第48話 初めての街と馬鹿にする事の意味

「さて、そろそろ行くか」

「……待って、その前に着替える」


 ユイの母親から貰ったなんでも入るバックから、服を取り出す。赤と黒が縦に入ったシマシマのスカートに、少し長めの白のTシャツ。


「……むぅ、ケイ、女の子の着替える姿を覗かない」

「ん? 成長したなぁー! 初めは全裸で迫っ……て……あの、ユイ……さん?」

「……の・ぞ・か・な・い!」

「はいはい、わかったわかった」


 ケイが背を見せると、後ろから服を脱ぐ音が聞こえる。


「……パンツもびしょ濡れ……」

「…………」

「……ん、ケイ、終わった」


 なんとも合わない組み合わせだが、意外というか、そこそこ様になっていた。

 尻尾もしっかりと出ているし、何よりダボダボ感があるのに、スカートがそれを許さない。この1着で、見事な矛盾を繰り出している。


「……ん、ケイ、これ」

「?」

「……ケイのために作った」

「それで、コソコソしてたのか」


 白のパンツに、灰色のTシャツ、赤いダボダボのズボン。スボンにはベルトが2本、左右にあり、穴がいくつか空いている。

 ユイ曰く、「この穴に『再構築』で作った物をかけると良い」らしい。


「これを貰ってもいいのか?」

「……喜ぶ?」

「あぁ、嬉しいぞ。……ユイ、ひとつ聞いていいか?」

「……何?」

「色はお前の好みだな? というか、自分に合わせたな?」

「…………ノーコメント」


 プイッとそっぽを向く。だが、完全に一致しているのだ。同じ髪の色である灰色、同じ目の色のズボン、ベルトなんて自分とお揃い色にするために黒色にしている。


「……完全にユイ好みだな」

「……むぅ、文句言わない。あとはこれで完成」


 渡されたのはユイとお揃いの半袖の白いコート。ユイのやつは完全にしっぽが隠れており、獣耳しか目立たない。

 一方、ケイのコートは背中にキングホーンラビットの角が収められるように工夫されていた。


「……ん、ばっちり」

「ありがとうな、ユイ」


 ぐしゃぐしゃになるまで頭を撫でた。それだけ、ケイは嬉しかったのだ。初めて貰った物。誰かから貰えたのは初めてだからか、自然と涙が出てきた。


「……ケイ?」

「ありがとう……本当にありがとな」

「……うん」


 ケイはさらにくしゃくしゃに撫でた。初めは嫌がってたユイも、頑張りを認めて、撫でれて、頬が緩んでいるのを誤魔化すために下を向く。だが、その中に潜む顔の形はなんともだらしない。


「さて、行くか」

「あ……うん、行こ……どっちに?」

「えーと、とりあえず、城が見えたからあっちだな」

「……ん、了解」


 ケイが指を刺したのは北東。王城を目指して2人は歩き出した。




 それから3日過ぎた。


「……ケイ、どうしよ」

「あぁ、もっと用意するべだった」

「「ご飯がない」」


 王城を目指して、3日間。2人は何も食べてなかった。魔界の時に全て食べ尽くし、勝手に人間界にはなんかあるだろうと思って降り立ったのが、まずかった。辺りは芝生。ちょっとした木々は生えているが、何もいない。


「まさか、何も無いとはなぁ……」

「……お、お腹が……」


 隣でユイがギュルギュルギュルと物凄い腹の虫を鳴らしている。


「もう少しで、着くだろう。もうちょっとだ」

「…………『創造魔法』、『千里眼』…………見つけた」

「え?」

「……もう、我慢できない。ケイ、こっち」


 いきなりフェンリル化したユイが、ケイの襟元を噛んで全速力で走った。


「……ご飯、ご飯、ご飯!」

「お、おい。ちょっと止まれ!!」


 かなり距離があったはずの街は、ユイの『瞬足』によって1分めしないうちに目の前まで来ていた。


「こっの! とーまーれー!!」


 引っ張られる形で移動し、浮かされた足を無理やり地面に着かせて、ユイの暴走を止める。力を振り絞って止めたため、通ってきた跡はくっきりと残り、砂埃を出している。


「……ご飯」

「わかったから、元に戻れ」

「……むぅ」


 ボンッ!と煙を出して、瞬時に戻るユイの目は限界そのものだった。そして、目の前には大きな門があり、門番が2人居た。


「行くぞ、ユイ」

「……ん」


 2人が街に入ろうとすると門番が声をかけてきた。


「止まれ! この街に入りたければ、検査をする」

「検査?」

「まずは、この玉に触れろ」


 1人がサッカーボール程の青い球体を持ってきた。


「これは?」

「これで犯罪があるかないかわかる。触れろ」


 ケイが球体に触れると、淡い青色の光を放ち始めた。


「無しか、よし、プレートを見せろ」

「おい、ユイにもやらなくていいのか?」

「あははは! お前、おかしな奴だな」


 突然、2人は大声を上げて笑い始めた。そんな中、ユイは限界なのか、ケイの服を引っ張って、合図を送る。


「……ケイ、ご飯……」

「あぁ、わかってる。で、何がおかしんだ?」

「はははは!!!──はぁ、はぁ……はぁ。何がおかしいって、亜人は奴隷。つまりは処理係だろ? なぁ、あんちゃん。今度、俺に貸してくれよ」

「あ、俺もだ! あはははは!」


 つまり、この2人から見て、ユイは奴隷で、娼婦と言いたいのだった。この街では、そういうことになっている。


「てめぇら、ユイをバカに──」

「……『空爪(極)』。ケイが手を下すまでも……ない」

「「あはははは!!!……は、は、は?」」


 さっきまで大笑いしていた2人の門番は、ユイの『空爪(極)』によって、首、胴体、足の3パーツに見事に切られて、死んだ。まず、首が右に落ち、続いて胴体が左に、そして、腰から下が綺麗に前に倒れた。


「な、なん……で、お、おれ……」

「ユイ、教えたろ?」

「……わかってる。『炎魔法(大)──ファイヤボール』」


 見事に別れた2人の胴体は、綺麗にユイが高温によって燃やすことで、跡形もなく消えた。


「……ん、終わり」

「じゃあ、街に行くか」

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