第18話 れすきゅー
一方こちらは一向の目的地であるろっじ。タイリクオオカミは朝からまんがの執筆に執りかかっていた。
「うーーん、疲れたしちょっと休憩を入れようかな。」
オオカミは横で寝ているアミメキリンを起こさぬよう静かに移動した。
「アリツさん、これからそこの森へ散歩に行ってくるよ。キリンが起きたら私は散歩に行っていると伝えてもらっていいかな?」
「分かりました!セルリアンには気を付けてくださいね。」
「大丈夫。戦闘は極力回避して移動するからね。それじゃあ、行ってくるよ。」
彼女がろっじを出ようとしたその時、
「先生!私も行きます!」
背後から活力に満ち溢れた声が聞こえてきた。
「おや、起きてしまったんだね。」
「先生の助手であるこの私に護衛をお任せください!」
「分かったよ。よろしく頼んだよ。」
「任されましたーー!」
二人は森へと歩いて行った。
二人は他愛もない会話をしながら森を歩いていた。
何事も無く散歩をしていたふたりであったが、
「グルゥゥゥゥゥアアアア!!!」
突然響いた謎の咆哮に警戒していた。
今のは一体……?何か嫌な予感がする。
「アミメキリン!今の声がした所へ急ごう!」
「ええ!?絶対危ないですよ!?」
「行っておいた方がいい気がするんだ!」
そう言って駆け出したオオカミの後をアミメキリンは追い掛けた。
走る内にその声は次第に鮮明に、殺意をまといながら迫力を増していった。
本能は行くな行くなと必死に止める。しかし勘は早く行けと急かす。彼女は内面の矛盾を感じながら駆け、ようやくその場に辿り着いた。
そこには中型の青いセルリアンが数体、そしてそれらの中心に猛烈な殺意を撒き散らすナニかが居た。
全身は青い物体に包まれており、頭は見慣れぬ形で二本の角があり、足と手には鋭い鉤爪、背には大きな翼、尻のやや上には長い尻尾があり、目は赤く輝き、表情は伺えないがどこか怒りのようなものを感じる。
青いナニかは森を震わす咆哮を上げながらセルリアンと戦っていた。
「せせ、せ、先生!何ですかあれ!」
「……分からない。しかし見るからに危険だからここで様子を見よう。」
まんがのネタにはちょうどいいかもしれないけど、不用意に近づけばセルリアンの二の舞だね。
アミメキリンとタイリクオオカミは茂みの中からその戦いを観察した。観察眼に優れるタイリクオオカミはある異変に気付いた。
いつもよりセルリアンの動きが鈍い……?
本来より数段劣る動きをしていたセルリアン達は瞬く間に青いナニかに屠られていった。
ナニかがとてつもない速度で移動したので息を殺しながら後を追った。
ナニかはセルリアンを駆逐し終えたからか動きを止めた。すると、身を包んでいた光が消え、以前のパーティーで見かけた少年が現れた。突如出現した少年は途端に倒れてしまった。
「アミメキリン!あの子を助けに行くよ!」
「は、はい!」
二人は走って彼の元へ向かった。すると、先程は青いナニかに気を取られて気付かなかったのか、どこからともなくスナネコが現れ、彼を運ぼうとしているのかおぶろうとして失敗し、肩を掴み引きずり始めた。
二人はスナネコの元へ駆けて行った。
やっぱり重くてなかなか動きませんね。ちょっと疲れてきたけどエルシアの安全を優先するべきです。
その時、こちらに向け駆ける足音が聞こえた。
「……お?あなた達は……。」
「話は後にしよう。今はその子を安全な所へ連れて行こう!」
確かにそうですね。さっきみたいにセルリアンが出るかもしれません。でも、ここがどこか分からないのでどうしようもありません。
「安全な所があるんですか?」
「近くにろっじがある。そこなら安心だよ。」
「分かりました。そこへ行きましょう。」
三人が彼を連れてろっじへ向かおうとしていたその時、茂みが揺れた。またセルリアンのおでましかと三人は茂みを注視していたが、現れたのはセルリアンではなくサーバルであった。
「かばんちゃん!居たよ!」
続いてかばんが茂みから現れた。
「どこかに行くときは一応僕達に言ってください……って、エルシアさんは大丈夫なんですか!?」
「眠っているだけみたいだから大丈夫だろうけど、何かあるといけないからろっじに連れて行こうとしていたんだ。」
「急いでバスを動かしてきます!」
「待って!」
サーバルがかばんを制止した。
「一人じゃ危ないからわたしも行くよ!」
「うん!ありがとう!」
かばんは皆の顔を見た。
「アミメキリンさんはろっじに向かってアリツカゲラさんに部屋の手配の準備を頼んでもらえますか?」
「了解よ!」
「タイリクオオカミさんとスナネコさんはエルシアさんをバスが通れるくらい開けた場所に連れて行ってください!」
「分かった!」
「分かりました。」
かばんとサーバルは先ほど通った道なき道をかばんの記憶を頼りに引き返していた。
「ここを左……次は右……あった!」
バスを発見した途端、急いで席に座りハンドルを握りしめた。
「ラッキーさん、全速力でお願いします!」
「ココハ木ガ多イカラスピードヲ出スト危ナイヨ。」
「今はエルシアさんの安全が最優先です!」
かばんの目はいつになく真剣であった。
「……ワカッタヨ。シッカリ掴マッテイテネ。」
バスは普段より数段速度を上げつつ道を駆け抜けた。
一方タイリクオオカミとスナネコは二人でエルシアを抱え移動していた。
「ここを左に出れば大きな道だよ。」
その言葉の通りに今まで木の葉や枝に遮られていた視界が一気に開け、幅の広い道が顔を見せた。
二人は彼を降ろし、道端の木にもたれかけさせた。すると、タイリクオオカミが口を開いた。
「それで、一体何があったんだい?」
「ボクたちが散歩をしていたらセルリアンを見つけたのでエルシアと一緒に別の方向に向かったらそこでも遭遇して……そしたら急にエルシアの姿が変わったんです。」
「へえ……。」
見た感じではフレンズとは全く違う見た目だった。それに、セルリアンに何か影響を与えていた……?そして恐ろしく強い。起きたらいろいろ質問させてもらおうかな。
二人は遠くからそれなりの速度で駆ける音を聞きつけた。道の先にバスが見える。あちらも認識したのか徐々に速度を落としている。
「エルシアさんをこちらに!」
二人は彼を傷つけぬよう慎重に席に降ろした。
「これから先にセルリアンが出ないとも限らないから私は降りて横を走るよ。」
「ありがとうございます。では、出発します!」
再びバスはいつにも増して力強く
それからセルリアンには遭遇せず、数分もしない内に一行はろっじに到着した。入り口で落ち着かない顔をしながら待機していたアミメキリンは、バスに気づいた途端駆け出した。
「早いとこ連れていきましょう!」
「ボクも手伝います。」
「ああ見えてアミメキリンは力持ちだからね、彼女に任せてくれないかい?」
スナネコの視線の先には自信ありげな顔をしたアミメキリンが立っていた。
「この名探偵アミメキリンに任せなさい!」
「……分かりました。お願いします。」
二人は彼を持ち上げ駆け足で移動した。スナネコも心配なのかその後を追った。
二人は入り口の横に『なかよし』と書かれた札が掛けられた部屋に向かい、彼はそこに連れていかれ、部屋の端にあるベッドの上に寝かせた。
移動する時に何度か揺れたがそれでも彼は一度も起きなかった。先ほどまで破壊の使者のごとく暴れ回っていた者とは似ても似つかないほどに純粋で安らかな寝顔だ。
「これでよしっと。ところで、君はどうするんだい?」
「ボクはここで起きるのを待ちます。」
「そうか。邪魔すると悪いし行くよ、キリン。」
「はい!」
二人は部屋を後にした。
「そうそう。言い忘れてたけど、お腹がすいたらちゃんと出てくるんだよ?」
「分かりました。」
部屋の中には、眠り続ける少年とそれを見守る金色の少女だけが残った。
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