第24話 なづけ

 本を抱えてろっじへ戻る帰り道。


「あっ!アレを言うの忘れてた!」


 今日はお疲れだろうし明日にするか。


 そして日が変わり太陽が顔を見せ、そよそよと静かに風が吹き始めた。


 なんだかんだでスナネコと一緒に寝たので、やはり隣にはすやすやと眠る姿が映る。起こさぬよう静かに抜け出し、伸びをした。


 その後、リュックサックに手を突っ込み本を取り出し、右手に本、左手に椅子を抱え音を立てぬよう気をつけながらベランダへ向かった。


 今日こそはアレを渡すぞ……!


 心の中で小さく意気込み本を開いた。


『やはり陽の光はいいな。浴びるだけで力がみなぎってくるぞ。』


 本が落ち着き払った声を発している。


「気分はどう?」

『実にいいぞ。我は陽の光を好むからな。』


 さあ、今だ。


「突然だけど、プレゼントがあるんだ。」

『ほう?我にか?して、それはいかなる物か?』


 一拍子置いてエルシアは答えた。


「今まで名前が無くて呼びにくいなって思ってたんだ。だから新たに名前を付けようと思うんだけど、それでいい?」

『もちろんだ!』


 ここで悩む必要は全く無い。何故なら、既に考えてあるからだ。


「今日から『テール』だ!よろしくな、テール!」

『うむ!よろしく頼むぞ!‥‥ところで、テールとは一体何から取ったのだ?』

「『物語』の事を別の表現で”tale”って言うんだ。そこから取ってるよ。」


 彼は本が好きだ。特に物語形式のものを好む。それ故、物語の英語版であるテールを選んだのだ。


 俺が好きなあのゲームのタイトルも”tale”が付いている。最初は地下の尻尾ってなんだよ?とか思ってたけど、よくよく考えてみたら”tale”であって”tail”じゃない。


 地下に閉じ込められた愉快なモンスター達が織り成す笑いあり涙ありの壮絶な『物語』……。あれを知った時は胸が躍ったなぁ~。


「あっそうだ!朝ごはん食べないと!それじゃ!」

『うむ!行ってくるといい!』






 その後、エルシアは本……テールをリュックサックにしまってスナネコを起こし、二人並んでろっじの廊下を歩いていた。


「嬉しそうですね〜。何かいいことがあったんですか?」


 そんなに分かりやすい顔をしていたのか……。


「よくわかったね~。まあ、ちょっとね。」

「そうですか。」


 ……なんか飽きられてる。テールが話せる本だって知らないのに名前の話をしても困惑されるだろうからいいけどさ……。


「おはようございますー!」


 二人に気付いたアリツカゲラが元気よく挨拶した。


「あ、おはようございます!」

「おはようございます。」


 二人は挨拶を返し椅子に腰を下ろした。


「そういえば、オオカミさん達はまだ来ていませんね。」

「昨日、あの二人は夜遅くまで原稿に執りかかっていましたから、多分しばらく起きて来ないと思います。」


 しばらくして、タイリクオオカミ達とかばん達ががやって来て一緒にジャパリまんを食べた。食べ終わった頃、かばんがジャパリまんの入った籠をぼうっと眺めるエルシアの前にやって来た。


「エルシアさんの体調が万全なら今日のうちに進もうと思っていますが、どうでしょうか?」

「もう大丈夫だよ。」


 ここにはしばらくお世話になったが、いよいよ旅立ちか……。次はどこに行くんだろう?


「おや、もう行ってしまうのかい?」

「はい!お会いしたいフレンズさんはまだまだ居ますから!」


 今までたくさんのフレンズに会ったと思っているけど、まだまだ知らない子も居るんだろうか。


「またここに来た時に旅の話を聞かせてくれないかい?」

「いいですよ!」


 その返事を聞き、タイリクオオカミは嬉しそうに頷き、エルシアの方を見た。


「エルシア。君からも聞かせてくれよ?」

「はい!」






 一行は身支度を済ませ、バスに乗り込んでいた。朝までと打って変わって青空は雲に飲み込まれ、どこまでも覆いつくしている。


「次はどこに行くんだい?」

「港に行ってみようと思います!」


 港と言うと、かばんちゃん達がここに戻ってきた時に使った所だろうか。


「絶対にこの先もパークを海に沈めようとしちゃダメよ!」

「……うん!大丈夫!」


 二人が笑顔で見送る中、アリツカゲラはどこか浮かない表情を浮かべていた。


「皆さんが帰ってしまうと、少しだけ寂しくなってしまいますね……。」

「心配無いさ。またいつか会えるんだからね。」


俺もまた会いに来ようと考えている。だから寂しくても大丈夫だ。


「そうですね……また、会えますからね!」


暗い顔をしていたアリツカゲラは笑顔を咲かせた。


「ありがとうございましたー!」

「またねー!」

「また会いましょう!」

「ありがとうございました~。」


 一行を乗せたバスはゆっくりと走り出した。






 バスは森を走り続けていたが、やがて視界が開け舗装された道が顔を出した。それを辿った先に『JAPARIPARK』と記された門が見える。よく見れば、門の先は波止場になっている。あれが港だろう。


「ここに来るといろいろ思い出すね!」

「うん!僕がゴコクに行く時にみんな見送りに来てくれたのはすごく嬉しかったよ!」


 へぇ~、みんなから好かれてるんだね~。とってもいい事だ。


「スナネコさんも見送りに来てくれたんですよ!」

「あの時はサーバル達も一緒に着いて行ったからびっくりしましたね。」


 それで前聞いた旅の一行が揃う訳か。


 仲良く思い出話に花を咲かせていたところ、脇の森から何かを破壊するような音が聞こえてきた。乱雑に動いているように感じられるが、明らかにこちらに向かって来ている。音はどんどん近づき、姿を現した。


「おいおい、なんなんだよ一体……。」


その者を見て、エルシアは驚愕した。

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