第40話 プロの道を切り開く
翌週の月曜日。
今日からトップチームの練習に参加するため、某所にあるサッカーグラウンドを訪れていた。
俺と稲穂はまずコーチ陣やトップチームの監督に挨拶と握手を交わして、練習参加を歓迎された。
しばらくウォームアップをして待っていると、トップチームの選手たちが次々と現れた。
流石プロサッカー選手。
練習着姿にも、どこかオーラが漂っており、プロとしての意識の高さを感じられる。
次から次へと現れる選手たちは、オリンピックで活躍していた選手や、今の日本代表で活躍する選手が当たり前のように練習場へと足を運んでくる。
「おい、俺たちすげぇとこに足を踏み入れてる気がするぜ・・・・・・」
「あぁ……」
二人で端っこでストレッチなどをしながらそう話していると、一人の選手がこちらへ向かってきた。
「君たちが今日からユースから練習参加するっていう子たちかな?」
「あ、はい! えっと、天馬青谷です!」
「高橋稲穂です」
「俺は
俺たちはやけた肌から見える白い歯をキラキラと見せる中崎選手と握手を交わす。
まるであこがれの選手にサインをもらいに来ているような感覚だ。
中崎浩二選手、チーム最年長選手でありながら現在もトップチームでスタメンを貼り続けているトッププレイヤー選手の一人。日本代表としても長年活躍し、ワールドカップにも出場経験のあるサッカー界なら誰もが知る超有名選手。
そんな人たちと今から俺と稲穂は一緒に練習するんだよな……
そう考えた瞬間。俺はすべてが未知の世界へ飛び出すような感覚になり、わくわくが止まらなかった。早くあの選手たちと一緒に練習したい。そう身体がうずいているのが分かる。
「あ、あああおあおあおあ青谷・・・・・・た、たたたたすすすけててて・・・・・・」
そんな俺の隣でカチカチに固まった岩のようになってしまってるやつが一人。
こりゃ、こいつの緊張をほぐすのが先のようだ。
◇
練習開始時間となり、監督の前に選手たちが集まった。
そこで再び俺と稲穂は自己紹介を行い、本格的に練習が始まった。
はじめは、ストレッチから軽くジョギングなど身体を温めるような軽い運動から始まり、そのあとはボールを使ったトラップやパスなど基礎トレーニングを行い。
そこから今度は四角形の囲まれた範囲内で動きながらパス練習。
さらにはゴール前へボールを運んでいき、フィニッシュまでもっていく練習など実践的な練習へと進んでいく。
そして、ついに紅白戦の練習が始まった。
もちろん俺と稲穂はそこでお役御免。ピッチの中ではプロ選手たちが真剣な表情で練習を行っている。
俺と稲穂はピッチの外でボールを扱う練習や、体感トレーニングなどの基礎トレーニングを行いながら練習の状況を窺うという動作を繰り返していた。
しばらくして、監督がピィっと笛を鳴らして選手を一度ベンチの近くへ呼び戻した。
「OK! NextTeam、”AOYA” come on !」
一瞬英語で自分の名前が呼ばれたことに気が付かず立ち尽くしていた。しかし、通訳のコーチに『天馬!』と声を掛けられ。ようやく自分が呼ばれていることに気が付いた。
まさか、紅白戦に出させてもらえると思っていなかったので一気に緊張してきてしまう。
監督の元へと向かうと、にこやかな表情で俺を迎え入れて、そのまま肩を組んできた。
「お前の今できるベストなプレーをしてこい!」
英語でそう言われ、俺は頷き返してゼッケンを身に着けてピッチの中へと入っていく。
「よろしく!」
「はい! お願いします」
同じチームの選手たちに温かく歓迎され、俺は本職のトップ下に入った。
そして、ゲーム再開。
ピッチに入ってしまえば、そこは戦場。
先輩後輩など関係なく、ボールを持っている選手に対して、スライディング、タックル当たり前。時には暴言を吐いたりもしてバチバチとした雰囲気が漂っている。
俺も攻撃時にどうにかパスを受けようと動き出すものの、さすがはプロのディフェンス。少しでもスペースが空いてボールを貰おうとしても、すぐに間合いを詰めて来てボールを貰ったとしても、中々前を向かせてもらえない。
なんとかしようと、相手に身体を預けてポストプレーのようなものをしてみたりと、いつもしないようなプレーをしてしまい、思いっきり体をぶつけられて力負けをして、ボールを簡単に失ってしまう。
「ヘイヘイヘイ! しっかりしろ!」
味方の選手から怒りの声が俺に当たる。そうだ、ここではU18日本代表なんて肩書はないといっても等しい環境。プライドを全部捨ててでも、自分が今できることを考えてプレーをしなくてはならない。
そこから徐々に何度も首を振って周りの状況を確認して、ボールを受けに少しポジションを下がって受けて、ワンタッチでボールを外にはたいたり、チームの流れを掴む歯車として回ろうと努めた。
しかし、それが監督にはご不満だったようで・・・・・・
「何してんだ、青谷! 後ろに下がってもらいに来るな! お前はもっと前でプレーしろ!」
っと怒鳴られてしまう。
無意識のうちに、フィジカル勝負を避けたいがために、消極的な逃げるようなプレーをしていると判断されたみたいだ。
ここで、後ろに下がってもらうことを禁止されてしまった俺は、今度はディフェンスと駆け引きをして何度もステップを踏んで相手を振り切って、サイドに流れてボールを受ける動きをする。
何とかボールをキープして、切り返して中を見た時。
スペースが真ん中にぽっかりと空いていた。そのスペースにいるはずの選手は今サイドでボールを持っていた。
「青谷! お前は中でプレーしろ!」
再び監督からの激が飛ぶ。
一体俺はなにをしているのだ。
まるで、今直面しているスペシャルヒューマンとしての立ち位置から逃げているように・・・・・・
俺が立ち尽くしていると、後ろから声がかかる。
「失敗したっていい。自陣をもって思いっきり勝負しこい」
振り返ると、中崎選手がそう言って白い歯を見せて笑っていた。
そうだ、俺は挑戦者なんだ。挑戦者はどんなに大きな壁に直面したとしても、自分の武器を悪れずに立ち向かっていくのが勇者ってもんだろ。
この時、中崎選手の言葉で心の中でつっかえていたものが何処かで吹っ切れた気がした。
俺はスペシャルヒューマンだ。去年から国が決めた制度によって定められた特権を持った者。それなら、その法にのっとって、俺はスペシャルヒューマンの開拓者。および挑戦者として、新たな道を切り開いて見せる。
そして、スペシャルヒューマンとして、サッカー選手としての道を絶対に切り開いてやる!
スローインからこちらチームの攻撃。ここから、俺は身体が一気に軽くなった気分でボールを受けに行く。
スローインを投げる選手が、俺にボールを出してきてくれた。
すぐに相手選手がチェックに来るが。身体をうまく使ってターンをして相手を振り切る。
前を向くと、味方のFWの選手が走り出そうとしてした。
「来てきてきて!!!」
俺がそう叫ぶと、FWの選手は飛び出そうとするのをやめて、ゴールを貰いに来てくれる。
ドリブルで運びながら、俺はタイミングよくパスを出す。
「リターン!」
パスを出してすぐに前への推進力を高めてスピードアップし、リターンパスを要求する。
俺からのパスを受けたFWの選手はワンタッチでパスを返してきくる。
少しパスが流れてしまうが、足を伸ばしてボールを吸収するかのような柔らかいタッチでトラップをしてゴールへと向かう。
だが、そこに立ちはだかるのは中崎選手。
絶妙な距離感を保ちながら細かいステップで駆け引きを仕掛けてきてくる。
相手の間合いをみながら仕掛けるタイミングを見計らう。
ステップを踏んで、身体が一瞬宙に浮いた瞬間……そこだ!
俺は一気にギアを上げて左へドリブルを仕掛けた。だが、中崎選手は俺のドリブルするタイミングを完全に読み、チャンスと言わんばかりにボールを奪いに来ようと足を出してきた。
その瞬間を、俺は待っていた。
右足の裏でボールを転がしてから、チョンとアウトサイドキックで中崎選手の出てきた足と軸足の股の間へ絶妙なタッチでボールを通す。
俺は、左足で踏ん張り、そこから一気に重心を右サイドへともっていき、中崎選手を抜き去ろうとする。だが、中崎選手も諦めない。
体制を整えてから、いっきにファールぎりぎりのタックルをかましてくる。
ドンっと鈍い身体のぶつかり合う音がなり、俺は寄ろけながらなんとか倒れるのを手で防いで体制を立て直しながら中崎選手の前にでる。その際に前を向くと、先程ボールを受けたFWの選手が裏へ飛び出そうとしているのが1枚DFを挟んだ先に見えた。
俺は体制を崩しながらも、左足でチョンっと浮き玉のパスをFWの選手目掛けて出した。
そのボールは、キーパーが取れない絶妙な位置に向かっていき。走り込んだFWの選手が必死にジャンプしてヘディングで叩き込んだ。
一瞬の沈黙のあと、「ナイスパスー!!!」という味方のチームからの歓声が湧き上がった。
ばしばし頭を叩かれ、手荒い祝福を受ける。
こうして、俺、天馬青谷はプロへの道を切り開く第一歩を着実に踏み出した。
よしっ、ここからスペシャルプロサッカーヒューマン天馬青谷の進化を見せてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。