第41話 重役出勤

 練習を終えて、クールダウンをしてから速攻で制服に着替えて授業へと向かう。

 時刻は12時30分を回っていた。

 ここから学校まではバスと電車を乗り継いでも1時間はかかるので、授業といっても6限の授業しか出ることが出来ないだろう。


 ってか、今から練習を終えて6限目だけ出席するとかどんな拷問??

 休ませてほしいものだが、出席日数とか色々学校側でも加味してくれているところはあるので、仕方がないのであろう。

 はぁ……早く卒業単位取って学校卒業してぇな。

 あ、でも望結と一緒に文化祭一緒に回るとか思い出は残したいな。

 それと、修学旅行で一緒に部屋を抜けだして夜の沖縄の海で夜風に当たりながら余韻に浸ったりとか。


 って、これじゃあ学校やめられないじゃん。

 仕方ない、イベント以外の面倒くさい授業だけさぼれないかなぁ……スペシャルヒューマン権限で。


 そんなしょうもないことを考えているうちに、学校に到着。

 昇降口で上履きに履き替えて職員室へ向かい、今登校したことをつたえる。

 そうしてようやく教室へ向かう。といっても今は授業中。しかも今日最後の授業である6限目の真っ最中。

 入るにも入りずらい…・・・


 さすがに学校でボッチで存在感がない俺であっても、6限目の授業から登校してきたら、『はぁ? 何しに学校のこいつ? ここまで遅刻するなら休めばいいのに』という顔で見られるのだろう。それをこれから毎日経験する羽目になるんだから。かなりの苦行である。


「はぁ……いくか」


 意を決して教室の後ろのドアをガラガラっと開いた。


 教室中の視線が一斉に俺に集中する。


 教壇の上で熱弁していた現代文の先生も解説を止めて、『おう』っと一言俺に言ってくる。

 俺はそれに応えるようにして会釈をしてスタスタと堂々と歩いて席へとついた。

 場が一度落ち着くと、現代文の先生が再び授業を再開し、何事もなかったように通常の授業の雰囲気へ戻る。


 にしても……なんかちょっと気まずい雰囲気にはなったけど、少し重役出勤感があって結構面白かったかも。

 しばらくその空気感を堪能しますか。


 現代文の教科書を取りだしながらそんなことを考えていると、隣の席の少女がちょんちょんと肩を突いてきた。


 振り向くと、そこには可愛らしい頬笑みを浮かべている俺の彼女、綾瀬望結がいた。


「おはよ、青谷君。練習どうだった?」


 望結は手で口元を抑えながら、小声で先生に気づかれないように尋ねてくる。


「あぁ……TVで見たことあるようなプロ選手ばかりで、刺激だらけの練習だったよ」

「そっか、それはよかったね!」


 そう言ってニコっと嬉しそうに微笑んでくれる望結。あぁ……ずっと眺めていたいこの笑顔。

 だが、望結はばれるのを気にしてか、すぐに黒板へと視線を戻してしまった。


 まあ、今日から授業が終わって掃除を終えればそのまま家に帰れるし、それはそれでいいか!


 この後何も予定がないという開放感が俺をワクワクさせる。

 今日は帰ったら何をしようかな。



 ◇



 授業が終わり、帰りのHRの後掃除を済ませて、今は教室で一人居残って課題に追われていた。HRで担任に俺専用の課題が手渡されたのだが、その量が尋常じゃないほど多い。正直、一日で終わらねぇよレベル。

 普通に授業出てるやつの方が絶対に楽できるやつやんこれ。

 午前中から体力と気力使いっぱなしで疲れ切ってる者に対して非情過ぎませんかね学校さん??


 まあ、帰って岩城さんに教えてもらえばいいか!

 って、そうだ・・・・・・しばらく岩城さんの家庭教師は休止するんだった。


 忘れかけていたことがまた頭の中いっぱいにのしかかるようにしてぶりかえってきた。


「スペシャルヒューマンとして、どうするか……か」


 午前中の練習時、何か閃いたような気がしたのだが、すっかり忘れてしまった。

 一体、俺はどんな名案を頭で考えていたのだろうか?

 あぁ、こういう時に思い出せないのがむしゃくしゃする!


 俺は頭をがしがしと掻きながら机に突っ伏した。

 その時、教室のドアが開かれ、望結が心配そうな表情を浮かべてこちらの様子を伺っている。どうやら俺の一連の謎な行動を見て訝しんでいるようだ。


「青谷くん・・・・・・大丈夫?」

「うん、なんとか」


 望結はトコトコと俺の元へ歩いてきて、机の横に立つ。

 俺が望結を見上げると、優しい眼差しを向けてニコっと微笑んだ望結の姿がそこにはあった。


「青谷くんが何で悩んでるのか、わたしにはわからないかもしれないけど。少しでも力になれたらなって思ってるよ。その・・・・・・彼女なんだし///」


 頬を染めて視線を床に逸らして言ってきた望結。

 そうか。昨日から様子が可笑しいから望結にも心配をかけてしまっているんだな。俺はどうしてそんなことにも気が付いてあげられなかったんだろう。


 ムクっと起き上がり、椅子を引いて立ち上がった俺は、そのままポンっと手のひらを望結の頭に置いて撫でる。


「ごめんな、ありがとう望結」

「ううん・・・・・・私の方こそ迷惑ばかりかけてごめんね」

「迷惑なんて、これっぽっちも思ってないよ、むしろ感謝してるくらいだ」

「そっか…///」


 望結は恥ずかしそうに身体をモジモジとさせながら頭を撫でられ続ける。

 俺は望結のためにも、スペシャルヒューマンとして今後どうしていくかをしっかりと決めなくてはならないと思った。

 そのためには、まずはとある人にアドバイスを受けなければならない。

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