第20話 仲直りの・・・シャッター音
体育での出来事以降、俺はクラスで一躍人気者と化していた。
「天馬!お前なんであんなにサッカーうめぇんだよ??」
「なぁ、天馬一緒に飯食おうぜ!」
と先ほど同じチームだった奴に声を掛けられれば…
「天馬くんって、運動できたんだね!ちょっとビックリしちゃった…」
「ねぇねぇ、天馬君!よかったら連絡先交換しない??」
という女子生徒まで現れた。
だが、隣から黒いオーラを放ち睨み付けている望結がいたので、その女子生徒たちも流石に気が引けたのか、結局断られてしまった。望結さん・・・さっきまであんなに目を輝かせていたのに、今はこえぇっす。
そんな大変な一日になりながらなんとか放課後を迎えた。
放課後になれば、午前中の出来事なんて忘れてしまったかのように、各々の部活動や遊びの予定などに時間を費やしたいため、そそくさと教室を後にしていった。
気が付けば、あっという間に、教室には俺と望結以外誰も残っていなかった。
俺は二人きりになったところで望結の方をチラっと向いた。望結は、スマートフォンをいじりながら画面と睨めっこをしていた。
「望結・・・ちょっといいかな」
「…」
「望結??」
「…」
呼びかけても望結は応答してくれない。それどころか、スマホをタップする音が強くなってきている気がする。
「望結さん~??」
「…何??」
ようやく3回目の呼び掛けて反応してくれた。しかし、その口調は怒っていた。あれぇ??俺何か望結に悪いことしちゃったかな…え?どうしよう…
俺がアワアワとしていると、スマホから目を離して望結は、大きくため息を一つついた。
「はぁ…なんで私の機嫌が悪いか分かる??」
「それは…」
思い当たる節はいくつかある。だが、それのどれが正解なのかがよくわからなかった。
「…他の女の子にデレデレしてた」
「あっ…」
そうか、すべてを察した。さっき、クラスの女子生徒から連絡先を交換しようといわれた時だ。隣で黒いオーラを発しながら鬼の形相で睨みつけていたのはそういうことだったのかと理解した。つまりは望結は他の女子と俺が話していることに嫉妬していたのだ。全く、俺の彼女はなんて可愛いのだろうか。今すぐにでも抱きしめたくなるくらい胸がキュンと締め付けられる。だが、今は誠実に謝らなければならない。俺はゆっくりと机から立ち上がって望結の方に体を向けて、腰を直角に曲げて謝った。
「ごめん、俺が悪かった。望結を悲しませるようなことをして。」
「うん…」
「どうしたら、許してくれるか?」
腰を曲げながら望結の方へ顔を向けると、望結は唇に人差し指を当てて考えていた。すると、はっ!っと何かを思いついたようで、顔を上げて俺の方を向いた。
「それじゃあ・・・」
だが、勢い任せにそう言うと、すぐに恥ずかしそうに俯いてしまった。
「それじゃあ??なんだ??」
俺が言葉の続きを促すと、望結はモジモジと体をくねらせて右往左往していた。そして、意を決したように顔をこちらに向けて、彼女は目を閉じた。唇をスゥっと突き出してじぃっと待ち構えていた。
俺はその姿を見て、無意識に生唾を飲み込んだ。
これって…つまりはその・・・あれだよな…そういうことでいいんだよな…
心臓の音が頭の中でドクンドクンと響き渡り、さらに音が膨張していく。
「青谷くん??」
目を瞑ってからしばらく反応がないため、心配になった望結が声を掛けてきた。
「すまん、今・・・するから…待ってろ」
「うん///」
そう答えると、彼女は再びキスを待ち構える体制に入った。
俺はゆっくりと姿勢を戻してから、望結の方へと近づいていき、望結が座っている前で立ち止まった。
斜め上を向いて俺のことを待ち構えているその姿は、とても可愛らしくて艶やかで、自分を包み込んでいってくれるような包容力さえ感じさせた。
俺はゆっくりと望結の顔へと近づいていき、望結の息が伝わるのではないかというくらいまで行ったところで一度動きを止めた。そして、もう一度生唾を飲み込んでから意を決して望結の艶やかな唇に・・・
カシャ!
その時だった。教室に不穏なカメラのシャッター音が鳴り響いた。驚いたようにお互いに目を開けて、音の下方向を振り返ると、教室のドア越しから「ヤベッ!」っという声と共に、藤堂麗華が逃げるように立ち去っていくのが見えた。
俺たちは一瞬状況が読み込めず、お互いに立ち尽くしていたが、咄嗟に悪い予感を感じた俺は、すぐに藤堂麗華の後を追うように教室のドアに向けって走り出していた。
「あっ、青谷くん!」
望結に呼び止められたが、今はそれどころではなかった。
「悪い望結。すぐに戻ってくるから!」
俺はそう言って、教室のドアを無造作に開けて、藤堂麗華の後を追っていった。
◇
青谷君は教室のドアを開けて、藤堂さんの後を追っていってしまった。いい雰囲気だったのに、全部ぶち壊されてしまった。しかも、青谷君は藤堂さんのことを追っちゃったし…
もう・・・せっかくキスしたら仲直りして、『さっきは助けてくれてありがと』ってお礼を言おうとしたのに、他の女の子を追ってっちゃうなんてもう知らない。
私は収まっていたモヤモヤとしていた気持ちが、再び胸の中に盛り返してきた。
むしゃくしゃしたような気持ちになりながら、私は青谷くんの机を一目見てからスマホを取り出して画面と睨めっこするのであった。
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