第25話 別れの挨拶と試練

 歩くこと2日。ついにユイの故郷であるフェンリルが住む場所に着いた。


「……ん、ただいま」


 そこに居たのは30匹ほどのフェンリルの群れ。大小と差はあるが、殆どは4〜5mほどの大きさだった。

 そして、ケイはそこで見た。1番奥にいるには、ケイのトラウマとも言える「ヤツ」がいた。


「何しに帰ってきた」


 1番奥にいるフェンリルが、流ちょうに言葉を話す。それと同時に周りのフェンリルは、ユイとケイを囲い始め、威嚇として「「「ガルルルルルルル……」」」と喉を鳴らす。それでも怯まず、ユイは1歩前に出てて口を開ける。


「……挨拶。もう、これからママ達には会えないから……」


 ユイの発言にさっきまで警戒していたフェンリル達が徐々に寄って、ユイに甘え始めた。ユイは初めからわかっていたのか、フェンリルの頭や顎を犬のように撫で返す。


「……こっち来なさい」

「……ん」


 ユイはケイの元を離れ、1番奥にいるフェンリル……つまり、ユイの母親の元へ歩いていく……徐々にスピードを上げていき、そして、抱きついた。ユイの母親もそれがわかっていたのか、ユイを抱きしめるように体を回す。


 一方、置いてけぼりのケイに周りのフェンリルが警戒する。再び、「「「ガルルルルルルル」」」と、唸り声を上げる。ケイも警戒態勢をとり、なにが起きても大丈夫なような辺りを見渡す。


「…………!?」


 ケイが囲まれたフェンリルの動きを観察していると背中に悪寒が走った。ケイの背中には強烈な怒りと殺意を含んだ気配が、ケイの背後に現れた。

 瞬間、ケイは振り向こうとすると、襟首を捕まれ、後方へと吹き飛ばされた。


「なっ!」


 そして、着地と同時に目にしたのは、目に傷があり、そして、今までに出会った物の中で1番でかいフェンリルがいた。


「俺の子が世話になったな……おい」

「……ユイの父親か?」

「掟に従い、お前を試してやる。かかってこい」


 ケイは走り出した。右手には、背中から取り出したホーンラビットの角。

 それを見たユイの父親は右手を大きく上げて、振り下ろす。すると、爪の先から透明な刃が5本、鎌のように弧を描いて、地面を抉りながらケイ向かってきた。


「ちっ!……くっそ。ユイと同じ『空爪』か!」


 ケイは横に転がり、回避する。ユイの父親の周りにいるフェンリルは手を出してこない。周りのフェンリル達は、これが男(父親)と男(ユイの彼氏?)の決闘だと勝手に思い、ここで手を出すのは無粋だと判断していた。


「お前に、あの子はやらん!!」

「あぁ、そうかよ……って、おいおいおい!」


 本来はインターバル5秒はあるはずの技能が、それを無視して連続で『空爪』を繰り出されている。ケイはそれに驚きつつも、近くでずっと見てきた技能が故に、繰り出される『空爪』を紙一重で躱す。


「むぅ……これを全部避けるか……」

「俺と同じ子が出来るとは驚きだ……俺の修行の成果を喰らえ! そして、俺の糧となれ!」


 ケイが夜な夜なユイに内緒で修行に明け暮れている時、ケイが気づいたのは”技能の掛け合わせ”だった。右手に持っているホーンラビットの角に『威嚇(中)』を『精通射撃』を掛け合わせる。


「オラッ!!」


 やりを投げるようにホーンラビットの角を、ケイは投げた。角はユイの父親の前に落ちた。ユイの父親は外したと思い、体を動かそうとする。そこでようやく異変に気がついた。


「う、動かん……」


 ここでケイがホーンラビットの角に加えた『威嚇(中)』発動した。この技能のおかげで、周りのフェンリルの動けなくなっている。

 その隙に、ケイは全速力で足を動かし、ユイの父親の元に駆ける。距離はおおよそ50m程。技能の掛け合わせにより、インターバルは5秒×2の10秒も空いてしまう。その間に攻撃されればケイは重症を負う。


「──だが、お前も3……いや、4は『空爪』みたいなのを掛け合わせてたよなぁ!? だったら、インターバルは俺よりも長いだろ! おまけに5秒は動けねぇ……。俺の勝ちだ!」


 向かう最中に、ユイの父親の目の前に落としたホーンラビットの角を途中で拾い上げて、空中へと飛ぶ。ケイの『威嚇(中)』が解けたユイの父親は、向かい撃とうと口を大きく開け、ケイを食べようとする。


「もう、何しようと遅せぇ!」

「……ガルル!!」


 ホーンラビットの角をユイの父親の頭に刺そうとした瞬間、ホーンラビットの角は弾き飛ばされた。


「なっ!」

「『硬化』だ。もう、インターバルは終わってる。お前の負けだ」


 ケイはお腹の辺りをユイの父親に噛まれた。ユイの父親の口に生えている鋭い牙は、ケイのお腹を抉り、そこから血を出させた。普段はあまり出ない魔獣独特の青い光の線は血管のように浮き出ており、かつ、血も若干薄く光っている。


「フン!……この程度か」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 ユイの父親はさらに強く噛みつき、ケイの腹を抉る。そして、吐き捨てるように首を振り、ケイを振った勢いで飛ばした。体が7mはあるのでそこそこの距離が吹っ飛び、ケイはそこで倒れるように投げられた。


「ふ……ふふふ……ふははははは!!!」

「こいつ……まだ生きてたのか」

「ようやく手に入れたぞ。これで俺は、ユイにまた1歩近づける。また、あいつらに復讐する力を増やせることが出来るぞ!」

「あれは……ワシの毛か?」


 ケイが左手に持っていたのは、ユイの父親の”毛”だった。それをケイは『捕食』を使い、丸事飲み込んだ。


「俺を強くしてくれた礼だ。教えてやる。俺は食べれたら食べるほど強くなる。だが、それは肉を全て食べないといけない。……だがな『捕食』を使い、相手の「1部」を食べることで肉を全て食べるのと同じ効果を発揮する。──つまり、俺は今! お前の肉を全て食っていることと一緒だ……うぅぅ……くそぉ……痛てぇぇぇぇぇえ!!」

「……格上の相手を食べるとそうなるのは当たり前だ」

「『捕食』は痛みを和らげる効果もあるのに……この痛み……つまり、俺はここのまま死ぬのか!?」

「フン!……所詮は雑魚か……やはり、お前にあの子はやれんな」

「…………なんてな」


 ケイは奥歯に仕込んだ湖の水を貯めた超小型土器に口で割り、数滴飲み込む。そして、その効果は絶大だった。

 元々ある水の『回復(大)』に加えて、ユイの魔法で効力最大限高めたこの世に何適とない『回復(極)』の水をケイは飲むことで、ぐちゃぐちゃに溶けていくはずの体を無理やり再生させ、強化させていく。

 そして、それはユイの父親が付けた傷も治していき、数秒後には完全に完治していた。


「さて、第2ラウンドと行こうか?」

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