと飲む。数を聞いたが、ギルマスは嫌そうな顔したため、変わりにジャイスが答えた。


「まず、全ての素材が原種……つまり、随分と昔に大陸が割れた頃に住んでいた魔物の素材だとわかった。その数、3893体分あった。まず、原種ホーンラビットが30体、ホワイトモンキーズが25体、ウールカウが18体、スリープホースが13体………………」


 つらつらと素材の名前とその数を言っていき、わかる範囲で語ること約30分が過ぎた。


「……と、ここまでが古文書や賢者の書籍など漁りまくって調べててだものだ。大体3000体だな。残りの800体は未発見。つまり、わからなかった」


 喋り過ぎたためか、ジャイスは喉を落ち着かせるために水を飲んだ。そして、話し終えたタイミングを見て、ギルマスが再び話しかけてきた。


「そこで、もう1度問う。お前達は何者なんじゃ? どうやってこれからを手に入れた?」

「はっ、そんなの決まってんだろ。俺達は復讐者。手に入れ方は現地調達。これで満足か?」

「……ま、まさか魔界に行ったのか!? いや、そんな訳は……だがそうでないと説明が……」


 再び頭を悩まし、ブツブツと独り言を話している。すると、ジャイスが質問を投げてきた。

「復讐者か……殺したい奴でもいるのか?」

「あぁ、沢山いるな。そのため帰ってきたんだからな」


 気がつくと、隣でユイは眠気に誘われていた。目が閉じかけていたので、ケイはユイの頭を寄せて、肩で眠らせた。それが普通であるかのように、ユイも流されるようにケイの肩を枕代わりにして、眠りに着いた。


「復讐か……お前さん、ろくな道に行かねぇな」

「うるせぇ」

「さ、一応の説明はしたぞ、ギルマス。あとの説明は任せた。じゃあな」

「あ、おい、待て! 待ってくれ! お、俺を1人に……しないで……」


 ジャイスはギルマスの言うことを聞かずに部屋を出た。


「それで、ギルマス。テストするんだろ?」

「あぁ、テ、テストの、な、内容は……」

「あ? どうした? 何震えてんだ?」


 この時、ケイは気がついていなかった。自分がどれどけ異質な存在であるのかを……。


 ギルマスから見れば、”化け物”だった。見えなくとも肌で感じでしまう恐怖。圧倒的強者の存在は、常に死と隣り合わせの様なものだった。

 ギルマスが化け物の仮説を立てたのは、ケイの現地調達と聞いてからだ。現地調達……つまりは、化け物に挑む化け物。そして、それを倒してきた化け物だ。


「震えて……いや、何怯えてんだ?」


 ケイはただ、質問した。質問しただけなのに、ギルマスはただただ椅子の上で、震え、怯えている。


「ひぃ!? も、も、も、もういい! テストは合格! 何もしなくていい!」

「そ、そうか……。あぁ、そういう事か」


 ケイは怯えているギルマスの理由が、自分が原因だと納得した。だから、ジャイスも、掲示板を見てた冒険者達も、ケイの目の前で怯えているギルマスも、みんな逃げたいのだ。


「じゃあ、おい、とりあえずは、殺さねぇーから、金とユイのステータスを見れるやつ作れ」

「ひぃぃぃい!? わ、分かりました……」


 殺されないとわかったギルマスは安心したのか、少しは話せる程度に回復したので、一気に解決させた。


 まず、お金の使い方。国が3つほど買える金額なため、高価に変えることが出来ないため、首に掛けているプレートに記憶させ、使うことができる。これは貴族達と同じくやり方で、プレートにお金を貯める。使う時は専用の装置にかざすだけで決済が出来る。


「なるほどな……カード決済に似てるな……それで?」

「ス、ステータスを見るために、この水晶に手を置いてください……なのじゃ」


 ギルマスが取り出したのは、かつてケイが『無能』と判断したステータス測定器。ケイの隣で寝ているユイの手を借りて、水晶の上に置いた。


「これでいいのか?」

「ば、化け物……」


 ユイのステータスは、『鑑定』で見た時よりも更に上がってた。


 名前 ユイ

 種族 フェンリル(人狼種)

 称号 『フェンリルの愛子』『勇者の力を受け継ぐ者』『覇者のパートナー』『素直になれない乙女』

 技能 『悪食』『空爪(極)』『咆哮(極)』『気配察知(極)』『気配隠蔽(大)』『全魔法使用可(極)』『全魔法耐性(大)』『付加魔法(極)』『技能自動発動』『創造魔法』『合成魔法』『限界突破』


「これをプレートに写せばいいのか」

「……ま、魔族……?」

「死にたいのか?」

「ひぃぃぃ……すみません、すみません、すみません!」


 こうして、ユイのステータスが写し出されたプレートが完成し、ギルマスは余計な一言で、再び恐怖を体験したため、またべらべらと情報を再び話し始めた。


「おい、だったらこの世界について、教えろ」

「せ、世界?」

「歴史でもいい。戦争から始めろ」


 戦争は突如、異世界からやって来た人達によって王国は勝利した。その時、カード決済のうよなシステムも導入された。それが10年前。

 それから異世界人達は、王様から報酬を貰って、自分の好きな土地に住んでいる。居場所はバラバラで、今は何をしているかはわからない。ただ、代表の井上は、お姫様と結婚して、王様の次に権力を持っていることだけがわかった。


「……ん? 10年前だと!?」

「えぇ、10年前です」

「…………つまり、過ごした2年をこっちでは10年も経ってたのか!?」

「そうだ……そうだ。そうだった。ふふ、ふふふ……おい、化け物。お前はもう、終わりじゃ! お前など、恐るるに足りん。異世界から来た英雄達によってお前は滅ぼされるのじゃ!」

「……ほう?」

「この街の領主にして、神から恩恵を貰った天才魔道士、松風まつかぜただし様がいるのだからな!」


 戦争を終わらした異世界人が、自分の住んでいる街の領主である事を思い出したのが、ギルマスの恐怖だった心を安定させていく。


「ふはははは、お前なんぞ松風様の魔法で粉々になるがいいのじゃ! ふはははは!!……は? ひ、ひぃぃぃぃぃい!!!???」


 ピクリと肩が動いてしまった。そのせいで、ユイが起き、寝ぼけていたがケイの漏れだした殺気でシャキッと目を冴えさせ、辺りを警戒する。


「……ケイ、敵?」

「あ、あぁ、悪ぃ。つい、嬉しくってよ……」

「……そう。なんか、ケイ、楽しそう」


 ユイから見たケイは、今までで、1番楽しそう、愉快に、狂気じみた顔で笑っていた。


「まぁな……待ちに待ったんだ。ギルマス、いい情報だった。色々とわかった。行くぞ、ユイ。ここでの情報はもう要らん」

「……ん、じゃあね、おじさん」


 バタンとドアが完成に閉まる音がしたのを確認したギルマスは腰が抜け、ズボンが濡れた。

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