第3話 じこしょうかい

 一緒にいろいろ話していたフレンズたちに一旦別れを告げ、博士と助手の後を追った。


「ペパプって?」

「ジャパリパークのアイドルユニットの名前ですよ。」

「へえ~アイドル……。」


 アイドルと聞いてピンと来ることは無かった。おそらく記憶を失う前はアイドルと関わっていなかったのだろう。


「それで、どこに向ってるの?」

「PPPがいる席です。」

「おまえの紹介を手伝うよう頼みに行くのです。」


 そんなことを言っているうちにアイドルがいるテーブルに着いたようだ。


「おまえたち、話があるのです。」

「今からステージでこいつを他のフレンズたちに紹介して欲しいのです。」


 博士と助手の目の前には、似た格好の五人のフレンズがジャパリまんが乗ったテーブルを囲むように席に座っていた。


「お安い御用よ!どの子を紹介すればいいのかしら?」

「こいつです。」

「ここに来たばかりの新参者なのです。」

「はじめまして!ロイヤルペンギンのプリンセスよ!」

「イワトビペンギンのイワビーだぜ!」

「フルルだよ~。」

「ジェンツーペンギンのジェーンです!」

「コウテイペンギンのコウテイだ。」

「どうも、よろしくお願いします。」


 この人達がPPPか……。ペンギンのフレンズだけで構成されているのか。


 _______ザザッ


『ねえねえ!ペンギンさんだよ!いっぱいいるよ!』

『そうね。いっぱいいるね。』

『およいでるよ!はやーい!』


 あれ……?今、何かが頭の中をよぎったような……


「あなたの名前は……後で聞くから今聞かなくてもいいわね!」

「え?まあ、確かにそうか……。」

「早速だけど、ステージに上がって自己紹介してもらおうかしら。」

「自己紹介……。」


 うーん、何を喋ればいいんだ?趣味?特技?故郷……はまだ思い出せないし……。


「こっちが質問するから、それに答えれば大丈夫よ!」


 それなら安心だな。


「さあ!行くわよ!」


 ステージに上がると、様々な姿のフレンズ達が各々楽しそうに談笑しながら食事をしているのがよく分かる。


「みんなちゅうもーく!突然だけど仲間が増えたから紹介するわ!」


 プリンセスの声を聞いたフレンズ達は、ステージに注目する者、ステージを見て隣に居た者とひそひそと話をする者、目の前の料理とステージを交互に見る者など、多種多様な反応を見せた。


「えーっと、はじめまして。エルシアです。よろしくお願いします。」

「あなたって何のフレンズなのかしら?」

「人です。」

「そう、ヒトなの……ヒト!?!?」


 彼の発言を聞いた途端フレンズ達が騒ぎ出した。


「良かったじゃない、かばん!ようやくヒトに会えたのね!」


 プリンセスはかばんに向け嬉しそうに顔を向けた。


「はい!」


 かばんもどこか喜びに満ちたような表情だ。


「……っといけない。続けないと。エルシアはどこから来たのかしら?」

「日本から来ました。」

「そこってどういう所なの?」

「自然が豊かで暑い日や寒い日が一定の間隔で巡る変わった所です。」


 地域によりけりではあるが、この説明が一番分かりやすいだろう。


「へえ~。そんな所があるのね。ここに来たばかりだから縄張りは無いんでしょ?どこかに縄張りを作る予定とかあるのかしら?」


 フレンズは縄張りがあるのか……。きっとそこで暮らしているのだろう。だがここに来たばかりの俺が縄張り……というより‘‘帰る場所‘‘がジャパリパークに無い。実に困った。


「その点は問題無いのです。」

「しばらく図書館に泊める予定なのですよ。」

「え?本当に?」


 宿泊先を気にしていた矢先、長たちからの思わぬ言葉だ。ありがたい限りだ。後で感謝の気持ちを伝えよう。


「それなら安心ね!何か聞きたい事はあるかしら?」

「頭に羽が生えてるフレンズさんを何人か見かけたんですが、その人たちは空を飛べるんですか?」

「ええ!飛べるわ!」

「おお!すごい!」


 やっぱり見間違いじゃなかったのか!昔から自分で空を飛びたいという願望がある(事を思い出した)俺にすれば、とても羨ましい限りだ。


「空が飛べる子に頼めば空に連れていってもらえるかもしれないわね!」

「空に……!」


 俺の願望とは少し違うが、疑似的に体験してみるのもいいかもしれない。

 いや待て、俺を持ち上げるのは人とは姿が違うとは言え女の子だ。いくら動物の力を持ち合わせるとしても、男子一人を持ち上げるのは辛いんじゃないか?


「俺、見た目より重いから空の旅は遠慮しておきます。」

「大丈夫そうに見えるけど?フレンズって見た目以上に力持ちだから、仲良くなってから一緒に飛んでくれるようにお願いするといいかもね!」

「はい!そうします!」

「せっかくパーティーをやってる時に来たんだから楽しんでいってね!」

「はい!楽しみにしてます!」

「「「よろしくねー!」」」






 ステージから降りるとフレンズ達から得意な事はー?、空飛びたいのー?、ジャパリまんいるー?など質問責めにあった。各所のテーブルに連れていかれて多種多様な話をした。


 テーブルを移る度にジャパリまんっていう「の」の一文字が刻まれたまんじゅうをもらったけど、今まで食べたどのまんじゅうより断然美味しい!そして体を巡る不思議な充足感。何よりかなりお腹にたまる。途中から美味しいけど食べるのが辛かった……。渡されたジャパリまんは残さず食べたからなおさらきつい。


「お腹いっぱい……。」

「強そうな腕だな!勝負してみないか?」


 フレンズの嵐から解放され、席に座りテーブルに身を投げ出し休んでいた所、唐突に頭に鹿の角が生えたフレンズにむんずと腕を掴まれた。


「え?え!?」


 何だその野菜の戦闘民族みたいな台詞は……。

 オラ全然ワクワクしねぇぞ!


「ヘラジカ、来たばっかりなのに勝負させるのは可哀想だろ?」


 その後ろに立派なたてがみを持つフレンズが現れた。


「ライオンか……。私とした事が、確かにやり過ぎだったかもしれん。代わりにお前が私と勝負しないか?」

「この前やったあれで勝負する?」

「いいだろう!受けて立つ!」


 サイヤな血が流れていそうな活気に満ちた二人はどこかに駆けていった。


「今のは何だったんだ……?」

「お疲れ様です。」


 彼の隣の席にかばんが座った。


「みんな元気だねぇー。」

「きっとみんなもお友達が増えて嬉しいんですよ!」


 突然現れた俺を歓迎してくれたし、この島の住民はとっても心が温かいんだな。


「そうだ、フレンズについて教えてくれない?」

「いいですよ!」


 フレンズについて何も知らないから、今のうちに情報収集しておこう。


「フレンズは人じゃないって博士が言ってたけど、あればどういうこと?」

「フレンズはもともと動物なんです!動物にサンドスターが当たってフレンズになります。」


 へぇー、めっさファンタジー!


「そのサンドスターっていうのは?」

「パークの真ん中に大きなお山があって、時々そこから降ってくるキラキラしたものです。」


 噴火に伴い不思議物質が噴出されるという訳か。


「何人かのフレンズが武器を持ってたけど、あれって自分で作ったの?」

「なんか、こう、ぐぐぐっと力を入れて作ることができるみたいです。」


 かばんが腕を強ばらせながら言う。


「かばんちゃんはヒトのフレンズだったよね?」

「はい。」

「かばんちゃんは武器を作れないの?」

「僕も試したんですが、駄目でした。」


 一番武器を持っていそうなヒトのフレンズが武器を生成できないのか。ジャパリまんを食べたおかげか、なんかみなぎってきてるし、試しにやってみるか。


「試しに俺もやってみるよ。」

「え!?わ、分かりました。」


 驚くかばんをよそにエルシアは立ち上がり、全身に、特に腕に力を込めた。


「ぐ、ぐ、ぐ、ぐっ……!はぁ、駄目だ。」


 案の定、武器が生成されることはなかった。


「武器、できませんでしたね。」

「うん……。でもいいんだ。フレンズでもない俺が作れたら大問題だからね。」


 武器を自らの手で生み出すというファンタジーじみたロマンを追い求めたが、現実は甘くないという事実を確認するのみとなってしまった。虚しさを紛らわすように次の質問に移った。


「男の人は居ないの?」

「エルシアさんみたいな方ですか?僕は見たことがありませんね。」


 今まで一度も会わなかったのは、やはり一人も居ないからだったのか……。同性が居ないのはちょっとさみしいな。いや、もしかしたらかばんちゃんが会っていないだけでパークのどこかに居るのかもしれない。そう思っておこう。


「パークは安全?」

「セルリアンが出るので安全とは言い切れません。」

「セルリアン?」

「セルリアンは青色や赤色、紫などいろんな色がいて、フレンズを食べます。」

「食べる!?」


 なんだそのカニバリズムモンスターは。


「セルリアンもフレンズなの?」

「フレンズとは違います。」


 訂正。人じゃないしカニバリズムではない。


「危険なので出くわした時は逃げてくださいね?」

「うん。そうするよ。」


 楽園ジャパリパークにも安寧が保証されている訳じゃないのか。フレンズの天敵セルリアン、ねぇ。できれば会いたくないなぁ。


 気になることは一通り聞けたが、話のタネが無い。困ったなぁ。


「あ!忘れてた!」

「どうしたの?」

「今からお皿の片づけをするんですが、手伝ってくれませんか?」

「喜んで!」


 人助けが好きな彼は、嬉々として皿を集めにテーブルに向かった。


 各テーブルに置かれている空になった皿を集めつつ、今日得た情報を頭の中で整理した。


 この島にはフレンズと呼ばれる者たちが住んでいる。フレンズはサンドスターという、島の中央に鎮座する火山から噴出した物質が動物に接触すると、肉体が変化し、人の姿を得るようだ。一部のフレンズは武器を所有しており、それは自らの手で生成できるらしい。


 脅威など存在しないように感じるが、安全が保障されているということは無く、島にはセルリアンというフレンズの天敵がいるので油断大敵だ。




 かばんが自分で集めた皿を洗っていたので、エルシアはその横で彼が回収した皿を洗い始めた。


「ゴコクエリアって所に行ってたんだよね?そこはどうだった?」

「キョウシュウエリアとあまり違いはありませんでした。一つ気になったのが、初めて見る建物があったことくらいです。」

「それってどんな感じだった?」

「入口に石の柱で出来た門があって、その先に木で作られた小さな建物がありました。」


 うーん、該当する記憶がないな。つまり、分からん!


「へえ~それは気になるなー。」

「いつかまたみんなで一緒に行こうと思っているので、よかったらエルシアさんも行きませんか?」

「もちろん!!」


 そこに行く時にどれくらい記憶が戻っているかは分からないが、その建物が記憶を取り戻すきっかけになるかもしれない。


 話をしているうちに食器を全て洗い終えたので一つ一つ丁寧に拭いていた所、博士と助手から声をかけられた。


「おまえたち、片付けは済みましたか?」

「丁度終わった所です!」

「ふむ。では、行きますか。」


 え?また移動するの?


 驚くエルシアをよそに二人はバッサバッサと羽ばたいた。

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