第11話 ほんばん

 遂にライブの日が訪れた。舞台裏から観客席を覗いてみると、押し寿司のように所狭しと並んだフレンズ達がそれぞれ笑顔を咲かせていた。


 エルシアはそれを眺めながら緊張感と高揚感に包まれていた。


「そろそろ出番だね~。」


 彼に話し掛ける者が居た。ライオンだ。


「ですね~。ちょっと緊張してます……。」


 彼女と話していたエルシアであったが、突然何者かに力強く肩を叩かれた。


「心配するな。私達ならやれる!」


 振り返ると、いつものように自信に満ち溢れたヘラジカが居た。


「そうですね!俺達なら出来ます!いや、俺達にしか出来ません!」


 そう。この日の為に練習を重ねてきたのだ。このだだっ広い世界で俺だけが仮面フレンズドラゴで、この二人だけが破滅ライヘラ.netの親玉なんだ。やれる事はやってきたんだ。後は最善を尽くすのみだな!


「いいぞ、その意気だ!手合わせの瞬間を楽しみにしておけ!」

「頼んだよ、ヒーロー!」


 二人に続き、へいげんのフレンズ達がステージへと向かっていった。






「まもなくライブ開始です!」


 マーゲイがマイクを片手に観客達に呼び掛けている。PPPを待ち構えるフレンズ達は色めき立っていた。


「はっはっはっ!このステージは我々が占拠する!」


 これからライブが行われようとしているステージに突然黒い衣装に身を包んだ者達が現れた。


「あなた達は何ですか!」

「我々か?我々は破滅ライヘラ.netだ。命が惜しくば逆らわない事だな。」

「手始めにお前を人質とする!捕らえろ!」


 親玉と思われる二人のうち一人の指示により、マーゲイは捕らえられた。


「何をするんですか!放してください!」


 マーゲイが捕まった為か、はたまた突然現れた謎の集団を警戒しているのか観客席は焦燥と困惑に包まれている。


「む……?反抗的な奴がいるな!連れて来い!」


 そんな状況を見兼ねてか、親玉の一人が組員に指示を出した。


「うみゃあ~助けて~。」

「ああ!やめてください!」

「どこに行くんですかぁ~?」


 観客席に降りた破滅ライヘラ.netの組員達は、観客席の最前列に居た三人を捕らえ、ステージに連れ込んだ。


「はっはっはっ!これでライブもパークも我々の物だ!」

「これは大変な事になりました!このままではパークが破滅ライヘラ.netに支配されてしまいます!このままではパークが危ない!でも私達では敵いそうにありません!……そうだ!ライブを見に来てくれた皆さん!パークに伝わる伝説のヒーローを呼びましょう!大きな声で助けを呼べば必ず来てくれます!お願いヒーロー!と叫んで彼に助けてもらいましょう!皆さんも協力してください!せーの!」


 お願いヒーロー!/


 「もっと声を出しましょう!せーの!」


 お願いヒーロー!!/


 「もう一回!もーっと大きな声で!せーの!」


 お願いヒーロー!!!/


「そこまでだ!破滅ライヘラ.net!」

「一体何者なんだお前は!」

「全てを優しく包み込む厳かな海の規律を乱す者達よ!浮世に波打つ悪のさざなみは、大海の覇者たるこの俺が許さない!仮面フレンズドラゴ、参上ォ!」


 ヒーローはセリフを叫びながら颯爽と現れた。観客席からは本当に来てくれた!、頑張ってー!といった声援が飛び交っている。


「お前達の好きにはさせないッ!」

「無駄な事を。行け。」


 ライ・ダークの指示と同時に三人彼の前に躍り出た。


「破滅ライヘラの意志のままに……。」


 突っ込んで来た組員の攻撃をかわし、もう一度来た所に首筋にチョップ(しているように見せかけて寸止め)を食らわせ、怯んでいる隙にパンチ(当たる寸前で止める)で退場させる。


「ほう?やるではないか!」

「我々も本気を出すか。」


 悪の親玉の二人が同時に掛かってきた。


 ライ・ダークのパンチを腕で防ぎ続くヘラ・ダークの回し蹴りを右足を曲げて防御し、二人をそれぞれの腕で突き飛ばした。続け様に飛んできたライ・ダークの拳の連撃を拳を打ち合わせて威力を相殺し、後ろから迫るヘラ・ダークを横に飛んでかわしライとヘラをぶつけた。


「動くな!こいつらがどうなってもいいのか!?」

「みゃ~。離して~。」

「離してください!」

「今度は何ですか?」


 ヘラ・ダークは人質達の背後に回り込み軽くホールドした。


 台本に無い動きだったのでエルシアは一瞬狼狽えたが、瞬時に頭を回転させセリフを生み出した。


「人質を解放しろ!」

「はっ!お断りだな!動いたらこいつらは無事で済まないと思え!」

「くっ!なんて卑怯な奴らなんだ!」

「卑怯?それは我々にすれば褒め言葉だな。」


 ヒーローが動けないのをいい事に、ライ・ダークは容赦なく彼を甚振った。彼は防御に徹して攻撃から身を守っていたが、ライ・ダークの蹴りが脇に刺さり、バランスを崩したのを皮切りに立て続けに連撃をお見舞いされた。


「はっはっはっ!どうした!そんなものか仮面フレンズ!」

「その程度の実力で我らに勝てると思ったら大間違いだ。」

「くっ……!このままでは負けてしまう!」


 ドラゴは片膝を付き息も絶え絶えだ。


「仮面フレンズが負けそうです!皆で応援しましょう!」


 負けるなヒーロー!/


「まだまだ!声を出して!せーの!」


 負けるなヒーロー!!/


「もう一回!もーっと大きな声で!せーの!」


 負けるなヒーロー!!!/


「うおぉぉぉぉ!俺は負けん!」


 声援を受けたヒーローは再び立ち上がった。


「そう来なくてはなぁ!」

「まだ歯向かうつもりか?無駄な事を。」


 ライ・ダークに立ち向かうと見せかけ、ライの攻撃をかわしヘラににじり寄り、人質を掴む手にチョップをお見舞いし、人質を放したヘラを突き飛ばした。


「皆は早くこっちに避難してくれ!」

「分かりました!」


 一人の誘導の元、人質達はステージの端に避難した。


「私を攻撃するフリをして人質を解放するとは……!」

「敵ながら天晴!」


 ライは驚きヘラは称賛を浴びせたが、本来の目的を思い出し、再び掛かってきた。ドラゴは組手の要領で二人の攻撃を耐えつつ距離を空けた。


「この一撃で終わらせてやる!」

「ほう?面白い!」

「何をしようと我らには決して敵わぬ。」


 ドラゴは大振りの構えをとった。


「食らえ!必殺!ジャイロオーシャンキイィィィィック!」

「「ぐわーー!!!」」


 ジャイロと言いつつ別に回転していない必殺の一撃により、二人は勢いよく後ろ向きにステージの外まで飛び退場した。


「パークの平和は俺が守る!」


 決め台詞を言い放った後、先程退場した悪役が再びステージに上がりこれが演技だった事を告げ、皆で礼をした。


 ヒーローショーは大成功したようで、興奮冷めやらぬフレンズ達がざわついている。


 元の姿に戻ったエルシアはほっと胸をなでおろし、観客席に向かった。

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