第49話 ギルドと素材の買取
門を渡った先、小さな水路があり、ちょっとした橋がかかっており、その先に街があった。
「ここが……街か」
初めて人間界の街に入ったことに感傷に浸っていると、ユイがケイの服を軽く引っ張ってきた。
「……ケイ、ケイ、あれ食べたい」
ユイが指を指すのは、ケバブだ。串に刺した肉をじっくり、香ばしく焼いて、色々なものに包んで食べるものだ。
ちょうど、今、小さな子供が母親に頼んでいる所をユイが見て、真似している。
「お前が食べたいのは肉だけだろ」
「……ケイ、あれ食べたい」
「見た感じ、硬貨と取引だな。つまり、俺達は食べれない」
「……そ、そんなぁ……」
余程ショックだったのか、ユイは地面に膝を着け、凹んでいる。
「逆に言えば、硬貨さえ手に入れば食える」
「!!……さすが、ケイ。もう、限界。早く手に入れよう」
「そうだな……そろそろ周りの目も気になってきてるし、情報も欲しい。色んなことが出来るのは……ギルドだな。ユイ、この辺りで強いやつが集まってる場所」
「……ん、ご飯のため。『気配察知(極)』。ッ!! いやぁぁぁあ! 入ってこないで!」
「!? どうした、ユイ!? 止めろ!」
技能を使った瞬間、ユイは突然身を悶え、叫び出した。ただでさえ目立つ格好なのに、ユイの叫びで、更に注目を集めた。
「ッ!はぁ……はぁ……ケイ、見つ……けた」
「そんなことより、どうした!?」
「はぁ……はぁ……心が……読めた。色んな人の心が読めた」
「なんだと? とりあえず、おぶってやる。休んどけ。あ、方向はわかるか?」
ケイは普通におんぶしているだけなのに、ユイの体重のかかり方が、おかしかった。
ケイにまとわりつくように全身の体重を前に預けることで、普通よりもギュッと抱きつける。おかげで、ケイの背中には、ちょっとロリ体型とは思えない大きな胸、柔らかい肌、口から出る吐息が、支配している。
「……おかしいと思うのは俺だけか?」
「……ん、あっち」
「話を逸らすな! まぁ、休んでろ」
「……ん、おやすみ……」
お腹の限界かさっきの反動のせいなのかはわからないが、ユイはケイの背中で寝た。そんなことも気にせず、ユイが指し示す方向に歩いていくと、見つけた。
でっかい看板があり、「ギルド」とこちらの文字で書かれている。
「『異世界翻訳』があって助かった。さて、行くか」
大きな扉を押してくぐると、いかにもギルドといった感じの場所だった。
掲示板に沢山の張り紙があり、そこに群がる武装して大人達、目の前にはユイとはまた違う獣耳のお姉さんが2人、形から見て狐だった。掲示板と真反対には、食事を取っている大人達がチラホラ見えた。
「初めまして、どうなさいました?」
受付の狐耳のお姉さんの1人が声を掛けてきた。黄色の耳、黄色い目、そして、先端が白い黄色い尻尾。なんと言っても胸がでかい見た目だ。
「あぁ、えっと……とりあえず飯が食べたいが、硬貨がない。なんとかなんねぇーか?」
「なにかお持ちでしたら、交換できますが……」
「あ、魔物の素材とかは?」
「可能でございます」
「んじゃ、早速。ユイ、起きてくれ」
ケイは背中ですぅすぅと寝息を立てながら眠っているユイを、近くにあった椅子に座らせ、軽く摩って起こす。
「……ん、むにゃむにゃ……あ、ケイ、おはよう」
寝ぼけたユイが、ケイの顔を掴んで頬に軽くチュッとキスをした。これがユイの朝の日課。それは1年前から何も変わっていない、今でも続いていた日課。そして、これはケイには知られたくない秘密だった。
「!?!?……ユ、ユイ!?」
「……あ……あ、ああ!……むぅ……ケイのバカ!」
ペチン!っと音がなると共にケイの頬は晴れ、ユイは少し泣いた。そして、凹んだ。
「あ、あのぉ〜」
今度はもう1人の受付嬢が話しかけてきた。
明るい赤色の耳、明るい赤色の目、そして、先端がちょっとだけ白い明るい赤色の尻尾。双子なのか、同じく胸がボイーンとでかい。
「ん? あぁ、気にするな。ユイ、素材あるだろ? 出してくれ」
「ふん!……知らない」
「あのなぁ、それがないと俺達は飯を食えねぇんだぞ」
秘密がバレ、不貞腐れたユイのお腹がギュルギュルと鳴り出した。それに続いて、我慢していたケイのお腹も鳴り出す。
「…………」
「とりあえず、飯にしよう。話はそれから聞いやるから」
「……わかった」
「えーと、素材の買取はこちらに来て貰っていいですか?」
案内されたのは受付の横にある階段の先、狐のお姉さんに付いて行った。
2階、そこには大きな机が1つに、ガタイのいいオッサンが1人。暗めの茶色い髪、青い目が特徴的だ。周りには解体用の道具が何種類もあり、奥には色々な魔獣の毛皮や爪といった素材が置いてあった。
「おや、ルナじゃないか」
「ジャイスさん、仕事の時間ですよ」
「てことは、そっちのあんちゃんか?」
「頼む」
ケイは軽く会釈する。すると、ジャイスと言うオッサンはニカッと笑った。
「任せときな! ええっと……」
「ケイだ」
ケイは名乗った。ただ名乗っただけなのだ。名乗った瞬間、ジャイスと受付嬢のルナが笑った。笑われた。
「……ッ! ケイ、コツら──」
「待て、ユイ。我慢だ……我慢だ」
ユイは殺したかったが、止めた。理由はケイが抑えていたからだ。震える拳を握って、口を噛み締めて、苛立ちを抑えて耐えた。
今でもケラケラと笑っている2人を殺さないように耐えた。
「ふぅ……ふぅ……よし……おい、何がおかしい」
「はははは……いや、わりぃわりぃ。実在したのがあまりにも珍しくってよ」
「ちっ……そうかよ。もう、気が済んだか?」
「あぁ、すまねぇ。早速、見せてもらおうか」
ユイは机の前に来て、バックから1年間貯め続けた魔物の素材を全部出した。
「……ん、これで全部」
「これまたすげぇー量だな……どれどれ……」
ジャイスは、山積みになっている魔物の素材の1つを手に取った瞬間震えた。
「? どうした?」
「……う、うそ……だろ? これも、これも、あれも……全部、原種だ。お、おい、あんちゃん、これ全部、売るのか?」
「あぁ、別に持ってても使わねぇからな」
ユイもケイに従うように、首を縦に降る。それを確認したジャイスは、大声でルナに向かって叫んだ。
「おい、ルナ! 今すぐギルマス呼んでこい!!!!」
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