第17話 U18日本代表、天馬青谷
ドリブルを開始して、一気に運動部チームのザコ共を抜き去っていく。
「も、戻れ!!」
慌てて守備陣営に戻り、俺を止めようとするが、付いてこれる者はいなかった。
守備陣営では、宮原隼人を含む2人のサッカー部たちが残って待ち構えていた。
見ていたギャラリーたちも何が起こったのか分からないといったように、ざわつき始めていた。そんな空気感を感じつつも俺は冷静に周りの状況を確認しつつ、怒りをボールにぶつけながら、鋭いドリブルでサッカー部二人に真っ向勝負を挑んでいく。
「クソ・・・舐めた真似すんじゃねぇ!!」
一人のサッカー部員が我慢を切らして、突っ込んできた。そして、俺の体ごと削るようにスライディングをお見舞いしてくる。
だが、俺はそのスライディングのタイミングを予測していたかのように、キュっと一瞬スピードを緩めた。
スライディングのコントロールが効かないサッカー部の野郎は、そのまま俺の足元を通り過ぎていく。その時、腕で俺の足を鷲掴みにして倒そうとしてきた。
「全く、どんな手を使ってでも俺を倒したいか?スポーツマンシップのなってないやつだ・・・」
俺はボールを軸足の左足に持っていき、ヒョイっと空中に浮かせた。そして、野郎の腕が俺の足を掴む直前で、自身もジャンプをして野郎の上を通過する。
「お前にサッカーをやる資格はない」
「なっ…」
驚いたようにただただ上を見上げている光景は実に滑稽だった。俺は一瞬野郎の目を睨み付けて、落ちてきたボールを右足で正確にトラップし、再びドリブルを開始した。
この茶番の間に、何人かの生徒が追いついてしまった。だが、サッカー部ではなかったので、細かいタッチで右足だけでドリブルをして、体の動きで何度もフェイントを入れて、相手の体の軸をずらさせ、逆を取ってあっという間に抜き去っていく。
二人を華麗に交わしたところで待ち構えていたのは、宮原隼人だった。
宮原の目には、絶対にここは通さないという気迫が感じられた。
ここは、少し本気で行かせてもらいますかね…
細かいタッチで宮原を抜くタイミングを窺う。宮原は、俺の体の動きに騙されないように、ボールだけをじぃと見つめていた。
そして、俺はふぅ・・・っと息を吐くと、一気に宮原の左側に向けて右足でドリブルを開始した。
それを読んでいた宮原が、『もらった!』とでもいうように、ボールを奪おうと足を伸ばしてきた。俺は、宮原がボールに触れる直前で、右足でチョイっとボールの方向を変えて、宮原の足の股を通した。
そして、自身は左サイドからそのまま一気に宮原を抜きにかかった。
「そのやる気を実際の練習でもやってれば、化けたのに残念だよ…」
俺がその捨て台詞を吐いて、一気に宮原を抜き去った。
残るは素人のゴールキーパーのみ。俺はキーパーを見つつ、シュートモウションに入る。キーパーの体の軸は、俺から見て右にずれていた。おそらく俺が右にシュートを打つと予想したのだろう。
なので、俺はあえてその読みに乗ってやり、右足で右側へ鋭いシュートを振りぬいた。
素早く鋭いシュートは、一直線にゴールに向かっていく。相手キーパーも俺のシュートを止めようと必死に体を倒して手を伸ばした。しかし、無情にも彼が手を伸ばして倒れこんだ時点で、既にボールはゴールネットを揺らしていた。
◇
ピピッ!っと得点が決まったことを告げる笛が鳴り。辺りが静まり返った。
天馬くんは何事もなかったかのように、自分でゴールに蹴りこんだボールを回収して、小走りでセンターラインへと戻っていく。
この場にいる全員の視線が天馬くんの方へ向いていた。どういうことだ?何が起こったんだ?あれは誰だ?夢でも見ているのではないか?
そういった言葉が、出てきそうなくらいに、度肝を抜かれたような視線が降り注いでいた。
「青谷くん…」
涙で歪む視線の前に救世主のごとく現れたのは、私の大好きな彼氏で王子様のような存在・・・U18日本代表、天馬青谷であった。
あぁ…そうだ…これこそ青谷くんだよね…誰よりも負けず嫌いで、サッカーが大好きで、全員を嘲笑うかのようにクールに抜き去って行ってしまうそのプレースタイル・・・これこそ、私が求めていた青谷君の姿だ。
「青谷くん!!!」
気が付いた時には、心配していた女子生徒たちを払いのけ、勢いよく立ち上がって、青谷くんにそう叫んでいた。
青谷くんはチラっとこちらを見ると、グッドサインを向けて私に微笑み返してくれた。
その瞬間、私の胸が幸せな気持ちでいっぱいになった。あぁ…私のために今青谷くんはピッチの上で戦ってくれているんだ。普段は誰ともかかわろうとせず、自己防衛のために歯向かうこともしない青谷くんが、今は懸命にもがいてくれている。それだけでとてもうれしい気持ちになった。
もう、青谷くん以外の人なんて視界には全く見えなかったのだった。私は今どんなフニャけただらしない顔をしているのだろう。そんなことを考えても仕方がなかった。だって、目の前にいる青谷くんがかっこよくて仕方がないのだから…こうして私は頬を熱くさせながら青谷くんを見つめ続けるのであった。
◇
センターサークルにボールを置き直し、ふぅっと息を吐いた。
「青谷くん!」
すると、コートの外から声が聞こえた。声の方へ顔を向けると、立ち上がった望結が、キラキラとした眼差しでこちらを見つめていた。俺はニコっと微笑みながらグッドサインをして見せる。
望結の表情が一瞬でトロンとしたのが遠くからでも見て取れた。
こりゃ・・・少し頑張りすぎちゃったかなぁ…
だが、まだ戦いは終わってはいない。俺はコートの中にいる味方たちの方を見た。味方たちも、ハトが豆鉄砲を食らったようにポカンとした表情をしていた。そんな彼らに訴えかけるように声を出す。
「おい、まだ1点差だぞ?文化部も運動部も関係ないだろ??勝ちにいくぞ!」
俺がそう声を掛けると、味方同士で一度顔を合わせて、再び俺の方を向いた。
「お、おう・・・」
まだ、現実は受け止め切れていないようだが、手を挙げて返事を返してくれた。
「ボールを奪ったらとにかく俺がいる方へボールを蹴れ、あとは俺が何とかするから」
そういい終えて、俺は相手チームの方へと向き直る。
相手チームは、俺の方を睨み付けて、闘志をむき出しにして威嚇していた。
さぁ、面白くなってきやがった。俺の血がざわついてきたぜ…もっと楽しませてくれよ??
気が付いた時には、俺はこの状況をいつの間にか楽しんで、ワクワクが止まらなくなっていたのだった。
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