第39話 スペシャルヒューマンとして

 俺はベッドにあおむけで寝っ転がって考え事をしていた。


「スペシャルヒューマンとして、一人の人間としてどうしていくべき・・・か」


 一人ごとでぼそっと呟いてみるが、どうしたらいいのか全く思いつかない。

 その時、コンコンと部屋のドアがノックする音が聞こえる。

 はいと返事を返すと、ガチャっと扉が開かれて寝間着姿の望結が入ってきた。

 水色を基調にした、白い水玉模様の寝間着を身につけており、首に白いバスタオルを掛けて髪を拭いていた。髪はまだ湿っており、艶やかなサラサラ黒い髪を揺らしていた。どうしてお風呂上りの女の子ってどう色っぽいんだろう?

 そんなしょうもないことを思っていると、望結がベッドに寝っ転がったままの俺に近づいてきた。そして、横にしゃがむとそのまま手を俺の胸の辺りにおいた。


「何かあった?」


 俺を覗き込むように優しい瞳で見つめてくる望結。


「いや、何でもないよ」


 俺はそう言って、ベッドから起き上がってシャワーを浴びるため、寝間着を持って部屋を後にした。



 ◇



 青谷君は何やら考え込んだ様子のまま部屋を出て行ってしまう。

 私は一人青谷君の部屋に取りこのされてしまった。


 やっぱり……急に押しかけたのが迷惑だったのかな。

 それは、そうだよね。だって、普通に考えていきなり彼氏の家に居候とか、誰でも状況に追いつかないもんね。


 でも、これだけは分かってほしかった。

 どんなに青谷君が他の女の子と仲良くなろうが、私が一番の理解者でありたいということを……


 私は、そのまま倒れ込むようにして、青谷君が先ほどまで寝ていたベッドに寝っ転がった。

 青谷君のぬくもりがまだ残っており、青谷君のいい匂いも漂ってくる。


「はぁ……」


 思わずため息が漏れてしまう。

 あぁ、青谷君。もっと私のことを好きになって……



 そんなことを考えて、青谷君の匂いを堪能しながら、ベッドの温かい温もりに誘われるようにして、私は意識を失っていった。



 ◇



 風呂から上がり部屋に戻ると、俺のベッドの上で心地よさそうに寝息を立てて望結が眠っていた。


 髪もまだ濡れたまま眠っちゃって、風邪ひくぞ……


 そう思いながらも、俺は望結の頭を撫でながら、しなやかでサラサラした望結の髪の毛をタオルの上に置くようにして、毛布を身体にかけてやった。


「んん・・・…むにゃ……」


 楽しい夢でも見ているのか。にこやかな表情を浮かべて眠っていた。


 起こさないようにして自分の部屋の明かりを消して、リビングへと向かった。


 リビングには誰もおらず、窓一面に広がる港町の夜景だけが広がっていた。

 俺は窓ガラスに手を当ててじっと外を眺めた。

 この景色を見ていると、改めて自分の価値というものに気づかされてしまう。


 俺は、スペシャルヒューマンとして何をするべきなのだろうか?


 これは、スペシャルヒューマンとして生きていくためには避けても通れない道であることは確か。ゆえに、慎重に決めなくてはならないことであることは分かっている。

 しかし、スペシャルヒューマン制度が始まってまだ間もないため、自分と同じ立場の境遇に立って、この選択をしてきた人はほぼ皆無だ。つまり、俺は先駆者といっても過言ではないだろう。


 よって、俺にはどう選択を選んでも、どうなるか予測がつかない事象が多すぎるということだ。だが、ここで立ち止まって何もしないより、何かをやってみて後に後悔した方がまだマシだ。


 そうと決まれば、後は自分がどうしていきたいか考えるだけだ。

 俺はテレビの前の黒いソファーに寝っ転がって、自分のことについて夜が明けるまでひたすら考えたのであった。

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