第5話 天馬君って、左利きだよね?
いつものように、登校時間の10分前に教室へ到着して自分の席に着席する。もちろん、学校ではボッチなので、俺に話しかけてくる人は誰もいない。
教室では、前列の方で
藤堂さんは、机の上に座り込んで足を組み、集団の真ん中に陣取っていた。
短いスカート丈から伸びる、部活で日焼けした黄金色の健康的でスラっとした足を大胆に露出させつつ、ケラケラと笑いながら友達と話していた。
俺はこの朝の時間が嫌いではなかった。何故ならば、ボッチであるが故に誰にも気づかれることなく、藤堂さんのその生足をじっくりと観察することが出来るのだから。
正直今までこの学校で見てきた中では、藤堂さんの健康的な足が一番艶やかで綺麗だ。そんなものを毎日拝めるのだから嫌いにもなれるはずがないだろう。
そんなことを考えていると教室にチャイムが鳴り響き、担任が教室へと入ってきた。トップカースト集団は各々の席へと戻っていく。藤堂さんも机からヒョイっと飛び降りて、自分の席へと戻っていった。少々惜しい気持ちになりつつ、今日も天馬青谷の平凡な学校生活がスタートした。
いつも通り授業中、右手でノートを写すのに悪戦苦闘していると、またもや昨日と同じ方向から視線を感じた。
視線の方を横目で見ると、隣の席の
何故だろう?2日連続で見られている??いやっ…何かの間違いだろう…
そう思い込んで、俺は再び黒板に書かれている内容を右手でノートに写す作業に戻った。
◇
今日もユースチームの練習前に、放課後の教室で右手で書いたノートを左手で書き写しながら授業の復習をしていた。
「ふぅ、やっと終わった・・・」
しばらくして、今日の分の書き写しが終わり、肩の力を抜いて一息ついた時、ガラガラっと教室のドアが開かれた。
視線を向けると、ドアから教室へ入ってきたのは、
「あ、天馬くん!また残ってたんだ」
「お、おう・・・まあ…」
急に話しかけられたのと、女の子との会話経験が少ないため、どもってしまう。
綾瀬さんはそんな俺の反応を気にする様子もなく、トコトコと隣の席へと向かってきた。
綾瀬さんは机の脚元に置きっぱなしだったスクールバックを拾い上げると、机の上に置いて、中身を漁りだした。
俺もユースチームの練習へと向かうため、広げていたノートを閉じてカバンにしまう。
「天馬くんは、この後どこか行くの?」
すると、作業を続けながら綾瀬さんが尋ねてきた。
「え…?あっ、いや、普通に帰るだけだけど…」
まさか、会話を続けてくるなんて思ってもいなかったので、驚き半分に返事を返す。もちろんこの後は、家に帰るのではなくサッカーの練習に行くのだが、綾瀬さんにとっては、俺のこの後の予定なんて、興味本位程度のことだろうと思い、さほど気にしなかった。
「そっか…」
しかし、俺の返答を聞いた綾瀬さんは、少し寂しそうな表情をしているように見えた。
「やっぱり嘘つくんだ…」
「えっ?」
綾瀬さんは何か小声で呟いたかと思うと、クルっと体をこちらへ向けて、真剣な眼差しを向けてきた。
「天馬くんって、左利きだよね?」
「えっ…」
俺は突然意表を突かれた質問をされ、呆気にとられてしまう。
しばらく沈黙が続き、何か返答を返さなくてはと焦った。
「えっ、俺が左利き??いや、ないない!」
「いや、でも私っ…」
「あ、ごめん!俺そういえば、両親に買い物頼まれてたんだった!それじゃあ、綾瀬さんまたね!」
これ以上追及されるとボロが出てしまいそうだったので、俺は咄嗟にでたらめな言い訳をしつつ、カバンを担いでそそくさと教室から逃げるように立ち去った。
「あ、ちょっと待ってよ!」という綾瀬さんの呼び止める声も無視して、昇降口へと向かった。
一目散に昇降口まで逃げ去って後ろを振り返ると、綾瀬さんは付いてきてなかった。
そこでようやく俺は胸を撫でおろす。
「あっぶね…危うくバレるところだったぜ…」
言い訳出来たのかどうかは分からないが、とりあえず
靴箱から外履きを取り出し、上履きを靴箱へとしまって履き替える。
それにしても…どうして綾瀬さんは、俺の利き手が左利きだって確信を持っているかのように聞いてきたのだろう??もしかして、放課後教室で左手でノートを取っているのを見られてたとか!?
確かに、教室のドアを閉めたまま集中してやっているので、ドアを開けずに窓から見られていたら気づかれてしまったかもしれない。それにここ最近、授業中妙に綾瀬さんからの視線を感じたのも、そのあたりに関係しているのではないか?そうとも考えられた。
まあでも、別に左利きってバレたとしても、俺にとっては何にも関係ないことだし、綾瀬さんだって、「へぇ~やっぱりそうなんだ~」くらいにしか思わないから平気だよな。
学校からユースチームの練習へ向かう際に、俺はそう楽観的に結論付けた。だがこの後、俺の人生を左右する出来事が、これから数多く起こりうることなど、この時の俺は、全く予想だにしていなかったのだった。
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