サツマイモゾンビ
葬式の真っ只中、じいさんはゾンビになって甦った。ゾンビになると生肉を欲したり、生きた人間に噛みついたりするのかなと思っていたけれど、じいさんは畑のサツマイモばかりをむしゃむしゃと貪った。「これがサツマイモゾンビか」と僕は察した。
世界中を震撼させる死者のゾンビ化だが、日本のゾンビだけは何故か、皆サツマイモのあるところへ群がり、芋を掘り出しては生のままかぶりつき、貪り食うのだった。血生臭い事態でないので少々可愛らしい出来事にも思えるが、サツマイモ農家さんの被害は甚大で、害ゾンビの被害を訴えるニュースが連日報道され、政府は対応に追われていた。
然し個人の死を全面的に待機した挙句に「非ゾンビ化」処置を施すというのは、倫理観点の問題がどうしても払拭しきれず。色々の団体の抗議や「彼らが人を喰わない」という事由もあって、事態発生後の事後対応が、手続き上、主な対処法となっていた。
近所の畑でサツマイモゾンビが発生したときは「猿山のお猿さんみたいだな」等とゾンビ傍観者を決め込んでいたけれど、とうとう我が家にも、同様の事態が発生したのだ。
葬式会場を飛び出して、じいさんは徘徊老人みたく歩き始めた。「走らないタイプのゾンビなんだ」僕は妙な納得感を得ながら、怯える皆の制止を無視し、じいさんを尾行した。挙句、じいさんは僕らの家へ辿り着き、裏の畑のさつまいもを、貪り始めた。じいさんの植えた置き土産だ。「焼いた方がおいしいのに」そう思ったけれど、近寄ったら噛まれるかもという感覚がよぎり、止めた。
「おい、映画みるぞ」―――そう云ってじいさんは、いつも僕を映画館へ連れて行った。でも、小学生の僕にゾンビ映画は早かったと思う。ヤクザものもそうだ。でも、僕にはそれが良かった。そういうときのじいさんの明るさが、僕は一番好きだったから。
「今更全年齢版かよ。食うならニンゲンとか、俺を喰えよ」
血生臭さを好んでいたじいさんに、僕はツッコミを入れた。するとじいさんは、突然、芋を喰いながら僕を見据え、二カッと唸っておならをした。それがどうにもおかしくって、僕は笑うしかなかった。葬式中は、全く笑えなかったのに。
業者が到着するまで、僕はもう少し、じいさんを見守る事にした。じいさんが僕にくれたものを、色々と思い出して。「これが置き土産なのかな」と、僕は思った。
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