第2話 ふれんず
「もしかして、フレンズさんではないんですか?」
うーむどうしよう……。同調するか?いや、ここはやはり……
「恐らく違うね。」
「フレンズではないというのですか?」
「ではおまえは何者なのですか?」
博士と助手が彼に問うた。
「何者、と言われてもなぁ… ただの人だよ。」
「今、ヒトと言ったのですか!?」
「かばん以外のヒトが生き残っていたのですか!?」
何を言っているんだ?まるで珍しい生き物に遭遇したような発言だな……。
困惑するのも無理は無い。何故なら漂流する前はごく一般的な少年として人間の社会の中で暮らしていた事を漠然的に覚えているからである。
「何で人が居ることに驚くのさ?君たちは人じゃないっていうのかい?」
「我々はヒトではないのです。」
「我々はフレンズなのです。」
「人じゃなくてフレンズ………?」
心の声が漏れるほどに彼の疑問は膨れ上がっていた。
「フレンズというのは可愛いらしいお耳や尻尾が付いた方々のことですよ。」
「耳と尻尾が無いおまえもれっきとしたフレンズなのです。」
「そういえばそうでした……ははは……。」
つまり、フレンズは種族のカテゴリーなのか……?
ん……? 今、耳と尻尾がなんて言った?
「え?それコスプレじゃないの!?」
「「「『こすぷれ』……?」」」
「『こすぷれ』ってなんですか……?」
な、ななな、なにィーーー!?この子達はコスプレじゃない!?それはつまり!?生えてる!?耳と!!尻尾が!!生えてる!?漂流先がまさかのケモ耳パラダイスだなんて誰が予想できようか!!いや、できまい!!
――ハッ! てか、こんな楽園に来てるし、もしかして、俺、死んでたり……!?いやでもまだやりたい事、見たい景色、知りたい事も山ほど……
「どうしました?具合でも悪いんですか?」
かばんが激しく動揺している彼に親切な言葉をかけた。
「アワワワワ!?だ、大丈夫だよ!心配してくれてありがとう!」
仮に死んでいるとすればここは天国だろう。ここに留まると来世は訪れないのだろうか。それにペレにも会えないかもしれない。
……それは悲しいなぁ…。
「ねぇねぇその『こすぷれ』?ってなにー?」
再び思考の渦に呑まれていると、意識の外から声が聞こえたので、悲しい気持ちを取り払い一呼吸置いた。
「ああ、コスプレというのはね、アニメのキャラクターの格好を真似したり、動物の姿を象った服を着たりして楽しむ事だよ。」
「なにそれー!?たのしそー!!」
「今出てきた『あにめ』とはなんなのですか?」
博士が尋ねる。
「アニメは、主にテレビにたっくさん描いた絵を高速で流し続けることで、まるで絵が動いているように見せる技法だよ。」
「魔法みたいだね!」
「ほう、では『てれび』について教えるのです。」
続いて助手が尋ねる。
「テレビはだね……」
みんな好奇心旺盛だなぁ。
「……と言った所かな。」
「なるほど、さすがヒトなのです。」
「興味深い事を多く知っているのです。」
「いやぁーそんなことないよー?」
褒められ慣れていない彼ははにかみながらやんわりと否定する。
「そう言えばおまえ、どっから来たんだ?西か?東か?」
「ここが日本から見てどの方角にあるか分からないんだ。太平洋なら西だし、インド洋なら東なんだ。ん?もしこの島が西之島みたいな形で出現したとしたら……?いや、それだと人工物があるのがおかしいか……。待てよ、アトランティスのようにかつて沈んだ文明があって、それの名残ならばその前提も覆るか……?いや、仮定の通り天界ならば日本は存在しないから西も東も分からないよな……?」
「『たいへいよー』?」
「『あとらんてぃす』?」
「何の話か、全然分からん!」
「ああ、一気に話過ぎたね。うーん、どれから話そうかなー?」
「あ、あの……お聞きしたい事があるのですが……」
今度はかばんだ。
「何でも聞いていいよ!」
「あなたのお名前を教えてください。」
「あー名前ね、言うの忘れてたね。エルシアだよ!」
「エルシアさんですね。よろしくお願いします!」
「エルシアちゃんよろしくねー!!」
「よろしく頼むのです。」
「よろしくです。」
「よろしくね!」
各々彼によろしくの一言を発する。
俺の名前が本当の名前じゃない事を言った方がいいか……?いや、言っても余計な混乱を招くだけだろう。言わないでおくか。
「俺も聞きたい事があるんだけど……。」
「何でも聞くといいのです。我々は賢いので。」
さっきこの島の長って言ってたよな?
「まさかと思うけど、ここって日本じゃないよね?」
「『にほん』というのは聞いたことはありませんね。」
「ここはジャパリパークだよ!エルシアちゃんはその『にほん』から来たの?」
どっかで見たポーズだな……。
「すしざんま…じゃなくて、日本が俺の故郷なんだ。」
「どういう所なのです。」
「詳しく聞かせるのです。」
「日本は自然が豊かだけど街も発展してるんだ。日本古来の文化も源流から形を変えながらも残っているけど、様々な国の文化も取り入れている変わった国だね。」
「『くに』って?」
「簡単に言えば人がたくさんいる所……動物で言うなら群れみたいなものかな。俺が知っているだけでも百九十以上あるよ。」
「ひゃ……、百九十!?」
これにはさすがに驚いたらしく、一部のフレンズは元々丸い目をこれでもかと丸くしている。そのスケールの大きさがピンとこないフレンズはお互いに顔を見合わせてその意味を探っている。
「う、海の向こうにはおまえ以外にもひ、ヒトがわんさかいるというのですか!?」
「うん。数えきれないくらいたくさん居るよ。」
「数えきれないくらい……!」
彼の言葉を
「つまり、海の向こうにたくさんのうまい『りょうり』が待っているのですね、博士。」
「ええ。一度訪れたいものですね、助手!」
よく見ると、表情と声音は冷静な助手の目も輝いていた。人=美味しい料理をくれるものという解釈に引っかかりを覚えたが、それについて追求しないでおいた。
「じゅるり……。」
「エルシアさんのことをみんなにも教えてあげませんか?」
「ほう、さすがかばんです。みょうあんというやつなのです。しかし、どうやって紹介しようと言うのですか?」
「PPPの皆さんの力を借りるのはどうでしょうか?」
「PPPならちゃちゃっとやってくれそうですね。」
「いっけんらくちゃくなのです。」
「決まりですね。エルシア、ついてくるのです。」
「あ、ちょ、ちょっと!」
どこに行こうというんだ?
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