実家を取り囲む岩と飼い犬ゴンザレスの話
ある日のこと。その何某という男は久しぶりに地元へ帰りたくなり、わーっと実家へ向かった。数時間してようやく実家へたどり着いたその男は、そのとき、自分の生まれた家の周りを取り囲む岩をみた。それはちょうど、イギリスにあるストーンヘンジみたいな感じでわわわとなっていた。
「囲め囲め」
蠅か蚊みたいなかぼそさで漠然と叫ぶ岩々の声。どういうことだ。思いつつも、中心にある実家の玄関へ彼はどうにかたどり着いた。
家へはいると「あらおかえり」と母は変わらぬ調子で云い、「おうおかえり」「おかえり」と、父妹も同じに喋った。普通らしすぎた。
「囲め囲め囲めえ囲め」
その間も岩どもは実家をひたすら囲んでおり、とてもこわかった彼は家族に「なんで平気で暮らせるのだよ」と家族に状況を問うた。が、皆はきょとんとして「前からこうだったじゃないか」と彼へ言葉を返すばかり。はてさてどうしたものかなあ、なにが起こっているのかなあ、などとその場に立ち尽くし漠然と悩むしかなかい彼の元へ、彼の飼っていたペットであるゴンザレスがうれしそうに駆け寄ってきた。
齢十四歳。
犬。
オスだ。
「おいゴンザレスや、おまえはどうだい」
漠然とゴンザレスに問いかける彼。
「おまえもみんなと同じなのかい。どうなんだい。同じならそこに伏せてくれ。そうでないなら行動でぼくに態度を示しておくれ」
するとゴンザレスは彼に
「わん」
と大きく吠え声をして、へっへっへとものすごい勢いでだだだと外へ駆け出した。
「おいゴンザレス、どこへゆく」
ゴンザレスの後を追う彼だったが、どうしても追いつかない。嬉しそうに駆けるゴンザレスは岩という岩に片足をあげ、びゃっとおしっこをまき散らしてゆく。
「うわー」
「なにをするー」
「やめろー」
かぼそい悲鳴をあげこりゃあたまらんという岩たちの声。
「やめなさいゴンザレス。やめなさい。ぼくが悪かった。やめなさい」
けれどもやめないゴンザレス。
久しぶりの駆けっこでうれしそうにおしっこをするゴンザレス。
「やめなさいーっ、やめなさいーっ」
そうしてもう二度と彼はゴンザレスを捕まえることができなかった。これによりこの地はものすごい量のゴンザレスのおしっこで谷底へ沈み、湖となった。水底ではいまも溺れる岩々がかぼそい声で悲鳴をあげつづけているためぶくぶくと気泡が絶えないし、うれしいゴンザレスとやめさせたい彼が走り続けるから底が濁ってみえないのだそう。
あまりにも実家に帰らないでいると犬が喜びすぎてこうなるぞ、という教訓を伝えるお話である。
雑多ものがたり集合物 宮古遠 @miyako_oti
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