第18話 文化部・帰宅部軍団の底力

ピピィ!

審判の笛が鳴り、試合が再び再開される。


「距離とって!抜かれなきゃいいから!」


俺が味方に指示を出して、守備の体制を整ええる。その指示を受けた生徒は、腰を落としてかなりの距離を開けてドリブルだけは許さないといったような体制を取っていた。

ボールを保持していた相手の野郎は、サッカー部ではなかったので、怒りもあったのか一気にドリブルを開始して突っ込んでいった。


すると、なんとかそれに反応した守備をしていた生徒が、ボールに反応して足を出した。ボールのコースが変わり、ドリブルが大きくずれ、違う方向へ飛んでいく。

そこに待ち構えていたのは、紛れもなく俺だった。相手チームの2人が同じくボールを回収しようと飛び込んできたが、一瞬だけ俺の方がボールに触れるのが早かった。

俺はヒョイっとつま先でボールの方向を変えると、スライディングしてきた相手の左側をボールが通り過ぎていく。そして、クルッと自分のターンをしてその相手の右側を走り抜けていく。


一気に二人を抜き去って、また独走状態になる。ゴール前には3人のディフェンスとキーパーをかって出た宮原の計4人が待ち構えていた。


ゴール前をあれだけ固められてしまうと、流石に一人でドリブルで行くのはしんどいものがある。だが、珍しく『へい!』と俺にパスを要求する奴が出てきた。

そいつは、確か・・・名前は大木君だっただろうか?運動はあまり得意ではないものの、その一生懸命な姿勢はとても輝かしいものだと俺の中では評価していたのだ。


俺はチラっと大木の動きを確認しながらゴール前まで右足のドリブルでボールを運んでいく。


ペナルティーエリアに、入ろうかという時に、一気に二人の選手が俺をつぶしにかかってきた。俺はその間を通り抜けるように右足、左足と細かくダブルタッチをして、間を華麗に抜けていく。だが、それが相手の罠だった。

俺がダブルタッチで抜けた瞬間、右側から足が伸びてきた。死角に隠れていた先ほどのサッカー部の野郎がスライディングをリベンジしてきたのだ。


一瞬死角から飛び出してきた足に驚いたが、冷静に顔を上げて周りを確認する。そして、宮原の方を向いてシュートを打つと見せかけて、スライディングで削られる直前でノールックパスで左にボールを出した。


そこに、待ち構えていたのは大木君だった。大木君は、懸命にゴール前まで諦めずに走り込んできていたのだ。


野郎のスライディングが俺の右足に直撃する。俺は野郎に乗っかる形で倒れ込む。

倒れ込む間も、ひたすら大木くんの姿を見つめていた。宮原は、まさか俺がパスを出すとは思っていなかったので、完全に対応が遅れており、慌てて大木君の方へ走っていた。


「打て!!」


俺が大木君に向かって、倒れ込みながら叫ぶと、大木君はボールを見ながらタイミングを合わせて足にボールを当てた。

当てぞこないになったボールは幸運にも、宮原の裏をかく形となり、逆方向へ飛んで行った。そのまま無人のゴールへボールは向かっていき。ネットを揺らした。


ピピィ!!っと笛が鳴り、再びゴール判定が下された。


「よっしゃぁぁぁ!!!」


後ろの方で味方たちが歓喜の渦を上げていた。

大木君は自分がゴールを決めたことが信じられないらしく、まだ放心状態といったような感じだった。


俺はゆっくりと起き上がって、大木君の元へと歩み寄る。そして、肩をポンっと掴み、「ナイスシュート」とほほ笑んだ。


すると、ようやく状況が理解できた大木君からニコニコとした笑みがこぼれた。


「うん!やった・・・!やったよ天馬くん!」

「おう、やったな!」


大木君は、はしゃぎながら大喜びしていた。しかし、それをよそ目に俺はクルっと時間を確認する。試合時間は残り7分。ここからが本当の勝負だ。


「戻るぞ、勝負はまだ終わっちゃいねぇ」

「うん!!」


俺は大木君をポンっと叩いて、自陣へ戻るように促した。大木君は喜んで浮かれていたが、俺は新たな闘志を燃やしていた。

まだだ、まだこれだけじゃ終わらねぇ・・・


一人ヒシヒシと闘志を燃やしながらさらに集中力を高めていくのだった。

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