第21話 あんた(天馬)一体何者?

 俺は教室を飛び出して、藤堂麗華とうどうれいかが逃げ去っていった図書室がある北棟の方へと向かった。北棟には、家庭科室や図書室、学年全員が入ることが出来る大会議室などがあるのだが、図書室にしょっちゅう出入りしたり、家庭科や学年集会などの集まりがない限り、あまり来ることはない建物であった。


 放課後も、部活動で使われるのは家庭科部くらいで、図書室を放課後に利用する生徒はほとんどいないため、廊下は西に傾いた太陽の光がわずかに差し込んで辺りは閑散としていた。


 駆け足で北棟に逃げ込んだ藤堂さんを俺は必死に追いかけて、屋上へと続いている階段のところで追い詰めた。うちの学校は屋上へ出入りすることは出来ないので、それが今回は味方してくれた。


 屋上への入り口は分厚いドアで閉鎖されており、踊り場のところでこちらを藤堂さんは振り向いた。俺はじわりじわりと一段一段階段を上っていき藤堂さんを追い詰めていく。


「キッモ、私のこと追いかけてきて、ストーカーですかぁ??」

「藤堂さん、写真を削除してくれ」

「ん?何のことぉですかぁ~」

「頼む、藤堂さん」

「ッチ…いやだね」


 どうにかして藤堂さんのスマホを取り上げて写真を削除することは出来ないだろうか?俺は階段を登りながら考えた。


「来ないで!それ以上近づいたらこの写真拡散するからね!?」


 藤堂さんは上から俺を勝ち誇ったようにスマホの画面を見せつけながら宣言してくる。光の加減でスマホの画面をすべて窺うことは出来なかったが、俺のシュルエットが見えたことからも、写真を盗み撮りされていたのは間違いないようだ。


 にしても、これ以上近づいたら藤堂麗華は画像を拡散すると怒気を強めた。藤堂さんならやりかねないだろう。だが、まずは藤堂さんを落ち着かせる必要がある。そう考えた俺は、藤堂さんに隙いる点がないか探ってみることにした。


「なんでこんなことしたんだ?」

「はぁ??あんた、今立場分かってる?」

「…」


 これは、相手の立場に合わせてあげないと、会話すらしてもらえないみたいだ。

 俺は眉を引きつらせながらできるだけ媚びるように笑みを浮かべた。


「これは、どういうことでしょうかね??」

「…キッモ…」


 これはこれできもいって言われるのかよ…もうどうしたらいいんだ。


「あんた何者なの?」

「あ?」

「何者なのって聞いてるの!」

「何者って…」

「今まで陰キャボッチ気取ってたくせに、なんなん?最近綾瀬さんと妙に仲がいいと思ったら、放課後の教室でイチャイチャしちゃってさ、それに今日の体育の授業だって…」


 藤堂さんは、ギュ・・・っと歯を食いしばりながらプルプルと体を震わせて顔を俯かせてしう。そこには、得体の知れぬものを見ているような恐怖心と、自分のプライドを傷つけられた憎しみとが混ざり合っているそんな気がした。



 藤堂麗華は、ぐっと怒りを堪えて、再び俺の方を向いて睨みつけてきた。


「あんたが何者なのか??その質問に答えてくれるならこの写真は消してもいいわ。あんたは一体なんなの?」


 藤堂さんが不思議なものを見つめるように俺を鋭い視線で見つめる。


 どうしたものか…まだ、望結を含む学校の人全員に本当のことを言っていないにもかかわらず、藤堂さんに話していいものなのだろうか?

 俺は顎に手を当ててしばし考えた。藤堂さんと俺の間に沈黙が流れる。


 微かに聞こえてくる、運動部の掛け声と、吹奏楽部あたりの演奏の音が聞こえる以外は、辺りは静寂と化していた。


「へぇ~やっぱり答える気ないのね!それじゃあ、この写真はSMSで拡散して・・・」

「いや待て!」


 藤堂さんのセリフを遮るように俺は手を伸ばした。



「ふぅ・・・」


 意を決してため息を一つついて、胸ポケットに入っているそれを取るためにブレザーの胸元を掴んだ。そして、ゆっくりと階段を一段一段踏み外さないように登っていき、藤堂さんの元へと徐々に近づいていきながら、胸ポケットからそれをスッと取り出していく・・・


 ブーブー


 その時だった、ポケットからスマホのバイブレーションの音が鳴り響いた。何回も振動していることから、どうやら電話のようだ。

 俺は歩みを止めて、ポケットの方へと目線を下げる。


「…電話取れば?」

「お、おう・・・悪い」


 藤堂さんに促されるままに、俺はスマホをズボンのポケットから取り出して、画面を開いた。

 電話は望結からであった。どうしたものかと通話ボタンを押して、スマホを耳に近づけた。


「もしもし・・・」

『青谷くん…今何してるの?』


 望結の声音は、とても暗い感じだった。


「今、北棟の階段で藤堂さんと話してる」

「なっテメェ!」

「しぃ!」


 俺は藤堂さんに向けてお口チャックのポーズを取り、黙らせる。


『へぇ~やっぱり藤堂さんなんだ…』

「ん?何がだ??」

『青谷君は藤堂さんのことを選ぶんだね…わかった。もう知らない』

「ん?どういうことだ?望結?言ってることがよくわからn」


 ブチッ!


 すると、突然通話が切られてしまった。スマホを顔の前に戻して、じぃっと暗くなった画面を見つめながら、何がなんだが分からず、俺は混乱していた。

 とにかく一つ言えることは、望結を怒らせてしまったこと、それだけは間違いない事実であった。


 スマホをポケットにしまってから、申し訳なさそうに藤堂さんに向き直った。


「悪い、話はまた今度な!」

「は、はぁ!?テメェ今の状況分かってんn」


 その時、俺は一瞬の藤堂さんにできたすきを見逃さずに、藤堂さんが右手に持っていたスマホを奪って、画面を操作する。


「あっ、こら!勝手にやめっ!」


 藤堂さんの抵抗を右手で静止しながら、左手でスマホを操作して、先ほどの教室での証拠写真をフォルダから削除した。


「ふぅ・・・これでよしっと」


 俺は藤堂さんに用なしとなったスマホをスっと渡して返してあげた。

 バシッと勢いよく自分のスマホを受け取った藤堂さんは、むくれっ面をして、今にも怒り心頭といった様子であった。


「話は今度ちゃんと聞くから、また今度な」


 そう言い残して、踵を返して、俺は階段を駆け下りていく。


「おい、こらぁぁ!逃げるんじゃねぇ!天馬!!」


 藤堂さんの罵声が聞こえたが、今はそんなのに構っている暇はなかった。階段を一気に駆け下りた俺は、駆け足で廊下を進んで、教室のある本館へと向かっていったのだった。



 ◇



「おい、こらぁぁ!逃げるんじゃねぇ!天馬!!」


 あいつは、私の呼び止めなど聞きもせず、階段を駆け下りて行ってしまった。


「…なんなんアイツ・・・」


 私は再び歯を食いしばって手にギュと力を入れた。アイツの行動が読めない。というか意味が分からなかった。結局つるし上げに使おうとしていた写真も削除されてしまうし…はぁ…もう疲れた。


 私は脱力したように、その場にしゃがみこんでうなだれた。今日は、アイツの振り回されて疲れた・・・そう思って、視線を階段へと向けた時だった。


 キラキラと光る何かが落ちているのに気が付いた。


 何だろう?

 私は、そのキラキラと光るゴールドカードを拾い上げた。どうやらカードの裏側のようで、何か国旗のような不思議なマークがしるされていた。


 何のカードだろう?興味本位でひっくり返して表面を見た時だった。思わず目を疑うような内容がそこには書かれていた。


「フフッ・・・」


 思わずその内容を見て、私は悪い笑みを浮かべてしまった。


「へぇ~アイツにこんな秘密があったなんてねぇ~」


 私は、ニヤニヤが止まらなかった。これで、アイツに制裁を加えることが出来る。もう、私の頭の中には、アイツが膝まずく姿しか思い浮かばなかった」

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