第15話 女王様の制裁
2限の授業が終わった後、次は体育の授業だった。女子生徒たちは着替えるために荷物を持って更衣室へと向かい。男子は、授業用具を片付けてから女子がいなくなった教室で着替えを始めた。
俺は、体操着に着替えながら放課後のシュミレーションを頭の中で行っていた。
放課後、二人っきりになった教室で、俺がスペシャルヒューマンであることを告白する。そして、渡良瀬歩に結婚を申し込まれてしまっていることも事細かに話さなければならなかった。
着替えを終えて、一人で考えをまとめながらグラウンドへと向かった。
今日の体育はサッカーの授業だった。正直、サッカーの体育はあまり参加したくなかった。ボッチで貫き通している俺は、基本体育の授業も手を抜いて運動できない系男子としてのレッテルを自分に張り付けている。だが、サッカーで同じようなことをするのは、自分のポリシーに反していた。だが、このクラスの秩序に従うのであれば、ここは大人しくしておくのがセオリーだろう。
グラウンドに女子生徒を含む全員が集まったところで、体育教師からの説明が始まった。今日は、男女別の試合を行うそうだ。その内容を聞いて、ワクワクとしている運動部員たち、いやそうな表情を浮かべる文化部たち。そして、チームに迷惑を掛けたくないと思っている帰宅部を含む運動できない系陰キャ達。
各々の思惑が入り混じる中、まずは2チームにチーム分けをすることになった。
俺は結局一番最後のおこぼれになるため、ひっそりと輪の端っこに佇んでいた。
「それじゃあ、チームを決めようか」
仕切りだしたのは、サッカー部の
「あ~あ~!!私、隼人のカッコイイ姿見たいなぁ~」
すると、そこに割って入ってくるように鋭い声が響いた。声の元へ顔を向けると、そこにいたのは、クラスの女王様である
「ねぇ?私たちさ、サッカーってどれだけ凄いものなのかよくわかんないからどういうものか一回見せてよ?うち的には、実力差あったほうがおもしろいから、例えば、運動部VS文化部帰宅部チームとかで??」
藤堂麗華の一言に周囲がざわつきだした。何を言い出しているのだこの女王様は…
「ちょ、ちょっと、それは流石にやりすぎなんじゃないかな??」
藤堂麗華の暴走に口を挟んだのは、望結だった。
「ん?何かな?綾瀬さん?私の意見に指図でもするつもりなのかな??」
「えっ!?いやっ、そういうわけじゃ…」
「最近、天馬青谷?とかいう陰キャと随分と仲良くしてるみたいだけど、それと何か関係でもあるのかな??」
「いや…何でもないです…」
藤堂さんの威圧的な口調に、望結は体を縮こまらせてたじろいでしまう。
俺はこの時点で全てを察した。これは、ただのこじ付けに過ぎないのだと…
俺と望結が放課後の教室で二人で仲睦まじくしていた光景が気にくわなかったのだろう。つまりこれは、完全に女王様としての制裁、俺を見せしめにしてクラスの中での立ち位置を全員に再確認させるための恐怖政治だ。
「そう、なら何も問題ないよね?みんなもそれでいいよね??」
反論を許さぬ高圧的な姿勢の藤堂さんに対して、これ以上何か言える人はいない。女子生徒たちは、藤堂さんのご機嫌を取るようにコクリと頷くことしかできない。
そして、勝ち誇ったほうに悪い笑みを浮かべて、藤堂さんが俺の方を睨み付けてきた。
っふ・・・ったくよ…こうなってしまったからには仕方ない。大人しく見せしめになってあげますかね…
俺は一息ため息をついて力を抜いた。そして、今から起こることすべてにおいて、何も抵抗することなくこの罰を受けることを・・・
「ど…どうしよう…天馬くん…」
藤堂さんの威圧に耐えかねたのか、他の文化部の男子生徒が珍しく俺に話しかけてきた。
「あ?どってことねぇよ、適当に流して、俺たちはサッカー部を含む運動部の見せしめに耐えるだけさ。この体育の時間だけな…」
俺はダルそうな表情を浮かべて、そういってのけた。その返答を聞いた文化部の男子は、一瞬嫌悪ともいえる視線を送ってきたが、話が通じないと分かったのか、ため息をついて、そっぽを向いて他の人たちと、話し合いを始めてしまった。
これでいいんだ…こうしてまた、クラス内のカースト制度は平和が保たれる。
各チームがある程度のポジションを決め終えて、自陣で配置についた。
俺はお零れ役であまりボールが飛んでこないであろうサイドハーフの位置に立たされた。
どこからか視線を感じて目を相手チームに向けると、宮原隼人がニヤニヤと悪い笑みを浮かべてこちらを見つけていた。これから始まる楽しい楽しい見せしめの試合に張り切っているのだろう。はぁ、その張り切るベクトルを是非部活の練習の方へ向けて欲しいものである。
そうして、運動部と文化部・帰宅部チームに分けられた鬼畜極まりない試合が幕を開けるのだった。
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