逆転の一手と相棒

第8話 水と食料と化け物と

 目が覚めて、体の異変に気づいた。


「俺って……こんな体だったけ?」


 いつもと視線が若干違うことに気づき、ケイは自分の体を再確認する。明らかに以前よりも引き締まった体、体から淡い青色の線が時々浮き出る。


「これは……」


 それは何かに興奮している時が1番光ることに気がついた。何より1番驚いたのは、もう見えないと思っていた左目が見えている事だった。


「……やっぱり見える。こんなことって……ありえる……のか?」


 ケイは首に掛けているプレートの存在を思い出した。書いているのは、名前と称号と技能だけ。HPやMPといったファンタジー世界あるあるの物は一切表示されていない。

 この世界のルールは、数字化されない。あるのは己の命ただ1つ。つまり、自分の身を守れるのは、数字ではなく自分自身だ。


「ええっと……ん? なんだこれ?」



 ケイのステータスは少し変わっていた。称号『』から『略奪者』に変わっており、技能も『異世界翻訳』以外に『威嚇(小)』と『鑑定』が増えていた。


「『威嚇(小)』ってなんだよ。てか、略奪者ってどういうことだ?…………あ、まさか、あの兎を食べたから兎もどきの技能を手に入れたってことか? あと、『鑑定』は便利そうだな。『鑑定』!」


 地面を見ると雑草が生えている。ケイの左目には『雑草』と表示されている。辺りを見回すと『大樹』や『泥』といった感じで、説明のない名前だけの鑑定が出来た。


「なるほど……ちょっと左目が痛いが、名前がわかるのか……まさか、な?」


 ケイが目にしたのは、数時間前に食べた兎もどきの死骸。左目で見ていると『ホーンラビット』と記載されていた。すぐ近くに角が落ちてあり、何かに使えそうだからと拾う。そこで、ケイは何故か空腹感を感じた。


「まだ、食えるよな?」


 今度はちゃんとホーンラビットの角の尖端で、ブスブスと刺しながら、一定の間隔を開けて皮を引いていく。石で脳をかち割り、咀嚼し、できた穴に手を突っ込んで内蔵を引きずり出す。

 そして、逆さにして、宙吊りにすることで血抜きをする。その間に火を焚く準備を済ませる。枯れた棒を2本用意し、1本の先端をもう1本の棒の側面に擦り合わせることで、火種を作り、枯れた藁に入れ、空気を送ることで徐々に燃え上がる。

 あとは薪を縦横に並べて、空気の通り道を下から上に行くようにして完成した。


「これでよし。あとは……」


 火起こしの準備が終わると、ちょうど血も全部出たようだった。宙吊りのままの兎肉を火の真上まで寄せて、こんがりと焼いていく。

 そして、待つこと10分。


「……いただきます」


 ガブッとかぶりついた肉は──────不味かった。腐った肉を生のまま食べているような感じであった。お口直しに水──いや、泥水を探すが見当たらない。

 結局、不味いと言いながらも空腹感には負け、ケイは最後まで全部食べた。


「うげぇ……まともな水が欲しい」


 舌に後味の悪さを感じながら歩くこと約1時間。気分に任せに歩いていると大きな湖があった。


「おぉ!!湖だ!!」


「ようやく、まともな水分が取れる!」と感動していたケイには、湖の中にいる化け物の存在に気が付かなかった。

 化け物のは、ケイの存在に気が付き、こっそりと水面から出ると一言発した。


「……あなたは、だれ?」


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