第26話 魔界の真実

「おい、まだまだ出るだろ? こっちは1週間に1回しか使えないことが、最近になって判明した技能まで使ったんだ。どれぐらいパワーアップしてるか、試させてくれよ」

「調子に乗るなよ」


 ケイは走り出した。これまでとは比にならないくらいの速さでユイの父親の元まで走っていく。

 距離はあと数m。興奮しすぎて、ホーンラビットの角は走っている最中に持ってくることを忘れるのに気がついた。


「あ、しまった。だが、……今更引き下がれるかよ!」

「お前ら、離れてろ」


 ユイの父親が周りにいたフェンリルに指示を出す。すると、一瞬で消え、残るはユイの父親とケイのみの1対1となった。


 再び、ユイの父親は『空爪』を繰り出す。それを軽やかに避け、ケイは胸元まで一気に駆ける。そして、『怪力』を使い叩き上げる。だが、ケイの渾身の一撃であろう拳にはスっと空気を切っただけだった。


「……ちっ、後ろに飛んだか」

「……調子に乗るなよ、ユイは渡さん!」

「いいや、ユイは俺が貰っていく!」


 目的を成したケイはこの先、困難に出会うと予想し、パートナーとして欲しいと思う。

 それに対して、自分の娘を何処の馬の骨と知らない男に差し出すことが嫌なユイの父親。

 2人の戦いが、ユイの兄弟達であるフェンリルに見守られながら繰り広げられていた。




 一方、その頃ユイとユイの母親はガールズトークを弾ませていた。


「……ママ、なんで私を追い出したの?」

「……それが決まりなのよ。これから歴史とあなたの使命を伝えるわ。まずはそこからね……」

「……?」


 そこで語り継がれたのはこの世界の歴史と代々受け継いできた浅はかな希望に縋った掟だった。


「これから語るのが全てよ。よく聞きなさい」

「……」


 ユイの母親は、ゆっくりと語っていく。


 かつて、天界と今よりずっと大きかった魔界が戦争をしていた。そして、長い戦争にお互いに疲れ切っており、休戦の代わりに不可侵神域を作ったのだ。

 それぞれの代表が時空を歪ませるほどの力をお互いに使い、それぞれの不可侵神域を作り休戦した。

 そこに現れたのが異世界から召喚された勇者だった。勇者は人間の王に唆され、お互いの大陸が時空にねじ曲げられる前に、魔界の土地を切り裂いて、無理やり小さくしたのだった。


 その時から魔界には、人間の復讐するという心が芽吹いた。


「これが世界の歴史よ……」

「……ん、だいたいわかった。それで、私の使命は?」

「これから話すわよ」


 復讐しようと思っても時空が歪められていて人間界には入れない。だが、相互不干渉なはずなのに、1度だけ莫大な魔力を持つ人間がここにやってくることがあった。

 それが魔界を割った勇者だった。魔王様は勇者を自分の部下と孕ませて子を為した。そして、魔物で時々生まれるのが──


「……私のような特別なやつ?」

「そうよ、まさか初めて生まれた長女が先祖の生まれ変わりだなんてね……」

「……」


 先祖の生まれ変わりは、いつかまた来るであろう莫大に魔力を持った人間を、支援し、復讐することを目的として、生まれる。

 そして、その人に使えることこそが使命であり、全てを捧げ、人間界を滅ぼすのが使命だった。ユイはそれの人を探すために迫害という形で追い出されたのだ。


 いるかも知れない淡い希望を描いて。だが、これを意味するのは、死刑に等しいかった。


「これが全てよ……。ごめんなさい……ごめんなさい」

「…………ママ」

「……あなたが生きててくれて良かったわ」

「……ママ!!!」


 語り終えたユイの母親は懺悔するように謝り、涙を流した姿にユイは思わず抱きついた。

 ユイも涙を流した。自分は本当は嫌われてないこと、再び家族に触れられたことがユイの心を溶かした。


「……それで、彼とどこまで行ったの?」

「……えーと……前に教えて貰った間接キス!」

「あらあら〜」

「……ママ。私はもう名無しじゃない。ユイって名前がある」

「あらあらあら〜。微笑ましいわね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る