第12話 らいぶ
ヒーローショーの後は予定通りPPPライブが開催された。エルシア達はプラチナチケット専用の最前列に座っていたので、周りのフレンズ達の羨望の眼差しが背中に刺さるが、心を鬼にして気にしない事にした。
しばらくしてPPPのメンバーがステージに登場した。五人が登場した途端、ざわつきが歓声に変わった。
「ロイヤルペンギンのプリンセス!」
「イワトビペンギンのイワビーだぜ!」
「ジェンツーペンギンのジェーンです!」
「フルル~。フンボルトペンギン~。」
「コウテイペンギン、コウテイだ!」
「5人揃って!」
「「「「「ぺパプ!!!!!」」」」」
お決まりの挨拶に観客達は割れんばかりの歓声を上げた。エルシアはどうすればいいのか分からなかったが、かばんが拍手しているのを見てひたすら拍手した。
ライブはメンバーのトークから始まった。
「この前かばん達が帰ってきたのはみんなは知ってるかしら?」
「『かばんたちおかえりなさいの会』なんてのをやったな!」
「りょうり美味しかった~。」
「ほんとフルルはそればっかだな!」
会場内がどっと笑いに包まれた。
「その日に偶然パークにやってきた子がいるのは知ってるかな?」
観客席からは知ってるー!だの、初めて聞いたー!といった声が上がっている。
……何だろう。今考えている事が起きそうな気がする………。
「意外と知らない子が多いようだね。」
「確かライブを見に来るって言ってたよな?」
「それならこの中に居るんじゃない~?」
観客席がざわつき始め、皆周りをキョロキョロ見回している。次の展開が読めているエルシアはこの後何が起こるのだろうと考えながらそわそわしていた。
「呼んでみましょう!」
「「「「「エルシアーーー!!!!」」」」さんーーー!!!!」
えーーっと……ステージに行けばいいのかな?
彼は席を立ち、ステージに向かった。
「お!本当に来てくれました!」
「ジャパリまん持ってない~?」
「今は持ってないよ~。」
「おお!結構似てるじゃねぇか!」
観客席のフレンズ達も同じ感想を持ったのかどよめきが走った。突然モノマネをされたフルルはすごく似てるね~、といつもの調子だ。エルシアはというと、なんとなく口調を真似ただけでここまで反響があると思わなかったので困惑の表情を浮かべていた。
「改めて自己紹介お願いしていいかしら?」
「あ、はい。日本って所から来たエルシアです。よろしくお願いします。」
観客席からよろしく!の声が止めどなくあふれた。
「この前のパーティーではヒトって言ってたけどヒトってどういう特徴があるけものなのかしら?」
パークにはヒトがかばんちゃんしか居ないからヒトの事をよく知らない子も居るだろう。それを見越してのこの質問とはなかなか切れるなぁ。
「かばんちゃんや俺を見てもらえると分かると思いますが、他のフレンズの皆さんみたいに大きな羽とか耳とか尻尾が付いていないんですよ。あと考える事が得意なのも人の特徴です。」
いつの時代も人は前に進む為に頭を捻り続けてきた。思考能力が欠如していたならばおそらく現在のような文明は展開されていなかっただろう。良くも悪くも利便性の追求は文明を育む養分となったのだ。
「何か欲しいものはある?」
「それはやっぱり羽ですよ!どこまでも広がるこの大空を自由に飛べるなんて羨ましいなんて言葉で語りきれるものじゃありませんからね!」
彼にとって羽や翼は希望や自由を象徴するものである。是が非でも欲するのは、空を飛ぶという人類が長年追い求めた行為を実行するのに欠かせないからでもある。これも一種のヒトの本能なのかもしれない。
「そうね!その気持ち、とっても分かるわ!」
ペンギンの翼は空を飛べるような作りをしていない。だからこそ彼の、いや、人類の本能に共感する部分があるのだ。
「ライブって初めてかしら?」
「はい!一度も行った事が無いのでとてもわくわくしています!」
目をキラキラ輝かせながらエルシアは嬉しそうに質問に答えた。
「今日も張り切るからしっかり楽しんでいってね!」
「分かりました!」
彼は初めてのライブに高揚感を抱きながらステージを後にした。
「一曲目はいつものから!それでは聴いてください。」
「「「「「大空ドリーマー!!!」」」」」
曲名が会場内に響くとそれに呼応するように観客達も沸き立った。どこを見渡しても笑顔の花畑だ。そんな光景はエルシアの目に非常に眩しく映った。こんな光景は初めて見たので、彼は驚きと共に感動を覚えた。しかし、そんな状況の中で心の中に違和感が生まれていた。
何だろう。PPPの歌を聴いていると体の奥がむずむずしてくる。踊りたくなってんのか?別に気にしなくていいか!何せ人生初のライブだ。とことん楽しんでやる!
今回は『大空ドリーマー』、『ようこそジャパリパーク』、休憩を挟み『純情フリッパー』、『大陸メッセンジャー』、アンコールの『大空ドリーマー』でお開きとなった。
いや~、すごく良かった!皆透き通るような綺麗な声で心が洗われた気分だ!
ライブの感傷に浸っていたエルシアは、本の事を思い出し三日ぶりに開いてみた。
『……権限を確認。起動します。』
この前は文字化けしていたが今回はしっかり表示されているな。『権限』とは何なんだ?この本に認められた事を言っているんだろうか?
本に記された内容に頭を悩ませつつもページをめくった。
『エルシアよ!我との約束を忘れたか!』
やはり本の内容と一切
約束……?あれか。二日に一回本を開くってやつ。
「いや~、本当にごめん。ヒーローショーの練習で頭がいっぱいですっかり忘れてたよ。」
『全くこのエルシアめ!次は無いと思うのだぞ!』
プリプリしている本と会話をしているとライオンとヘラジカがこちらに向かってきた。
「一旦ごめん!」
『まだ話は終わっておらんz』
博士達の時のように何らかの嫌悪感を持つ可能性があったので一旦リュックサックにしまった。
「やあ!」
「これからどこに行くんだい?」
「次はゆきやまちほーに行きます!」
雪山……寒そうだな。警戒しておこう。
「風邪をひかないよう気をつけてね~。」
「寒くないようにして行くんだぞ?」
「はい!」
この細やかな気配り……これこそ皆に慕われる王たる
「へいげんに来たら歓迎するよ~。」
「いつでも来るといい!」
「分かりました!」
別れの挨拶を済ませた一行はバスへ向かったが、エルシアはバスに乗る前にヘラジカに声を掛けられた。
「次会った時は本気のぶつかり合いをするからな!」
「え?ああ、はい……。」
命の削り合いをする訳ではないものの戦いというものに引けを感じるのか、彼は弱々しく答え、バスに乗り込んだ。
一行は、みずべちほーで出会ったフレンズ達に手を振りながら、次の目的地へと向かった。
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